第百五話 動き出した時間
今回はハクの心のお話です!
主人公というものは時に葛藤があってこそ大きくなるものだと思っています!
では第百五話です!
目を覚ました。
それは俺の意識をぼんやりと覚醒させ、真っ白な天上を映し出す。普段ならもっと強烈な眠気が襲ってくるはずなのだが、今日は睡魔の手は俺に差し伸べられることはなく、頭の重さを軽々と振り払う。
俺は無造作に右手を天上に向けて突き出す。
それは朝の光を反射させ薄っすらと血管を浮き上がらせた。その手を今度は額に移し自分の目を覆う。
目を開いた感じだと、この部屋はハルカの屋敷の俺に割り当てられた部屋のようでベッドの隣には鞘に納まったエルテナが立てかけれていた。
だが俺の右手はその光景を見た瞬間、両目を隠してしまった。
俺の意思とは裏腹に、現実を隠すように目の前の景色を閉ざしてしまう。それはなぜかわからなかったが、心に残る棘がそれを物語っている様な気がした。
しかし目覚めた以上、起き上がらないわけにもいかないので右手を退かし、そのまま体を腹筋を使い持ち上げる。
そこには誰一人の気配も感じられず、物陰も見えることはなかった。
俺はそれを確認すると、自分の相棒に声をかける。
「リア」
『むう?どうしたのじゃ?……………というわけにはいかないかのう………』
リアは初めはいつもの調子で俺に反応したがすぐさま思いトーンの声に変えてきた。
「…………俺は、とんでもないことをやらかしたみたいだな」
『記憶があるのか?』
「今回はな………。とはいえ自分の制御をできなかったわけだから、情けないばかりだが」
俺が豹変してあのパーティーを壊滅させているとき、一応俺の記憶は働いていた。だが体の主導権は俺にはなかったし、どうしようもできなかったのだ。
だがそんなものただの言い訳でしかない。
ましてダンジョンで神核に気をつけろと言われていた直後だったのに、それをすっかり忘れあの人格に体を渡してしまった。
もし俺が剣で突き刺した程度で死ねるなら、今すぐ隣にあるエルテナで体を切り裂いていたかもしれない。
『…………。原因は私も神核の考えと同じじゃ。あのエルフたちを拘束していた鎖を全て粉砕した力。あれは間違いなく主様のあの能力じゃ。であれば…………』
「ああ、俺が妃の器である限り奴は消えないんだろうな………」
俺はリアにそう答えると、ベッドから立ち上がりエルテナを腰に装備し、転移でエルヴィニアの上空に浮かび上がった。
『よいのか?皆主様を心配しておるぞ?』
リアが俺に確認を促すように問いかけてくる。
当然、俺はパーティーメンバーにとんでもない迷惑をかけた。たくさんの人を悲しませ、傷つけた。
それは勇者を打ち倒したからといって帳消しに出来ることではない。
だが今は少しだけ、一人になりたかった。
「……………なあ、リア。俺はあのとき本当にアリスを助けられなかったのかな」
俺はリアの質問には答えず、自分の質問をぶつけた。
それは真話大戦の最終局面。
俺が世界とアリスを天秤にかけて、アリスを消滅させたときのことだ。
『…………それは、私への嫌がらせか?』
確かに元を辿れば二妃なんてシステムを生み出したリアが諸悪の根源なのかもしれないが、俺はまったくもってリアを責めるつもりはない。
「いや、そういうことじゃない。あのとき、俺はアリスを消す以外の方法は取れなかったのかなと思ってさ。もし、奴が宿っているあの力を完全に制御できていればアリスを救うことができたのかな………」
『主様!』
リアは俺のその言葉にいきなり声をあげて、俺の脳内を揺さぶった。
『それは今までの自分の行動をすべて破壊する様な考えじゃ。私が見た限り主様はあの真話大戦において全ての場面で全力じゃった。それを蔑ろにするなど、主様が許しても私とアリスが絶対に許さん!』
心の中で見えているリアの顔は完全に怒っており、長い髪の毛も少しだけ逆立っていた。
「………………。そう、そうだな………。それを俺はわかっていたはずなのに、なんだか頭が混乱しているな」
俺はその空を飛び回りながら、できるだけ思考を整理しようとする。
見ればエルヴィニアの里は帝国軍の侵攻によって壊された里の修復工事が行われているようで、黄金の閃光のメンバーもその工事を手伝っているようだ。
それを見た俺は静かにプチ神妃化を行い、右腕を空中に伸ばすとそのまま力をエルヴィニア全土に撒き散らした。
それはリアが世界を作り出したときの力で、名を「事象の生成」という。
万象狂いの元になった力であり、俺も神妃化を行わなければ完全に使うことはできない。
俺はそれをエルヴィニアの里に使い一瞬にしてもとの秘境の姿に戻してみせた。
地上では驚き慌てふためいている人達が見えるが、俺はそれには気にせず再び空を駆ける。
『その優しさは、あの者にはないものじゃ。主様のそれは胸をはっていいことなのじゃ。それに私が力を貸すのはあの者ではなく主様で、私が認めているのも主様なのだ。主様は主様らしくしていればいい。次にあの者が出てこようとすれば、私も全力で止めてみせよう』
リアの言葉には俺を包み込むような優しさがあった。それはあの真話大戦を生き抜いたもの同士ということもあるが、世界を作り出した全ての頂点に立つものの言葉のようにも感じた。
「そうだな。俺は俺らしくしていた方がいいのかもしれない。でも、あいつがやらかした尻拭いはしないとな」
俺はリアにそう言ったあと、ハルカの屋敷に飛んで向かった。
いざついてみれば俺の部屋と同様に屋敷内は閑散としており、ハルカの付き人やメイドはおろかアリエスたちの姿すらなかった。
「みんな外にいるのか」
俺はそう呟きながら、もう一度自分の部屋に戻る。
そしてハンガーにかかっていた返り血のついた自分のローブを能力で綺麗にした後、それに体を通し、いつも通り腕の部分をまくった。
「そういえば俺ってどれだけの間眠っていたんだ?」
『ん?うーん、ざっと三日ぐらいじゃな』
三日!?
おいおい、それは普通腹が減って死んじゃうレベルだぜ!?
それはさすがに神妃と同化した肉体のため問題はなかったが、さすがに寝すぎだろ、俺!
俺はそう自分に突っ込みを入れると、一番使い慣れた俺の原点とも言える能力である気配探知を使用しアリエスたちの気配を探る。
どうやらアリエスたちはこの里の中央、ダンジョンの前にいるようだ。
アリエスは俺が豹変したとき、なにかとてつもない力で俺を引きずり出した。
その力の反動によって気を失っていたはずだが、何の問題もなく復活しているようだ。
「なあ、あのアリエスの力は何だと思う?」
俺は力のことなら博識なリアに問いかける。
『………うむ。あれは確かどこかで似たようなものを見たことがあったような気がするのじゃが…………。思い出せんのう』
「そうか……」
リアでもわからないのなら俺ごときが考えたところで無駄だろう。
俺はそう思うとハルカの屋敷をでてダンジョンの前まで向かった。
といっても自分に隠蔽術式をかけて歩く。
俺はなんといっても黄金の閃光のメンバーを半殺しにしている。そんなやつが堂々と道の真ん中を歩けるわけがない。
足取りは相変わらず重いがたっぷりと時間をかけて、ダンジョンに進む。
先程俺が里全体を直したため、修復作業をしていた人達はその現象に驚きながらも、直ったものには手をつけることもできず、道具の片付けをしている。
そしてとうとう俺はダンジョンの前、つまりエルヴィニアの中心である大樹の前にたどり着いた。
目に映るのはエルフたちの様子を順番に見ているアリエスたちだった。
エルフたちはあの鎖に魔力も体力吸い取られていたので、単純な怪我を治しただけでは完全回復とはいかないらしく、その回復経過をアリエスたちは見ているようだ。
『ほれ、いつまでその術式を使っておるのじゃ。男なら覚悟を決めんか!』
「わ、わかってるよ……」
自分が仕出かしたこととはいえ、やはり皆の前に姿を現すのは少しだけ気後れする。これで真話大戦を潜り抜けたなど笑われてしまうかもしれないが、それとこれとはやはり別なのである。
え、えーと、なんていえばいいんだっけ?
迷惑をかけてごめんなさい?
心配させてごめん?
いやいや、それじゃ上から過ぎる気がする………。
『うがーーーーーー!!さっさとせんか主様―――――!』
「おわっ!?ちょ、ちょっと待てって!!!」
俺が物思いに耽っていると、リアが俺の体を半ば無理やり動かし隠蔽術式を解いてしまう。
瞬間、俺の存在が周囲に明るみになった。
それはその場にいる全員の視線を集め、時間を止める。
「あ、あはは………。よ、よう……」
俺はどうしていいかわからず、右手を頭の後ろに持って行きながら苦笑を浮かべながら、前に一歩進んだ。
しかし、そんな俺に反してその場は固まってしまったかのように動かず、静かな時間が流れる。
あ、これはまずいか?
と、俺は咄嗟に考え転移で逃げ出そうと思ったのだが、その硬直を破ったのは白い髪を流した一人の少女だった。
「ハクにぃ………」
アリエスはそのまま俺に一直線に歩いてきて、俺の目の前で一度止まった。
「あ、アリエス………。そ、その、俺……」
俺がアリエスに対して言い訳の言葉を言おうとしていると、その言葉を遮るようにアリエスは俺の胸に勢いよく飛びついてきた。
「ハクにぃ!!!よかった、よかったよおおおお!!!私、私!!!!ハクにぃが本当に消えちゃったかと思って、どうしたらいいかわからなくて………。うわーーーーん!!」
アリエスは俺の胸に飛びつくなり、両目に大きな涙を浮かべて泣き出した。
俺はとりあえずその綺麗な髪を撫でながら、辺りを見渡す。
すると、そこにいる全員は俺に感謝の目線や尊敬の眼差しを向けていた。それは決して俺という存在を憎むものではなく、間違いなく暖かく優しいものだったのだ。
『だから言ったじゃろう。主様の優しさは主様だけのものじゃ。それは周囲の人々に伝染し、まとめ上げる。それは決して畏怖や邪念などではない。返ってくるものも同様に人々の優しさなのじゃ』
俺はリアの言葉をしっかりと聞き届け、アリエスの体を軽く抱きしめた。
ああ、なんだ。俺は今まで何も周りを見れていなかったんだな。
するといつの間にか俺のパーティーメンバーが近寄って来ていた。
「ハク様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ………」
「お待ちしておりました、ハク様!」
「まったく妾に心配をかけるなど、マスター失格だぞ」
『遅かったのう、主?』
お帰りなさい、というのはいささか違うのかもしれないが、その言葉は何故だか心の中に空いていた空間にぴったりとはまった気がした。
俺はみんなの笑顔をもう一度眺めると、その全てに微笑みかけるように言葉を紡いだ。
「ただいま、みんな」
その瞬間、どこかで俺を見ているだろうアリスが笑っているような気がしたのだった。
このお話は真話大戦を経て、強さを培ったハクの新たな問題とそれを支えてくれる仲間たちを意識しながら書きました!
ハクは確かに強いです。ですがそれゆえ弱い部分もある。それは羨ましい悩みかもしれない。でもそれはハクの心の中で大きな杭になっているものだと思うんです。
この話は、それとこれからどう付き合っていくのか、という話の序章になっていれば幸いです!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




