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第百十三話 夢、そして準備

今回は十二階神という存在に迫ります!

では第百十三話です!

「やあ、ようやくだね、器君?僕は待ち焦がれていたよ、この日をね」


 そこはカーリーを退けた後の夜道。

 夜でありながら蒸し返すような暑さと、吐き気を意の中から呼びよせてくる血の味は、俺の口をぐちゃぐちゃにかき回し目の色を霞ませた

 隣にいるこいつもその体は既に満身創痍であり、至るところに傷を作っている。特に十二位や十位の戦闘で傷ついたそのわき腹からは、血は滲んではいないが明らかこいつの体力を削っているようだった。

 俺たちの目の前に現れたその男は空中に浮きながら俺たちを試すように問いかけてくる。


「まったく、十二階神というのは厄介な連中ばかりだったからね。早々に君たちにけし掛ける必要があったんだけれども、首尾は上々というわけだよ。いやあ、さすがは二妃とその器だ!」


 その男は闇夜に靡かせている短めの真っ白な髪を右手でかき上げながら、左手を空気を回すように横に伸ばした。

 この男から放たれている雰囲気は尋常ではない。

 それは気配探知や気配創造を使わずとも理解することができた。

 おそらく、今。下手に動けば一瞬で殺される。その考えが脳内を完全に支配し、俺の体を硬直させていた。


「だけどね。僕の目的も二妃の排除であると同時に、十二階神なんだよ。少しだけ特殊なね」


「そ、そんな馬鹿な!?じゅ、十二階真は全て倒したはず!あなたが十二階神なはずはないわ!」


 金髪の少女が声を震わせながらもそう答える。

 そもそも十二階神とは神妃リアスリオンが作り出した世界を統御する十二人の神々だ。それは今の時代では神話という形で伝わっているが、その元となっているのはこの十二階神たちなのだ。

 また何故か十二階神の序列は低いほど強さが増していくシステムになっており、色々と疑問を残しているものでもあった。


「へえ、まさか二妃である君が気づいてないなんて、本当に出来損ないだね」


「お、お前!」


 俺はその少女を馬鹿にしたその白髪の男を気迫だけで睨み返すと、気配創造で作り出した刃を構える。


「まあ、待ちなよ。せっかくだから説明してあげるさ。その何もわかっていないお姫様と聞いているといい。僕の正体をね」


 その男は空中で一度身を翻すとそのまま足を組み、座るような姿勢をとると、俺たちに向かって話し出した。


「そもそも不思議に思わなかったかな?何故十二階神が十二人で、序列が低ければ低いほど強くなるというこの仕組みを。他にも神の名を持つものはたくさんいる。それを差し置いて十二人の神々が選抜され特殊な地位を与えられる。それは確かに神妃が意図を込めて作り出したものにしても、規則性がないとは言い切れない。実際まさにその通りで規則性は存在しているんだけどね」


「規則性だと?」


「ああ、n進法という考え方を知っているかい?ゼロを初めの起点として考え数を刻む思考方法だ。十二階神にはこの考え方が無意識のうちに働いている。そしてそれはn進法で言えば………」


「………十二進法」


「正解だ、お姫様。で、神妃がこのあと何を思い浮かべたかと言うと、生命が如何なる力を持ってしてもなおその効果を受け続ける永遠の楔、時の流れの一旦。それは時空を曲げようと、別世界に逃げようと付きまとう見えない命のリミット。ここまで言えばわかるかな?」


「時間か……」


「正確には時計だけどね。ともかくこの十二進法という考え方は君たちが日ごろよく目にしている時計に使われているものだ。神妃はその数字一つ一つに神々を当てはめていったのさ。そえゆえ番号が大きいものが強力に、若いものが軟弱になる。進法というものは数字が進むほど数が大きくなっていくからね。十二階神の序列が逆さになっているのは、これが原因さ」


 白髪の男は淡々とそう話すと今度は頭を下に、足を空に伸ばして逆さの状態になり俺たちを見つめた。その目は月の光を反射し、心臓を抉るかのような鋭い視線になっていた。


「で、ここで僕の存在だ。二妃が言ったように既存の十二階神はもうこの世にはいない。君たちが見事に倒してしまった。だが神妃は僕の存在を無意識に作り出していることに気づかなかった。これは致命的だと思うよ。この十二進法という考え方は、本来ゼロを起点にして始まる思考方法だ。だが時計にその肝心なゼロという文字はない。確かに午前零時というものもあるけれど、あれは文字盤には配列されていない。つまりこの十二階神という神々の席には本来あるはずの存在が欠け、無理やり違う神々を押し込むことでその席を埋めているのさ。だがその結果十二階神という力の塊は、無意識に僕という完全なイレギュラーを作り出した。それは既に埋まっている一番目の席ではなく、隠された十三番目の神。それが僕だ。これでわかったかな?」


 つまり、簡単に言えば本来いたはずのゼロ番目の神が、今ここに十三位として降臨しているということか。

 十二位を越える序列を持つ以上、かなりの強さを保有していることはわかるが、それでも他の十二階神と違い、こいつを狙う目的がわからない。

 十二階神たちは神話大戦の遺産であるアリスを完全に消滅させるべく、執着に狙っていた。だがこの目の前にいる男はその様な目的がまったく読めないのだ。


「その十三位が何故こいつを狙う?」


 俺は咄嗟にそう呟いていたのだが、俺の口からはその少女の名前は何故か出てくることはなく、代名詞でしか指し示せなかった。


「そりゃ、僕がこの世界の頂点に立つためさ。神妃の力が残っている限り僕は最強になりえない。そこにいる二妃ともう一つの二妃の力を宿した君を倒してこそ僕の目的は達成されるのさ」


 俺に宿っているもう一つの二妃の力だと?

 何を馬鹿なことを。

 俺が持っている力は妃の器から漏れ出ている三つの力だけだ。


「意味のわからないことをいうんじゃ………」


「そこにいるんだろう?神妃リアスリオン?」


 すると途端に俺は体の自由を何者かに奪われ、指一つ動かせなくなった。

 そしてその何者かは俺の口を勝手に動かし喋り始めた。


「誰かと思えば、所詮は偶然の産物か。貴様程度が私の力の仕組みを語るでない。貴様が推し量れると思わないことだ」


「いいねえ、あのときのままの絶対感だ!だけど、力を失っているあなたがこの僕にどこまでついて来られるかな?」


「抜かせ。たかだか十二階神の模造品ごときにやられるほど柔ではないわ」


 するとその男は目を見開くと、楽しそうに両手を大きく開きこう宣言した。


「では始めよう!この十二階神序列十三位ゼロと、君たち神妃を力を保有するものたち。この戦い『真話大戦』の勝敗を今ここで付けようじゃないか!!!!」




 一年前に行われた真話大戦、つまり俺とアリスの戦いはこうして最終局面に突入したのだ。











「ハークーにーぃー!もう朝だよ!早く起きて!!!」


「ごふっ!?」


 俺は腹部にもの凄い勢いでぶつかってくる衝撃によって目を覚ました。それは空っぽになった胃に中にある胃酸を逆流させ、思わず吐きそうになってしまう。


「ゲホ、ゲホ、ゲホ。あ、アリエス………。さ、さすがにそれはやりすぎだ……」

 俺の目の前には白く長い髪を揺らした少女が顔を膨らましながら俺の腹の上に乗っていた。


「だって!何回もノックしたけど起きなかったんだもん!」


 見れば隣に寝ているキラもすっかり爆睡しているようで、俺が起きたいまでもすやすやと目を閉じている。


「にしたって、この起こしたかはちょっと……」


「文句は言わない!」


「は、はい………」


 十一歳の少女に言いくるめられる十八歳というのもなんだかまずい気がするが、今のアリエスに逆らうことは俺には出来なかった。

 それは先程まで見ていた夢が原因なのだが、あれは完全に真話大戦の情景だ。しかもまた俺はアリスの名前を呼ぶことが出来なかった。

 目を覚ましてしまえば平然と思い出せるのだが、何故か夢の中ではその限りではなかった。

 それにしてもあいつの夢を見るとはな。

 正直言ってカーリーほど憎むことは出来なかったが、アリスの命を狙っている以上俺たちはあいつ、つまり十三位ゼロと戦ったのだが、その戦いは壮絶なものとなった。

 この気持ちのいい朝に思い出してはいけないレベルで。

 俺はなんとかその記憶を吹き飛ばすと、アリエスをそっと退かし、ベッドの上から立ち上がる。


「うーん、よ、よし。それじゃあ顔を洗ってから食堂に行くからアリエスたちは先に言っておいてくれ。キラは俺が起こしておくから」


「うん!」


 アリエスは元気よく頷くと、そのままトコトコと宿の通路をかけていった。

 その姿を眺めた後、洗面に向かい夏とは思えない冷たい水を顔面意に叩きつけ、眠気を向き飛ばしたあと、白いローブを身に着ける。

 で、俺はいまだに気持ちよさそうに寝ているキラを起こすために、第二ダンジョンでやったように全力で額に指を弾いた。


「いい加減に起きろ!」


「ぎゃあ!?」


 それは綺麗にクリティカルヒットし、キラの意識を覚醒させる。

 その後キラが少しだけ機嫌が悪かったのは余談だ。









 俺たちは宿で出された朝食を食べ終わると村の内部を見て回ることにした。

 というのも一体カリデラ城下町がどんところなのかもわかってない以上、情報収集くらいはしておこうと言うことになったのだ。

 だが、血晶病にかかっている人達にそんなことを聞いたところで逆に不安がらせるだけだと判断した俺たちは、この村にもある冒険者ギルドに向かうことにした。さすがにそこにはこの村と無関係のものもいるだろうし、カリデラ城下町に行ったことのあるやつもいるかもしれない。

 俺たちはその結論にいたると、その閑散とした道を只管歩き冒険者ギルドを目指す。

 十分ほど歩くと、俺たちの前にやたら豪華なレンガ造りの建物が姿を現した。

 それはでかでかと入り口に「冒険者ギルド」とかかれており、確認する必要もないほどわかりやすい建築物だった。


「なんていうか……、大胆だね」


「そうですね………」


 アリエスとエリアが並んでそう呟く。

 それに関してはまったく持って同感で、俺もその言葉に頷いておいた。

 するとルルンが俺のローブの袖をちょんちょんと引っ張りながら俺に話しかけてくる。


「ねえ、ハク君?どうせギルドに行くなら私の冒険者資格、復活させていいかな?そのほうが何かと便利だろうし」


 冒険者資格というのはもし引退するのであれば、その資格を放棄することができる。優秀な冒険者になれば戦いから退いていても国や貴族から応援の申請があったりするため、放棄しておけばその発言を取り下げることができるのだ。

 どうやらルルンも冒険者資格を捨てていたらしく、それを今戻したいという。

 過去の冒険者リストがギルドにはあるので基本的に復帰することはなんの問題もなく実行できる。


「ああ、いいぞ。それじゃあとりあえずは受付だな」


 俺はそう言うとそのギルドの中に足を踏み入れた。

 やはりその内部も壁のいたるところにレンガが見えており、全体的に暖かい造りの建物になっていた。

 俺たちはそのまま全員で受付に向かうと、そこにいた灰色の髪をした受付のお姉さんに話しかける。


「あの、すみません。仲間の冒険者資格を復活させたいのですが、いいでしょうか?」


 するとそのお姉さんは人差し指を顔の横に立てながら元気よく言葉を発した。


「もちろん!何の心配もいりません!この私にお任せください!」


 俺はこのときふとあることに気がついた。それはおそらく俺にしかわからなかったことだろうが、なんとなくだがあの黒い神核の存在が頭に浮かんだのだ。


「もしかして、あなたは竜人族ですか?」




「あれ?気づいちゃいましたか?そうです!私は立派な竜人族なんです!」

 



 こうして俺たちはこのシュエースト村にて少し変わった竜人族の受付嬢に出会うのだった。


次回は冒険者ギルドでの一幕とカリデラ城下町に向かいます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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