第百十四話 血神祖とは
今回は血神祖について多きく語られます!
では第百十四話です!
まあ竜人族だからといって特段何かあるというわけではないが、ただ単に珍しかったというだけである。
エルヴィニアでもその姿は確認しているが、とはいえこの竜人族という種族は吸血鬼に並ぶほど個体数が少ない。元々第二神核が祖であるのだが、太古の昔からその性質は年々進化というか変化しており、神核は人間状態がフルパワーだったのに対し、今の竜人族は竜の姿のときにその真価を発揮する。
竜人族はその身に竜の力を宿し、自由に人間と竜の姿を取るため生物の中ではかなり強力な個体で、その強さは全力状態の吸血鬼に引けを取らないという。
そんな竜人族が俺たちの目の前に現れたのでついつい確認してしまったのである。
「といっても私は小竜にしか変化できませんけどね!」
とその受付のお姉さんは俺たちにウインクしながらギルドの奥に書類を取りに行った。
「なんで、ハクにぃはあの人が竜人族だとわかったの?」
アリエスは俺の顔を見上げたままそう問いかけてきた。
「あの第二神核と同じような気配を感じただけだよ。あいつは竜人族の祖だったって言ってたろ?」
「まあ、竜人族の根源は少し特殊だからな。ある程度集中すれば感じ取ることが出来る」
キラは俺の言葉にさらに言葉を重ねると、腕を抱えながら背伸びをした。
「ふーん。私も出来るようになるかな?」
「出来るさ。アリエスは今でも十分強いけど、多分このまま行けば俺も想像できないくらい強くなれる。そうすればこれくらい楽に出来るようになるよ」
俺はアリエスの頭を軽く撫でると、受付嬢の帰りを待った。
「お待たせしましたー!こちらが申請書類です!今から引退冒険者の中から検索をかけるのでお名前を聞いてもよろしいですか?」
するとルルンは前に進み出てその竜人族の女性に名前を述べた。
「ルルン=エルヴィニアです。随分昔に冒険者を辞めたから、なかなか見つからないかもしれないけど………」
「いえ、大丈夫ですよ。今の魔具はかなり進化していまして、名前さえあれば一瞬で探し出せるんです」
そう受付のお姉さんは言うとカウンターの下からお馴染みの登録用の魔具を取り出し、ルルンの名前を打ち込んでいった。
すると何故か突然その動かしていたはずの指が不意に止まった。
「え!?ルルンさんはSSランク冒険者だったんですか!?す、凄いですね!」
「あ、ああ、うん。ま、まあそうかな………ははは」
俺もその情報は初耳だったのだが、SSSランク級のエリアの動きに余裕でついていけるルルンならばその程度は当然かもしれない。
というかむしろ低いくらいだ。
ルルンは恥ずかしそうに髪の毛をクルクルと人差し指で丸めながら照れ隠しのような笑みを浮かべた。
その後、しばらくしてルルンの冒険者申請は無事に終了しルルンの元には新しくなった冒険者カードが握られていた。
俺はついでにこの村で起きた勇者騒ぎ及びカリデラ城下町について聞いてみた。
「あの、俺たちこれからこの村の人達のためにカリデラ城下町に行って血晶を取って来ようと思っているのですが、なにかカリデラ城下町について知っていることはありませんか?」
「え!?あなた達カリデラに向かうんですか!?そ、そうですね………。私も一度しか行ったことがないのであまり言えることは少ないのですが、強いて言うなら血晶はかなり入手しづらいです。私たちギルドもこの村の方々を救おうと色々なところに応援を頼んでいるのですが、どの団体も基本的に失敗に終わっています。そもそも血晶というのは存在数自体が少なくその希少価値も高いんです。私も興味本位で血晶をくださいって言ったらもの凄く怖い目線で睨まれましたので………」
エヘヘと言わんばかりにその受付嬢は頭の後ろに手を持って行き自分の過去を語った。
な、なんというか変わった人だな……。
普通そんな自分の失態談喋らないだろうに……。
「それと血晶を生み出すのはどのような吸血鬼でもできますが、噂では血神祖だけは別格だそうです」
「というと?」
「なんでも血神祖は血晶を生み出すのではなく、自身の能力で血晶病をコントロールできるらしいんです。それは発症も治癒も思いのままらしくかなり特殊な吸血鬼のようなんですよ。でもあくまで噂ですからどこまで信用していいものかわからないんですけどね」
確かにその情報が本当であったらこんなに楽なことはないのだが、とはいえ血神祖だ。
カリデラの主であり吸血鬼たちを統括する頂点。
そんな奴にまともに会えるかというのも眉唾物だ。これは頭の隅に置いておくだけでいいだろう。
「あとは………、やたら吸血鬼は好戦的です。目を付けられたら戦いを申し込まれるかもしれません。私がカリデラに行ったときも打ち倒されている冒険者をよく見かけましたから」
おい!!!
もの凄く物騒じゃないか!
何やってんの血神祖!ちゃんと民の手綱を引いとけ!!!
「でも朱の神であるあなたがいるのなら特に問題はないと思いますよ?なにせSSSランク冒険者ですしね!!」
その竜人族のお姉さんはギルドに入ったときに提示を求められた俺の冒険者カードを見ながらそう言った。
「いあや、それは少し困るんですけど………」
「他は……。あ!あそこの吸血鬼はよくナンパしてきます!後ろの女の子たちは気をつけたほうがいいですよ?」
やはり、どこかズレているその竜人族の受付嬢の言葉に頭を抱えつつも、その忠告を一応受け止めることにした。
アリエスたちに手を出してくる輩はカリデラであろうとなかろうと今まで少なからずいたので今まで通り問答無用で吹き飛ばす所存だ。
すると俺の後ろにいたキラが突然口を開き、お姉さんに話しかけた。
「おい、竜の娘。なぜお前はこの村にいながら血晶病にかかっていない?この村のほぼ全ての人間が感染したと聞いたが?」
「ああ、それですか。それは私が竜人族だからです」
「どういう意味ですか?」
俺はその言葉の意味がわからなかったのでさらに問い返した。
「竜人族は人族とは体の構造から違います。仮に人族には猛毒であっても竜人族にはまったくもって効果がないことなんて、ざらにあるんです。ですが咄嗟に竜化して守れたのはこのギルドにいた人達だけだったので、それ以外の方々はどうしようもありませんでした」
そう言うと申し訳なさそうに肩を落とし、受付嬢は俯いてしまった。
とはいえその身を挺して少ない人数でも住民を守ったというのは立派なことだ。
「いや、それでも十分凄いことです。あとは俺たちに任せて置いてください。なんとか血晶を集めて戻ってきます」
俺はそう言うと腰にささっているエルテナを掌で軽く押し込み、その意気込みを表現した。
「ええ、期待しています!正直なところもう私たちには打つ手がありません。あなたたちが最後の希望になるでしょう。よろしくお願いします」
その女性は深々と俺たちに頭を下げ俺たちを見送った。
帰り際に、褒賞金をたっぷり用意しておきますね!とまたしても緊張感のない台詞を吐いていたりしたのだが、それはスルーすることにした。
その後俺たちは何日分かの食料をとりあえず買い込み、翼の布に乗るとそのままカリデラ城下町に足を向けた。
このシュエースト村はカリデラ城下町を通る、エルヴィニア秘境と学園王国のラインから逸れているので、とりあえずはその道に戻るべく翼の布を走らせた。
俺の後ろではなにやらまた女性人たちがはしゃいでいるがシラだけはあまり笑顔を作らずその顔に不安を滲ませている。
よほどあの血晶病の患者たちが心配なのだろう。
その気持ちもわからなくないが、一日中そんなことを考えていたら逆にこちらが倒れてしまう。
よって少しでもその体を休めてほしいのだがシラは初めて会ったときもそうだったがやたら責任感が強い。それはダメなことではないのだが強すぎるのも問題だ。
とはいえ事象の生成の使用を拒んだ俺に声をかけることが出来るはずもなく、この場はアリエスたちに任せることにした。
俺はその間に先程まで集めていた情報を整理することにした。
それは血神祖についてだ。
これはギルド内部にいた数少ない冒険者や村の人々から聞いた話なのだが、血神祖というのは一人の少女がその役を担っているらしいのだ。
なんでも生まれたその瞬間からカリデラ城の奥深くに封印されていた最強の始祖と同化したらしく歴代神祖の中でも間違いなくトップクラスの強さを持っているという。
また血神祖という呼び名はその少女固有のものであり、今までのカリデラの長は神祖や真祖と呼ばれていたらしい。そこから鑑みても今の血神祖がどれだけ破格なのかが窺える。
場合によってはその少女に掛け合わないといけない可能性があるが、できれば穏便にすませたいものだ。
するとそんなことを考えている間に俺の気配探知に複数の魔物の反応があった。
どうやらその数は五十体ほどで、それほど多くはないがそれはやはり邪魔なので排除することにした。
ん?翼の布で上空に飛べばいいだろうって?
いやー確かにそれもいいんだけど、少しだけ運動しておきたいんですよ。適度な運動は必要だからね!だから今回は気配創造も他の能力も使わないよ!
俺は首元にいたクビロを翼の布の上に降ろすと、クビロにここの警備を頼んだ。
「クビロ、俺はあの魔物たちを片付けてくる。この翼の布は移動し続けるが気にせず走らせてくれ。あとアリエスたちは頼んだぞ?」
『やれやれ、主も相当な戦闘狂じゃな。まあ、任せておくのじゃ、何も心配はいらん』
「その台詞、戦闘欲だけで俺に襲い掛かってきたお前にだけには言われたくないぜ」
俺はそう言うと翼の布から勢いよく飛び降り、同じ速度で走りながら魔物たちの群れに突っ込んでいった。
見たところゴブリンやオークという低レベルな魔物ばかりで対した敵ではないが、それでも肩慣らしにはなるだろう。
腰にささっているエルテナを抜き太陽の光を反射させながら俺は一方的な蹂躙を開始した。
「軽い運動だ、エルテナ。少しだけ遊ぶぞ?」
同時刻、カリデラ城内部、玉座の間にて。
そこは薄暗く、人の気配がまったく感じられない空間で火の灯りもほとんどついてなかった。
外では今も吸血鬼たちが極普通の生活を送り、人生を謳歌している。
だがその部屋にいる一人の少女は、このときいくつかの違和感に気づいていた。
「南に大きな血の匂い………。それと西からも南ほどではないけれど強力な血の匂いがする………」
その少女は軽く右腕を横に薙ぐと、その瞬間巻き上がる鉄くさい匂いがする風と共に立ち上がり、こう呟いた。
「少し準備しておいたほうがいい………かな?」
それはもはや人間の域を遥かに凌駕した血神祖が動き出した瞬間だった。
次回はパーティーメンバーの胸の内について書ければいいと思っています!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




