第???話 青と金の衝突・そして覚醒
ご無沙汰しております。
長らく続きを執筆できず申し訳ございません。
今回はこの物語の最終決戦ともいえるシーンを先に書いてみました。
ですのでいつもより分量は多めです。とはいえかなり省きながら書いていますが……。
久しぶりになろうのマイページにログインしましたが、色々な機能がついていてびっくりしています。
あとがきに用語解説と、今後の活動について記載していますのでぜひご覧ください。
生前の究極神妃が作り出した最強の配下、四百九十六の指の生き残りである五体の指が始中世界に顕現してからちょうど一年。裏反世界に逃げ隠れていた彼らは同世界の神妃である女性のハクを瀕死状態まで追い込み始中世界へと侵略を進めてきた。
結果的に始中世界の全土とその世界に生きるすべての生命体は主犯であるナンバーピリオドの空想天園、虚空の丘陵によって作り替えられてしまう。
それを残された最後の希望であるアリエスはたった一人で争い続けてきた。五体いた四百九十六の指も残すところ一体だけとなり、始中世界の九割以上が始中世界へと戻すことに成功していたのである。
しかしその最中、突如として現れたナンバーピリオドの攻撃によってハクが意識不明となり、リアの体を奪いさらなる力を獲得してしまった。
ハク不在の中、アリエスは始中世界を元に戻しながらかつての仲間たちを取り戻しきたる決戦に向けて準備を進めていく。
そしてついに時はきた。
ナンバーピリオドが復活させた仮初の四百九十六の指を他の仲間たちが迎え撃つ中、アリエスとユノアはすべての元凶であるナンバーピリオドと対峙していた。
リアの体を奪っているナンバーピリオドはこの瞬間を待ち侘びていたような笑みを浮かべ、対するアリエスは癒えない傷を抱えながら怒りを滲ませた顔でナンバーピリオドを睨みつけている。
ユノアはアリエスの後方からそんな二人を見守っているが、これには理由があった。
それは数時間前に遡る。
『え!? ナンバーピリオドと一人で戦う!?』
『うん。現状ユノアの「色域」は生き残ることに特化しすぎてるから。階梯が上の金の色域には太刀打ちできない』
『で、でも、アシストくらいなら……』
『ダメだよ、ユノア。それでユノアに何かあったら私はレントに顔向けできなくなっちゃう。……それに、これは私の使命だから』
『使命……?』
『多分だけど、今ここでハクにぃが目覚めても戦況は変わらない。今のナンバーピリオドはあまりにも強すぎる。色域を持っていない存在が太刀打ちできるような相手じゃない。……だとすれば確認できている色域保有者の中で一番階梯が高いのは私。だからこれは私の使命。私が勝てなかったら、それこそこの世界、ううん。すべての想界が滅んでしまう。だから————』
『なら、せめて背中は私の預けて』
『ユノア?』
『……確かに、アリエスがいなかったら、今頃世界は滅んでいた。だからアリエスにはその資格がある。でも仲間がいることは忘れないで。アリエスは一人じゃないんだから』
『……うん、わかった。ありがとう、ユノア』
結果、ユノアはアリエスを見守ることになったのだ。ハクが意識不明になってしまった要因も、認識外からの奇襲。であれば目の前の相手に集中せざるを得ないこの状況において背中を守ってくれる存在は非常に大きい。
だからこそユノアはその役目を言って出たのだ。アリエスがその力を全力でぶつけられるように。
などと過去の記憶を思い出していたユノアだったが、場の空気が変わったことで無理やり視線を引っ張り上げられてしまう。
そしてその主はリアの顔に金の瞳を宿しながら喋り始めた。
「ふは…………。ようやくだ、ようやくだな、神姫よ。今日この場で全てが決まる。全てが決着するのだ。この俺の目を掻い潜って積み上げた力を見せてみるがいい」
「……言われなくても、そうするよ」
「だが奇怪なものだ。かつてお前たちが星神に記憶を奪われたのもこの大地だったか。つくづくお前はこの場所に縁があるとみえる」
「神様の配下だっていうのに縁なんて不確定なものを信用するの?」
「ふは。無論だな。何せ俺には未来が視えている『確定した未来』、つまり『運命』がな」
「ちっ」
二人が対峙している場所。
それはオナミス帝国があった北の大地。この場所だけいまだに始中世界に戻ってはいない。その理由は簡単。この場所をナンバーピリオドが拠点としていたからだ。
そしてこの場所はナンバーピリオドが言うようにアリエスにとっても因縁がある場所だった。
だがそれはある意味で言えばアリエスにとって好都合だった。
なにせ、その時の怒りすら力に乗せることができるのだから。
「……なら、この戦いの勝敗もあなたには視えてるの?」
「ふは! それこそ愚問だ! 万が一でもお前に勝ち目があると思ったか? 創造者である俺が調停者に叶うわけがないだろう。未来視など使う必要もない。階梯が違うのだ、階梯が」
「ふっ……。でもそれも偽物の力だけどね。あなたはリアの体と力を掠め取ったただの偽物だよ。今まで好き勝手できてたのは他に色域保有者がいなかったから。だからあなたの点かもここで終わり」
「ふは。なら試してみるか?」
「初めからそのつもりでしょ、お互い。なにせ————」
「そうだな、お互い————」
『目障りだから』
その言葉が両者から発せられた瞬間。
強大な力が真正面から激突する。
「青の色域」
「金の色域」
両者ともに色域を発動する。
色域とは究極神妃の誕生と共に出現したすべての世界に通ずる指定制の力のことだ。色域保有者は全ての歴史、全ての時間軸、全ての想界、全ての位相の中にもそれぞれ一人しか存在せず、保有者が死亡した際は二度と保有者が現れないルールとなっている。
ナンバーピリオドが作成した色域の紛い物である「識域」とは似ても似つかない能力であり、いくつか決まり事が存在する。
一つ、色域の数。
色域は色によってランク付けがなされている。
上から、銀、金、青、赤、白、闇、光、黒。
色域はこの八つから増えることも減ることもない。そしてその保有者は色域という能力自体が判断して指名する。
そのうち銀の色域は究極神妃が持っていたとされるため、永久欠番状態。
そして次席である金の色域、これの保有者がリアだった。リア自身、その力に気が付いてはいなかったためリアの意識があるうちに覚醒はしなかったが、その事実に気がついていたナンバーピリオドが体を奪い、支配することで開花。本来であればリア以外に使用できないはずの金の色域を不完全ではあるもののナンバーピリオドが掌握したのだ。
そしてアリエスは金の下にあたる青の色域。
アリエスが色域に目覚めたのは四体目の四百九十六の指と戦っている最中。アリエス自身この強力すぎる力をまだ完全に制御できていないものの、この力こそがナンバーピリオドを打倒できる力だと確信していた。
そしてもう一つ、知識階梯。
色域保有者には色域に関する知識が段階的に閲覧できるようになっている。そもそも色域自体が強力すぎるがゆえに秘匿されている力のため、色域保有者以外はまずその存在を知覚することすら難しい。
そこにさらなるプロテクトをかけるために用意されたのが知識階梯だ。上位の色域保有者でなければ、自分の色域以外の情報を閲覧することができない。情報こそが戦況を左右する武器だと知っている者たちにとって、この階梯は非常に大きな意味を持ってくる。
だが逆にこの知識階梯によってもたらされた情報こそがアリエスに正気を見出させていた。
青の色域を発動したアリエスは、瞳が青く輝き、水色のオーラを体に纏っている。対するナンバーピリオドも瞳が金色に輝き黄金色のオーラを放出していた。
そして両者の右手から必殺即死級の攻撃が繰りだされる。
「永久絶命結果・青の迷宮!!」
「黄金根絶天体・金の惑星!!」
刹那。
世界が二分された。
青い大きな結界。その表面には蠢く奇妙な線が幾重にも張り巡らされている。その内部は圧倒的な重圧と、空間や位相すら凍りつく絶対零度すら超越する絶命の冷気が支配している。
反対には無数の黄金の惑星が顕現していた。その一つ一つが膨大なエネルギーを持ち、内部にさらなる力を内包している。その惑星はただの星ではなく、想界。つまりイデアが具現化した空想天園。
想界を支配する青の結界と、想界を創造する金の天体。
これが両者の必殺技。
この勝負はどちらかがこの力を維持できなくなった瞬間決着する。
無数の惑星の中に無数の空想天園が煌めくナンバーピリオドの攻撃は、圧倒的な物量で押しつぶす破壊の雨。それをアリエスの迷宮は完成された空間支配によって無効化している。
だが自力の差は明確だった。
「くっ……!」
「ふは! どうした、その程度か? 青の色域、俺の知識階梯でも覗けない色域の王たる証。それを持つお前がこのザマとはな!」
「ま、まだ……。まだ、負けてない!」
「醜い足掻きだ。ならば押し返してみるがいい」
「言われなくても!」
その激突は周囲にいるものたちを震撼させた。
ユノアは己の実力不足を嘆き、キラは青く場を噛み締めることしかできず、サシリは剣を握ったまま立ち尽くしている。
シラとシルは震える体を落ち着けようとお互いの体に腕を回し、エリアとルルン、クビロは地面に膝をつきながらアリエスの無事を祈っている。
そしてレントは————。
「……ここからだ。ここまでは想定内。アリエス、お前の最奥はここからが本番だ」
レントは一度だけ見たことがあった。
四百九十六の指の序列二位、ナンバーセブンとの戦いが終わった数日後。アリエスがきたる決戦に向けて修行していたときに。
永久絶命結果・青の迷宮の最奥を————。
レントが言葉を発した直後。
アリエスの纏う空気が変わった。
より凍てつき、より研ぎ澄まされた感覚が周囲に漂う。
対峙しているナンバーピリオドもそれを感じ取ったのか少しだけ眉を下げる。
が。
その瞬間。
ナンバーピリオドの背後に「何か」が現れていた。
(これは————)
その思考すら今のアリエスには遅い。
すでに「それ」はこの場に呼び出されていた。
ゆえに、気がついたときには、ナンバーピリオドとその惑星は「噛み」つかれていた。空を覆うほど巨大な「二つの顎門」に。
「がはっ!?」
それによって一気に形勢が逆転した。
ナンバーピリオドの黄金根絶天体・金の惑星は崩壊し、アリエスの迷宮が世界を覆う。大地は凍り、空は青に染まった。
しかしその空は奇妙な状態にあった。
空の動きが早い。雲の流れるスピードが異常なまでに早いのだ。それはまるで、何か巨大な「生き物」が動いているかのような————。
「な、なに、あれ……」
思わず声が溢れるユノア。その顔に血の気はなく、体の奥底から溢れ出てくる恐怖に震えながら、その光景を見ていることしかできない。
そんなユノアから離れたところで戦っているレントたちもその衝撃に言葉を失っていた。
なにせ今、目の前に広がっているのは————。
「ウロ・ボロス」
ウロボロス。
それは伝承の中にて語られる己の尾を噛んでいるヘビ、もしくは竜を指す。その姿から不死や再生など、循環や永続といった概念が含まれた象徴として伝わっている概念だ。
しかし、その史実を知っていたとしても理解できない光景が目の前には展開されている。
ナンバーピリオドに食らいついているのは青い双頭の竜。いや体は東洋の龍であり、その背中から西洋の竜を思わせる両翼が生えている。加えてその顔は誰もが想像するドラゴンのような形をとっており、この世の全てを噛み砕いてしまいそうなほど大きな牙が二つ口からはみ出していた。
双頭と言ったものの、それはウロボロスという概念的な話をした場合、それに当てはまるということ。実際は二体の竜がアリエスの背中から展開され、空を覆いながらナンバーピリオドに噛み付いているという状況。
つまり先ほど感じていた空の違和感。雲が早く動いていると錯覚していたそれは、この竜の体が蠢いていただけだったのだ。
それだけ巨大な存在が放たれたというのに、ナンバーピリオドは自身の背後にそれが近づいていることに気が付かなかった。しかしそれこそが、この攻撃の最大の武器でもある。
「ぐ、があああああああああああ!? な、なぜだ! なぜ接近に気が付かなかった!?」
「……私の迷宮の中だからだよ」
「ちっ。己の空間を俺の背後まで広げていたか!」
アリエスの永久絶命結果・青の迷宮は空間支配の究極系。己の世界を作る空想天園と違い、すでにある空間を支配下に置く。空想天園による独自ルールが敷かれた状況であっても、後手に発動できる迷宮であれば支配権は上書きできるのだ。
これによってナンバーピリオドとの押合いの中、気づかれることなくその背後だけ空間を支配することに成功したのだ。
そしてこの「ウロ・ボロス」という攻撃はそんな迷宮の中でのみ発動できる。
「ウロ・ボロスは空想天園すら食い破る最強の矛。一度噛み付いたら二度と放さない。その体を食いちぎるまで」
「ぐがあああああああ! おのれ、この期に及んでこんな隠し玉を残していたとは……」
ナンバーピリオドの黄金根絶天体・金の惑星はすでにウロ・ボロスによってその大半が噛み砕かれていた。残る惑星は数える程度しかない。加えてナンバーピリオドはその顎門から逃れようとそちらに力を咲いている状況。
お互いの必殺技による勝負はアリエスの奥の手によって決しようとしていた。
だが。
だが。
だが。
ドクン。
アリエスの心臓が大きく跳ねる。
悪寒だ。
ウロ・ボロスを展開しているというのに、それすら食い破って噛み付いてきそうな寒気。喉元に突きつけられたその殺気に言葉が出せない。
「あ」
次の瞬間。
「…………ふは。確かに面白い隠し玉だ。だが、それだけでは俺は倒せん」
「ま、待って!」
ナンバーピリオドは自身に噛み付いているウロ・ボロスの頭を撫でる。その手が触れた直後、空の色が再び変化した。
ウロ・ボロスの体で覆われていた空が金色に輝く。
その腹を食い破って現れたのは一つの大きな天体だった。
「まったく、どの程度の力かと思い、わざとくらってみたはいいものの、期待外れだったな。お前の空間支配は素晴らしい。そしてこの竜も。俺でなければ今の一撃で終わっていただろう。だが、足りない」
「た、足りない……」
「火力が、足りない。まったくもってな」
「くっ……」
「なぜ金の色域が青の色域よりも上位の色域かわかるか? それはどれだけ足掻いても青の色域は金の色域に届かないからだ。それだけ工夫し、どれだけ力を磨こうが関係ない。両者には埋められない差がある。能力の質は問題ではない。器から放たれる純然たる火力がお前には足りないのだ」
今のウロ・ボロスは青の色域が出せる最強で最高の一撃だ。それ以上は存在しない。それをナンバーピリオドは真正面から己の惑星で叩き潰した。これを火力不足と言わず何と言えばいいのか。そ例外の答えを誰も持ち合わせていなかった。
勝ち誇るようにそう語ったナンバーピリオド。右手を軽く振るっただけ、噛み付いていたウロ・ボロスを吹き飛ばしてしまう。先ほどまで青一面だった世界は金色一色に染め上げられてしまった。
ウロ・ボロスに永久絶命結果・青の迷宮。それを使用するために消費した大量の魔力。それを全て失ったアリエスは膝を折ってしゃがみ込んでしまう。
その姿を見ていたユノアやレントたちに真の絶望が襲いかかる。ハクが意識不明の今、ナンバーピリオドに勝てる唯一の可能性が今この瞬間潰えたのだ。
それはすなわち全世界、全想界の敗北を意味する。
だがその事実をわかっていてもなお、彼らはアリエスを助けにはいけなかった。それほどまでに圧倒的な実力差が彼らとナンバーピリオドとの間にはあるのだ。
色域とはそういう力だ。
それを保有しているか、否か。
それだけの差が全てを決してしまう。
だからこそ。
誰も。
アリエスの敗北を疑わなかった。
————そう。
アリエス自身を除いては。
「ッ!?」
ナンバーピリオドがここで初めてアリエスから距離を取った。それはもはや反射的な行動。ナンバーピリオドの生命としての本能がそうさせたのだ。
(なんだ? この違和感は……。青……、ではない。これはさらに黒い……)
ナンバーピリオドが見つめる先。
そこには蹲るように膝をついたアリエスがいる。だがその足はまだ地面に突き立てられていた。そしてゆっくりと、ゆっくりと折れた膝が空へ向かって伸び上がった。
「……敵を騙すなら、味方から。あなたは色域の知識階梯である程度の色域の力を把握できる。でもあなたは油断しない。私や仲間のみんなの反応すら観察して相手の実力を推し量る。なら、本当に最後の奥の手は私だけが知っていればいい。そうすればあなたすら出し抜ける」
金の空に雲がさす。
今度は紛れもなく雲だ。それも闇を溶かしたような真っ黒な雲。水色の稲妻が迸る空から落ちてきそうな漆黒の雲。
それが新たな力の覚醒を知らせてくる。
「お前……。まさか色域というルールすら……」
閉じていたアリエスの瞳が開かれる。それと同時に白かった髪は闇に染まり、青く輝く瞳に青炎が宿った。凍てつくような空気は一変して熱を持った燃える氷に覆われていく。
「黒天の色域」
その言葉と同時にナンバーピリオドの周囲に四体の竜が出現した。それはウロ・ボロス。つまり迷宮も同時に展開されていた。青と黒の鱗に包まれたそれは先ほどのウロ・ボロスが霞んでしまうほどの力を持っている。
つまりアリエスは青の色域では最初から勝てないと踏んで新たな色域を獲得していたのだ。
「……ありえない。色域のルールは絶対だ。新たに色域が生まれることなど絶対にありえない。いくら青の色域とはいえ別の色域が生まれることなど……」
「さあ、あなたが言った火力はこれで補えたよ。……最後の勝負だ」
新たに出現した二体のウロ・ボロス。合計四つの顎門が一斉にナンバーピリオドに襲いかかった。サイズこそ先ほどのウロ・ボロスより小さいが、アリエスの言う通りその火力は先ほどとは比べ物にならないくらい上がっている。
だからこそ、これはアリエスにとって正真正銘、最後の切り札だ。ナンバーピリオドに悟られないように仲間たちにすら伏せていた進化した色域の力。アリエス自身どうして色域のルールに外れた力が覚醒したのか理解できていない。だが間違いなく青の色域よりもこの黒天の色域は強力だ。
その事実さえあれば今のアリエスには他に何も必要ない。
ナンバーピリオドを倒せる力であればなんでも使ってやる。
それが今のアリエスの思いなのだ。
「……なるほど。どれだけ考えてもどれだけ覗いても答えはでない。考えるだけ無駄ということか。だがまあ……」
しかしナンバーピリオドは何一つ狼狽えてはいなかった。
放たれた攻撃は先ほどよりも強力になっている。ナンバーピリオドが指摘した火力面の問題は解決された。まず間違いなく、黄金根絶天体・金の惑星では押し負けるだろう。
だというのに、ナンバーピリオドはまだ冷静を保っていた。
(……? どうして驚いていない? まさか、この力に対抗する手段が……)
「あるに決まっているだろう」
「ッ!?」
思考を読まれた。
いや、それ以上に、その答えが衝撃だった。
アリエスにはこの攻撃をどうにかできる手段を用意することができない。それはナンバーピリオドの視点から考えても変わらない。
ゆえに勝利を確信していた。
気配量も魔力量も、その全てを今のアリエスは金の色域を使用しているナンバーピリオドを凌駕している。
だからこそ反撃の手段などない、そう思っていた。
だが。
「気がついていないのか? 確かにその攻撃は強力と言わざるをえない。だが、その攻撃は貴様の迷宮に依存している。青の色域から黒天の色域に切り替えたことでお前の迷宮はどうなっている?」
「……な、なにを言って」
「まだわからないか。お前の迷宮は青の色域の方が純度が高い。それこそ攻撃の物量で押し返さなければ干渉できないほどに。だが今は————」
そう言いかけたナンバーピリオドは虚空に腕を伸ばし、アリエスの迷宮の壁に爪を立てた。そして次の瞬間。
「消えろ」
「ッ!?」
ガラスが砕けるような音が世界に響き渡った。
それがアリエスの迷宮が砕け散った音だと認識するのに時間はかからなかった。
迷宮がなくなればウロ・ボロスは存在できない。ウロ・ボロスが倒せないのなら、それ以外を倒せばいい、そんな理論をナンバーピリオドは冷静に取ってきたのだ。
迷宮とウロ・ボロス。その両方が消失する。
世界は再び静寂に包まれた。
そしてそれを破ったのは悔しくもアリエスだった。
「ご、ごふっ」
全身の穴という穴から血が流れ出している。
色域は解除され、地面にうつ向けの状態で倒れてしまった。
「アリエス!!」
「邪魔をするな」
「ぐっ!」
ユノアが急いで駆け寄ろうとするが、ナンバーピリオドが寄せ付けまいとユノアを吹き飛ばしてしまう。
二度の迷宮顕現、二度のウロ・ボロス。
いかにアリエスといえど、すでに限界を迎えていたのだ。
加えて色域で使用した力は自然治癒以外、色域保有者の力でのみ復活する。つまり今アリエスを回復させられることのできる存在はいないということだ。
それがさらに絶望の到来を加速させる。
「お前なりに考えた結果の手段だったのだろうが、愚策だったな。やはり通常のルールにない色域など紛い物。何かが結露苦していて当然だ。」
「か、は……。ぐっ……」
「もはや血を流すことしかできなくなったか。ならばこれでこの戦いは終幕だ。全ての生命を抱いて沈むがいい」
倒れているアリエスに向かって最後の一撃が放たれようとしている。
それを仲間たちは止めようと必死に足を向けるが、ナンバーピリオドの用意した敵兵に苦戦し駆けつけることができない。
ゆえに絶体絶命。
万事休す。
そして何より。
悔しくて、悔しくて、叫びたいのはアリエス自身だった。
(諦めたくない。まだ、まだ私は————————!)
しかしそんな意思とは反対にアリエスの体力は尽きる。
瞼を開けることすらできず、その意識は深い暗闇へと沈んでいった。
***
暗い海の中をアリエスの意識は漂っていた。ゴボゴボと音を立てながら底へ向かって沈んでいく。
光はない。
目を開けても暗闇が広がっているだけだ。
ほどなくしてアリエスは底に叩きつけられた。
しかし起き上がることはできない。ここがどこなのか、何のために用意されたのか、そもそも自分は生きているのか、死んでいるのか、その判断すらできなかった。
しかし、そんなアリエスに何者かが語りかけてくる。
「……ごめんなさい。やっぱりあなたに『黒』は似合わなかったみたいです」
「だれ……?」
「私は后咲。黒の色域の保有者。ハクさんの体に一時的に避難していたのですが、ナンバーセブンとの闘いの際にあなたの体に移動しました。そして黒の色域をあなたに託した張本人です」
后咲。
その名前は聞いたことがある。
ハクが妃愛と呼ばれる少女がいる世界に飛ばされた際、ハクを最後まで助けてくれた人物。
黒包と呼ばれる謎の存在が、掌中回帰の中で多くの強者を殺し、取り込むことで最強の『悪源』に至ろうとした。后咲は考えうる全ての策を講じたものの、黒包は悪源として覚醒。その悪源は覚醒したことで真の名を得てしまう。
その名も————。
ジ・イーブル・ディスペア。
それは「アン」の名を冠していないため、最終的にはハクの活躍により無事討伐されたものの、通常であればまず不可能だったと言える。色域を持たないハクが悪源を倒すことのできる可能性はゼロに等しい。
それこそ后咲の助けがあったからこその勝利だろう。
だが。
それでも犠牲は出た。
その際たるものが————。
「あなたは生きていたの?」
「……いえ、私は死にました。すでに身体も、精神もこの世界から消滅しています。今の私は黒の色域が保有していた残留思念のようなものだとお考えください。それほどまでに色域という力は強力なのです。保有者をできるかぎりこの世に繋ぎ止めようとする。全歴史において一人しか保有できないのですから、ある意味当然なのですが。……ただ私の場合は少々特殊です」
「特殊?」
アリエスには后咲という人物の顔は見えない。
黒いモヤのようなものがかかっており、その表情を見ることができないのだ。
しかしわかることもある。
后咲は今まで幾度となく自分たちを救ってきている。
そんな漠然とした確信がアリエスにはあった。
「黒の色域。色域の知識階梯は最下位。概念構築に長けた色域であり、戦闘力はさほど上昇しない。そのため証名は継承者と構築者。またの名を————」
「二重色域保有者」
色域は本来例外なく一人一つの色域しか保有できない。
その例外を作り出したのがアリエスだったため、ナンバーピリオドですら驚いていた。
しかしそれは例外などではなく、何者かが計算していたことだとしたら?
「黒の色域はその力を誰かに譲渡できるのです。ゆえに継承。最初はハクさんにお渡ししようとしたのですが、『弾かれて』しまいまして。ですから一時的にハクさんを依代にして、あなたに継承することにしました」
「まさか……。私の黒天の色域って……」
「はい。青の色域に黒の色域が混ざったことで生まれた突然変異型の色域。色域が持つエネルギー量で言えば倍増しますが、その分、迷宮の純度が下がってしまった。イレギュラーにイレギュラーを重ねているような状況ですので、そうなるのも無理はないのです。ですが————」
「……?」
后咲はその状況すら楽しんでいるような声色で話を続けていく。
それはまるで機は熟したとでも言わんばかりの————。
「黒の色域はすでに青の色域と完全に融合しました。これにより迷宮の純度は回復するでしょう。しかし先ほども言ったようにあなたに『黒』は似合わない。あなたにはもっと似合う『色』があります。そしてその到来によってあなたは真に覚醒する。その色に触れるだけであなたの黒天は羽化するのです。なにせあなたは色域の中で最も特殊な……」
だが。
その言葉を最後まで聞くことはできなかった。
アリエスの体を大きな泡が持ち上げていく。その浮力に逆らうことのできないアリエスは必死にもがくものの、后咲の姿はどんどん遠くなっていってしまった。
「あ、あの!」
「……これでお別れです。あなたに託すものは託しました。あとはあなた次第。さあ行って————」
その刹那。
アリエスは后咲の素顔を見た。
それはあまりにも見慣れた顔で、それでいて、どうしようもなく……。
「あれは、私の……」
***
「惨めな最期だな、神姫よ。ではさらばだ」
意識が戻ってきてもアリエスの体は動かない。
体力が戻ったわけでも傷が癒えたわけでもない。
絶望は終わらない。
だが。
アリエスは諦めていなかった。
(私に合う色。それは何か。考えろ、考えろ考えろ、考えろ! まだ何かあるはず。后咲さんが残した言葉に答えが!)
しかし現実とは無情だ。
ナンバーピリオドの攻撃がアリエスに放たれる。
それは文字通り世界の命運を左右する一撃。
ナンバーピリオドの手のひらから放たれた魔力の塊はアリエスの体を飲み込んで崩壊させる。
させる、はずだった。
「ッ……。……え?」
漏れた声はアリエスのもの。
ということは、アリエスは死んでいない。
であれば、それが意味するのは。
「……お前は、確か」
「悪いけど、お姉ちゃんを死なせるわけにはいかないんだよね。だって、私のこの世で一番大切な人だから」
白。
残されていた最後の色域。
その保有者が今、この場に降臨した。
「あ、アナ……?」
「久しぶり、お姉ちゃん。色々あってやってきちゃった」
「ど、どうして……」
「お姉ちゃんを助けにきたんだよ。少し待っててね。あいつ、倒してくるから」
「ま、待って! アナじゃ勝てない! 待って、お願い!」
そんなアリエスの声を遮りながら割り込んだ少女。白く長い髪を靡かせ、手には青く輝く一本の長剣が握られている。
少女の名はアナ。
想界・ティカルティアを長く治めていた伝説の女王。
いや、それよりも。
アリエスによって育てられたただ一人の妹。
それがこの場において最も正しい説明だろう。
「……ふは。これは珍しい客だ。白き女王。お前がこの場にいるということは、これも黒の色域の仕業か?」
「そうだよ。ティカルティアにお姉ちゃんは出入りできないけど、私は別。全ての想界の命運を賭けた戦いに私だけが参加しないっていうのは、さすがにいただけないから」
「ふん、そのわりには不服そうな顔をしているな」
「そりゃ、ね。お姉ちゃんをここまで傷つけられて黙ってられる私じゃないから」
「だがお前とて馬鹿ではないだろう。いくらカタストロフの悪源を倒したお前とて。色域の知識階梯は知っているはずだ。お前の色域は白。対する俺の色域は金。どちらが上かなど明白だ」
「どうかな。確かに出力じゃとても敵わないけど……」
その言葉が紡がれた直後。
アナはナンバーピリオドの背後をとる。
「っ!?」
「戦争と個人戦は違うよ?」
ナンバーピリオドに向かって放たれる剣撃。
それはナンバーピリオドに当たらなかった。ギリギリのところでナンバーピリオドが体をひねって躱したのだ。
しかしその剣圧がナンバーピリオドを勢いよく吹き飛ばした。
「ちっ! ただの剣撃でこの威力……。なるほど単一戦闘での実力は噂通りらしいな」
「そういうこと。ああでも、だからってお姉ちゃんや他のみんなを狙ったって無駄だからね。そんな見え見えの弱点を対策してないわけないから」
そして戦闘は激化する。
ナンバーピリオドは空想天園を発動するも、その全てをアナは剣で叩き斬っていく。ナンバーピリオドにとってこの手の戦闘はかなり分が悪いものだった。なにせ、アナはその色域の力で相手の動きすら組み込んだ戦闘を組み立てていく。それは想界干渉攻撃を破壊するほどの威力はないが、作りたての空想天園を破壊することぐらいは造作もない。
かといって接近戦に持ち込めばそれこそアナの間合い。その距離での戦闘は敗北以外あり得ない。
そんな状況の中、ナンバーピリオドは攻め時を伺っていた。
(あの剣……。始中世界自体が鍛えた世界剣リーザグラムか……。あれは神妃の手に渡っていたはずだが。……あの剣と俺の攻撃は相性が悪すぎる。さすがに悪源を倒しただけのことはあるか)
「どうしたの? その程度の力でお姉ちゃんを倒せたとは思えないけど?」
「ふは。なめるなよ、小娘。そういうお前とてまだその深奥は見せていないだろう。俺には見えているぞ?」
「……それが?」
「それが気に食わないと言っている。……まあ、いい。見せないと言うなら、力ずくで引き摺り出せばいいだけのことだ」
「ッ!」
空気が変わった。
ゆえにアナは距離を取る。
今のナンバーピリオドに近づくのは危険だと判断したのだ。
「黄金根絶天体・金の惑星。受けきってみるがいい、白き女王」
「……いよいよ出したね、それ」
正直言ってこの戦い、アナは圧倒的不利な状況に置かれている。何も背負わず戦えたならまだ勝機はあったかもしれない。
しかし今はそうではない。
瀕死のアリエスと全想界を背負って戦っている。
そんな中、実力差がある相手の戦闘は困難を極めていた。
得意な近接戦闘であればまだどうにかなる。だが、圧倒的な物量攻撃がやってきた場合は———。
「ふぅ……」
「なんだ、降参か?」
「違うよ、集中してただけ」
「なら見せてみるがいい。お前の真の力を」
「言われなくても」
アナは静かに目を閉じた。
そして発動する。
白の色域の最奥を。
「白紙領域」
アナを中心に半径一メートルほどの空間が白く染まる。
それは何人たりとも犯すことのできない純白の空間。その空間だけは空想天園であっても、その独自ルールを展開できない。踏み込めば最後、アナの支配下に入り全て消失する。
これこそが支配者の証たる白の色域の本領。
「ふは。なるほど。絶対不可侵の独自領域か。だがその力で俺の惑星をいなしきれるか?」
「それは今にわかるよ。そしてこの戦いの決着もね」
その言葉と同時にアナにナンバーピリオドの無数の惑星が襲いかかる。
それをアナはリーザグラムを使って見事に打ち落としていった。空想天園はアナの白紙領域に触れた瞬間、そのルールを失いリーザグラムによって破壊される。
その攻撃がどれだけ物量の多いものだったとしても、今のアナには通用しない。物量に対して、力でゴリ押すのではなく、華麗にいなす。
それがアナの戦い方だった。
しかし。
(思った以上に消耗が激しい……。あとどれくらい凌げばいいのかわからない今、ずっと白紙領域を発動ささせられるほどの余裕はない……。となれば)
「ふは。気配がみるみる減っていくな。その力、燃費が相当悪いだろう?」
「それがなに? こっちが尽きる前にあなたを倒せばいいだけのこと」
「いや、不可能だ。俺の攻撃を破壊するだけなら問題ないだろうが、接近となれば話は別だ。俺がお前の立場であってもそれは実現できない。……だが、それすらお前は理解している、違うか?」
「……」
「つまりお前は『何か』を待っている。そしてそれは……」
アナがまずいと思った直後、ナンバーピリオドの視線は倒れているアリエスに向けられた。
ナンバーピリオドの言うようにアナ単独の力ではこの状況を打破することはできない。どれだけ技術を磨いても、どれだけ鍛えても、白の色域では金の色域に敵わない。
それは絶対のルールだ。
であればどうするか。
金の色域を超える色域を用意すればいい。
それこそが后咲が今の今まで繋いできた計画だった。
その計画を知らされたからこそアナは今この場に立っている。
そしてそのキーパーソンというのが……。
「色域のルールを唯一破った『神姫』、そうだろう?」
「ッ!」
気がついた時には遅かった。
アナの意識が一瞬だけアリエスに向けられる。その隙を待っていたかのようにナンバーピリオドはアナに肉薄し、極限まで圧縮した極小の空想天園をアナに打ち放った。
「しまっ……!」
「遅いな」
それはアナの白紙領域に触れた瞬間、その存在を保てずに消滅する。しかしあまりにも小さく圧縮されたそれは消滅の寸前、白紙領域の穴を突くように消滅よりも早く爆発した。
それはアナの体を軽々と吹き飛ばし、瀕死級のダメージを与えてしまう。
「が、があ、はっ……!」
その衝撃を殺しきれずにアナの体は何度も地面をバウンドし、遠くへ飛ばされてしまう。それでもアリエスを含む周囲の仲間たちに被害が出なかったのは、アナの白紙領域がギリギリのところで威力を抑えたからだ。
しかし自分へのダメージは抑えきれていない。
「ふは。油断したな、白き女王。確かにお前は周囲に対して気を配ってはいたが、それでも隙は存在する。己のことなら完璧にこなせる色域を持っていたとしても、それ以外であれば崩すのは容易い。人の心を揺さぶるのは俺の得意分野だ」
ナンバーピリオドはアナに対してそう告げると、再びアリエスに足を向けていく。
ここまでくればこの戦いの勝敗は決まったも同然。
ナンバーピリオドを除く全ての色域保有者が倒れた今、立ちはだかるものはいなくなった。
だが。
なにかがおかしい。
そんな漠然とした不安がナンバーピリオドを襲っていた。
いや、本当はわかっていたのだ。
アリエスたちは今まで幾度となくこの世界を救ってきている。
それはどんな絶望を前にしても諦めず立ち向かったということだ。
であれば、この状況もそのケースに当てはまるのではないだろうか。
そう考えざるを得なかった。
そして、それは現実となる。
「ッ! ……まだ立ち上がるか、神姫よ」
すでに血だらけ、満身創痍。
息をすることすら辛いはずのアリエスが今、再び、立ち上がったのである。
しかし。
事態は思いもよらぬ方向へ転がることとなる。
***
(どうしてアナが……。でも、アナじゃナンバーピリオドに勝てない。だから私が……)
そう思う心とは裏腹に身体は言うことを聞かない。
すでに満身創痍となっているアリエスにできることなどない。
その事実をアリエス自身が一番理解している。
だが諦められるわけがなかった。
ハクに続きアナまでも失ってしまえば、それこそアリエスは生きる意味を見出せなくなる。ハクの意識が消えてしまうその瞬間を目の前で見せつけられたアリエスにとってそれは、絶対に避けなければいけない事態だった。
ゆえにもがく。
もがき続ける。
全身から流れ出る血液を残り少ない魔力によって止血し、気配を少しずつ集めていく。それは着実にアリエスの体を癒していった。
しかし、遅い。
あまりにも遅すぎる。
今前線で戦っているアナに加勢するには、その回復速度は悠長と言う他なかった。
加えてアリエスが消費した色域の力。これは時間経過、もしくは色域保有者による気配の譲渡によってのみ回復する。
つまり今のアリエスがどれだけ体力を回復させても、再びナンバーピリオドと戦えるようにはならないということだ。
だからこそ。
アリエスは別の可能性を模索していた。
(……后咲さんは、私に「黒」は似合わないって言った。それはつまり、黒以外の選択肢があったということ。でも黒はもう私の色域と融合した。だからある意味で言えば黒天の色域も正解。でも、それじゃ足りない)
実際、アリエスが黒天の色域に覚醒した際、妙な違和感があった。
端的に言えばこれではないという直感。
ゆえにその時点で一つの解答に辿り着いていたのだ。
黒天が完成形ではない、と。
黒天は発展途上だ。
アリエスのイメージするものと完全に一致する完璧な色域が存在する。
だが、それをアリエスは今の今まで思考の奥底に封印していた。青の色域を凌駕する黒天の色域を超える色域など存在しないと直感ではなく理性が判断していたのだ。
しかし、今ならわかる。
黒天の色域に何が足りなかったのか。
目に映っているのはアナの白紙領域。
その力は完成された個人支配領域。
空間支配の究極形。支配者の証と呼ばれる白の色域の力としてふさわしいと言わざるを得ないだろう。
だが?
なぜ忘れていた?
永久絶命結果・青の迷宮。
青の色域の代名詞であるこの力も究極の空間支配ではなかったか?
と。
絶対的な冷気による空間支配と自身の届く範囲にのみ干渉可能な空間支配。
この二つの力は非常に似ている。
規模こそ違えど、お互いがお互いにないものを持っている。
であれば、今のアリエスが白の色域の力を使えるようになったら?
いや、それでも足りないとアリエスは否定する。
仮に青の色域の力に白の色域の力が足されたところで、それは黒天の色域と同じ結末を辿るだろう。それほどまでにナンバーピリオドが持つ金の色域という力は強大だ。
であれば着目すべき点はそこではない。
青の色域と白の色域。
青の色域は空間支配こそ完璧だが、外からの攻撃に弱く、圧倒的な物量で押し切られてしまった。
白の色域は個人戦においては無類の強さを誇るが、あくまで支配できるのは周囲の空間のみで支配領域が狭く、自分以外の要因が弱点となる。
つまり。
どちらも中途半端というわけだ。
それを理解した瞬間、アリエスの中で何かが動いた。
胸の奥から湧き上がってくるそれは、その考えを自ら否定するような絶対的な圧力。アリエスの中で眠っていた何かが「舐めるな」とでも言ってきているような、そんな気配。
そう————。
青の色域と白の色域、似ているようで似ていない両者の力。
同じ空間支配を司っていながら、逆にどうして別の色域としてカウントされているのか。
その理由は……。
(……そうか。だから后咲さんはアナをこの場に……)
アナという白の色域をアリエスに見せること。
どちらの支配もまだまだ完成には至っていないということを理解させるためのお膳立て。
それこそが后咲が残した最後の作戦だった。
そして、アリエスが完成していないのだとすれば、アナの色域も————。
と考えたところでまたしても声が聞こえる。
遅い、遅すぎる、と。
瞬間。
アリエスは答えに辿り着いた。
目覚めかけていた力に手をかける。
それを抱きかかえるように包み込み————。
(いける————————!)
このときをもって。
調停者は開停者となり、そして開闢者となった。
「……なんだ、お前。何を掴んでいる?」
「……」
ふらふらと立ち上がったアリエスの顔は髪に隠れて見えない。
その顔が笑っているのか、泣いているのか、はたまた怒りで歪んでいるのか。
だが、あの身から滲み出ている得体の知れない気配はナンバーピリオドを警戒させるには十分だった。
そしてアリエスはゆっくりと右手をナンバーピリオドに向ける。
それはまるで残された最後の望みを掴み取ろうとしているようで……。
が。
だが。
そう現実は。
甘くない。
どれだけ。
最後に。
希望を。
掴んだとしても。
それが。
許される戦いではない。
だからこそ。
『遅すぎた』のだ。
「………………………………………………………………え?」
ぼとり、と。
音がした。
それは聞き馴染みのない音だった。
また。
くしゃり、と音がした。
それは宝石のような青い瞳で……。
「お姉ちゃん!!」
アナの泣きそうな声が響く。
同時のアリエスの視界が半分消えて無くなった。
それは魔術でも魔法でも色域でもなく、物理的に消失した。
それもそのはず。
今のアリエスは顔の半分が溶けるように崩れていたのだから。
「あ」
そのままアリエスは再び地面に倒れ伏した。
体を支えていたはずの両足が付け根から腐敗したかのように捻じ曲がっていたのだ。
そして先ほどの、ぼとり、という音。
それはアリエスの両手が肩から自重に耐えきれずちぎれた音だった。
「ふは、ふはははははははははははははははははは!! 何をするかと思えば、自身の力に耐えきれずに体が崩壊しただと? これ以上に滑稽なことなどない、そうだろう、神姫?」
「か、ぁ……」
痛み?
そんなものを感じる余裕などない。
声も出ない。
手足は神経ごとちぎれた。
片目も失い、光を捉えることすら難しい。
それどころか今、自分が生きているのか、それすら理解できない。
確かに。
確かに掴みかけていた。
いや、掴んでいた。
体力さえ、魔力さえあれば。
勝者はアリエスだったはずだ。
それが今は————。
ただ。
悔しくて。
悔しくて。
悔しくて。
泣きたい気分だった。
「アリエス!」
「ふは! 今度はお前が相手か、覇女? 赤の色域程度で俺をどうにかできるとでも?」
「ユノアだけじゃありません!」
「光の王女……。いや、その他全員か。俺の配下を全て倒したか。まあ、色域保有者が相手というのは分が悪かったか」
倒れたアリエスを助けようとユノアやエリアをはじめとする仲間たちが一斉にナンバーピリオドに攻撃を仕掛けようとする。彼女たちは皆、ナンバーピリオドが呼び出した仮初の四百九十六の指と戦っていたが、その戦いが終わりアリエスの下に駆けつけたのだ。
しかし、それだけでは事態は好転しない。
青の色域でも白の色域でも倒せない相手に勝てるはずなどないのだ。
「邪魔だ、消えろ」
その声と共にナンバーピリオドは腕を横に振るう。それだけでユノアたちは吹き飛ばされてしまった。
「……さて、いよいよ、お前を殺すだけとなったな、神姫」
「…………」
「遺言すら言えないとは悲しい最期だ。お前が俺に見せたその足掻きだけは認めよう。無駄な足掻きだったと大界樹に記しておいてやる」
そしてついに。
そのときは訪れた。
「では死ね」
アリエスはそんな声を聞きながらただひたすら涙を流していた。
(……私じゃ、ハクにぃみたいにみんなを救えなかった。私は何も、誰も、救えない……)
頭に浮かぶのはみんなの、仲間の、ハクの笑顔。
それをアリエスは守りたかった。
いつかまた、みんなで笑い合える日を、そんな未来を作りたかった。
ただそれだけ。
だった。
だから。
こういうとき。
人は、願う。
(……もし、神様が、いるんだったら)
幾度となくアリエスたちは「神」という存在と戦ってきた。
そんなアリエスが最後に縋るのは、神という概念。困ったときに、助けてほしいときに、願い縋る、魔法の存在。
そしてその先に映るのは。
一人の青年。
思えばあのときも。
盗賊に攫われて泣いていたあのときも。
そうやって願った。
誰かが助けに来てくれることを願った。
(お願い、助けて……!)
願って。
願って。
願って。
そして。
そして。
それは。
現実となる。
「……ッ!? なに!? がはっ!?」
「何か」によってナンバーピリオドは吹き飛ばされた。
そんなことができる存在はもういない。
どんな不意を突こうとも、金の色域がそれを許さない。
金の色域以外の全ての色域が束になってもどうにもできなかったのだ。
今更、そんな陳腐な手段でどうにかできる相手ではない。
のだが。
現実は違った。
間違いなく、ナンバーピリオドは吹き飛ばされた。
明確なダメージが入ったのだ。
そして同時に。
アリエスを含めた仲間たちの気配が回復していく。
傷も魔力も、そして。
色域の力も。
全て元に戻ったのだ。
「……?」
何が起きたのか理解できないアリエスは、感覚が戻った体を動かして顔を上げる。
そしてその目に映った光景に涙した。
「え…………?」
倒れているアリエスを守るようにそれは立っていた。
金の髪。
赤い瞳。
白いローブ。
そして圧倒的な気配。
誰もが待ち望んだ存在が、そこに立っていた。
「ハクにぃ……?」
「……ちゃんと聞こえてたよ、アリエスの声」
そして。
希望が。
希望の光が戻ってくる。
倒れていた仲間たちの目に光が戻る。
絶望が希望へ、希望は勇気へ転じる。
その瞬間をこの場にいる誰もが体感していた。
そしてその青年は言い放つ。
全てを終わらせる言葉を。
「決着をつけよう」
これは神話から新話へ、そして真話に至る物語。
その最後に待つ戦いだ。
ハク。
絶対最強の神妃————。
いや。
神王。
神王が今、戻ってきた。
用語解説
・四百九十六の指
メラアビラムは究極神妃が作り出した絶対的概念のことを指す。
全部で四百九十六の個体が存在しており、その中でも上位十五体は別格と称されるほど強大な力を持っているとされている。その力の規模はハクが人神化した状態と同等かそれ以上だと考えられており、その中でも最上位に位置する開闢の概念は全盛期であれば全力解放のハクですら軽くあしらわれるほどの力を持っているらしい。
とはいえ極輪ないし真話の領域に到達したものであれば、淘汰することも可能。加えて究極神妃が全てのメラアビラムに一度制限をかけているため、その能力は大幅に退化していると考えられる。なお、ハクたちが住んでいた現実世界を含む始中世界にはすでにメラアビラムは存在していない。
実はハクたちの世界に住んでいた四百九十六の指が裏反世界(女性ハクの世界)に逃れることにより生き残っていたことが明らかになる。
そもそも四百九十六の指とは、世界に存在する概念を司っていた者たちで、これらが消滅すると世界にあった概念も同時に消滅してしまうほどの役割を担っていた。しかし究極神妃が彼らの力を制限するとともに、その機能を剥奪したことによって四百九十六の指たちはその役割を失った。
そのため、生き残っている四百九十六の指たちは肉体すら本来持っていない状態になっており、別世界にいた神々の体を奪うことによってハクたちの前に現れている。
その中でもナンバーピリオドは始中世界のリアの体を乗っ取ることに成功し、真・人神化を使用したハクでさえ敵わない力を見せつけた。
彼らは神ではなく、あくまでもただの生命体としての力を振るう。それは人や動物が成し遂げるはずだった「伝説」という奇跡の記録を生み出した根本的な力であり、神が紡いだ神話を超える威力を持っている。つまり、単純な神の力では傷一つつけることはできず、人神化したハクであっても、いたずらに力を消費するという状況が出来上がってしまうとのこと。
・色域(第一知識階梯)
閲覧権限・黒
空想天園とは別の存在階級。空想天園はあくまで究極神妃へ至るための技術的階級だが、色域は全八席ある指定制の力を発現させた者たちに与えられる階級である。
絶対的なルールとして同じ階級の色域保有者は一人であり、永遠に増えることはない。保有者が死亡した場合は、その席は永久に空席となる。
色域保有者を発見し繋ぎ止める役割を担っているのがカラバリビアの鍵であり、本来の使用方法である。
またカラバリビアの鍵は色域階級・青の保有者に与えられることが決められている。
リアが作り出したカラバリビアの鍵は、本来あるはずのカラバリビアを神妃の手で改造してしまったことで生まれた非正規のものであり、アリエスの手に渡った今、ゆっくりと本来の姿を取り戻しつつある。
色域は世界で唯一、究極神妃の支配を受けないシステムであり、大界樹にすら詳細が全く記されていない。
色域はそもそも決められた席に決められた存在が座るシステムであり、誰かが意図的に選ぶ、選ばれるという概念はない。しかし色域というシステム自体が保有者に相応しいか選定を行っており、このシステムが究極神妃の支配圏外にある。
・色域(第二知識階梯)
閲覧権限・光
色域は究極神妃が生まれたと同時に生成され、一説では究極神妃を淘汰するシステムではないかと言われている。しかし色域という存在自体、極秘であるためこれらの情報を入手することは不可能とされている。唯一色域保有者には保持している色域によって情報が段階的に開示されていくため、彼らはこれらのことを知ることができる。
究極神妃を淘汰するシステムでありながら、究極神妃がその座を埋めている時点で本末転倒だが、究極神妃を超える存在がいなかったため色域は究極神妃を選ばざるを得なかったという流れがある。
色域と空想天園は互いに相反するシステムであり、色域は固定化した究極神妃ではない力によって世界を運営し、空想天園は次なる究極神妃を作成することで世界を運営しようとしたシステムである。
しかし色域が、絶対であった究極神妃を超える力と空想天園を破壊する力をシステムに加えようとしたことによってバランスが崩壊。究極神妃がリアになるきっかけを作ってしまう。(これにより瞬きのスピードが狂ってしまった)
また究極神妃が四百九十六の指を滅ぼしたのは、彼らに色域を与えないようにするためである。すでに究極神妃は彼らが強大な力を求め世界を支配しようとしていることに気づいていたため、自身を超える力を許容はしていたがそれが指に渡ることは許さなかった。一方で完全に極輪を超えたハクを称賛しているらしい。
色域の弱点は空想天園以上に気配を消費することに尽きる。確かに強力な力だが、空想天園のように使用者とのリソース供給を完全に切り離すことができないため、空想天園を連発されたり、自身を超える力と相対するときは非常に使い辛い力である。
・色域(第三知識階梯)
閲覧権限・闇
リアが究極神妃の復活を予測し、それを打倒するために作り上げたシステムである。
全想界中から候補者を選定し、条件にあう者が見つかった時、その称号と力を与えることができる。
なおこの選定には究極神妃すら組み込まれており、それを前提にリアはこのシステムを組み上げた。
リアが組み上げた色域は最上位を■の色域とするもので、その座には究極神妃が就くことが確定しており、色域のシステム上、他の候補者を選定できないようになっていた。
しかし■の色域はすでに存在しており、■以外の六つの色域を創造することとなる。
究極神妃を倒すためのシステムであるにもかかわらず、その究極神妃に新たな力を与えてしまうシステムは一見、欠陥品かと思われたが、リアはそこに二つの武器を組み込むことによって究極神妃を倒すことができるように計画していた。
一つが名形無き終焉の祖。
金の色域を持つ者に与えられる最強の剣で■■剣をモチーフに、■■剣を超える力を持つ。その真価は金の色域保有者が手にした時に発揮され、それ以外の者が扱うとただの神宝に成り下がってしまう。
ハクが星神に対して使用した時はまさにその状態であり、あれは名形無き終焉の祖が持つ力の片鱗でしかない。
究極神妃にとどめを刺す際に使用する前提で作られているため、究極神妃に対するダメージはかなり大きい。
二つ目はカラバリビアの鍵。
色域保有者を繋ぐ役割を持つ神宝で、青の色域を持つ者に与えられる。その力は真に万能であり、事象の生成のオリジナルとなる力。
■と■の色域を除く色域を束ねて扱う力を持っている。これにより世界を超えて色域保有者を集めることができる。
・色域(第四知識階梯)
閲覧権限・白
色域は究極神妃誕生と同時に発生した「原典色域」とリアが作り出した「正典色域」に分類される。
原典色域は■と■、そして■の色域がそれに該当する。ただし■の色域は正規色域が誕生した段階で色々なものが上書きされており、正式には正典色域に分類される。
正典色域は上記以外の色域のことを指す。リアによって作り出された正典色域は全て究極神妃を倒すために作られており、様々な仕掛けが施されている。
ちなみにカラバリビアの鍵を作り出した際にそれらの記憶はリアから消え去っている。
色域というシステムにあえて究極神妃を入れ込むことによって、■の色域を超えられないようにするというのがリアと色域というシステムの目的。
・色域(第五知識階梯)
閲覧権限・赤
■の色域と金の色域が融合した結果、■■の色域という色域が誕生した。完全にシステムから逸脱した色域であるため、どのような力を持ち、どのような存在なのか、全てがわかっていない。
この色域は二度と発現することはないと言われており、二妃のみが使用できる奇跡を行使することができる。(使用回数に制限はない)
・色域(第六知識階梯)
閲覧権限・青
色域にはいくつか制作者の意図とは別に誕生してしまったものがある。■■の色域や■■の色域などがそれに当たる。
これらの色域については何一つ判明していることがなく、その深奥は使用者にしかわかっていない。
しかし基本的に元から存在している色域を材料としているケースが多く、上記の色域以外は誕生しないと言われている。
・色域(第七知識階梯以上)
閲覧顕現・取得不能
閲覧不可。
・金の色域
創造者の証。
色域の中で最も特殊かつ特異な色域。
黄金根絶天体・金の惑星という空想天園を無数に作り出し、空想天園が集まった宇宙を作り出すことができる。これは通常の宇宙とは異なり、その存在規模は比較にならない。
できないことはないとさえ言われるほどの力であり、全能性に長けた力である。
ただし知識階梯はそれほど高くなく、青の色域と同じレベルに留まっている。
全能力値が上昇。
・青の色域
調停者の証。
カラバリビアの使用を唯一許されている色域。永久絶命結果・青の迷宮を使用することができる。
空想天園ですら凍らせて破壊することができる結界であり、極輪クラスの天園ですら防ぐことができない。
ゆえに青の色域の保有者は厳重に管理され、本人ですらアブソリュートラビリンスの存在を知覚することが困難な状態にある。(現存する想界全てが究極神妃の空想天園が元になっているため)
基本的に氷属性に適性がある者のみがこの色域に選ばれる。その中でもカラバリビアの適性、アブソリュートラビリンスの適正を満たす者がこの色域を保持することが許される。そのため、ある意味■や■と同レベルの貴重な存在。
全能力値が上昇。
全身に全てを凍らせる冷気を纏う。
・赤の色域
存者の証。
永久存命結界・赤の身体の使用が可能。存在や魂、気配などの生存要素を失っても生き返ることのできる能力。
保有者であるユノアはリアナによる不老不死の継承、赤の果実の捕食、死の淵からの復活を経てこの能力を発現するに至った。
ユノアの庭先に実った赤の果実は永久存命結界・赤の身体発現のきっかけであり、色域がユノアに目をつけていた結果である。
よってリアナとユノアの不死性は全くの別物であり、リアナは世界によって不死性を、ユノアは色域によって不死性を獲得している。
なお色域は欠員の補充ができないため、意図的に不老不死をコントロールしても色域によって最終的には修正され、永久的に存命することが確定している。アブソリュートラビリンスによる凍結により封印は可能。ただし破壊はできない。
瞳と髪が赤色に変化する。
全能力値が上昇する。
・黒の色域
継承者と構築者の証。
リアが色域を作り出した際に、リアの意図しない色域が誕生した結果生まれたのがこの色域。本来ありえないはずのデュアルホルダーであり、色域のランクは最下位であるものの、その特異性は常識の範囲外にある。
后咲の死亡後、ハクの色域に一度匿われ、最終的にアリエスの青の色域と融合して、「黒天の色域」へと進化した。
瞳と髪が黒色に変化する。
戦闘能力が上がらない代わりに、未来予知と概念構築が可能となる。
この力を用いて后咲は真話対戦というシステムを作り出した。
・白の色域
支配者の証。
自分が体験する未来の全てを予測し、その全てに対応することができる。■の色域と性質的には似ているが、こちらはあくまで自身の未来視の究極形であり、自分以外の未来を見ることはできない。
しかし全能力値の向上は■に次ぐ性能を誇る。固有能力、白紙領域を使用することができる。
白紙領域は己が立っている地点から空間の切れ目までを支配できる力である。この支配は空想天園の中であっても、空想天園を無視することができ、他の色域保有者でも抗うことは非常に難しい。
またアナはこの色域を得たことによってペインアウェイクンを完璧にコントロールすることが可能となり、限定的な死者蘇生を使用することが可能になった。
しかし使用後はひどい頭痛と吐き気に襲われてしまう。
全身から空間を漂白する力を放出する。
全能力値が上昇する。
・黒天の色域
開停者の証。
アリエスの色域と后咲の色域が融合した結果生まれたイレギュラーな色域。
この色域を発動すると、想界中に青黒い雲が出現し、各地に青色の稲妻を発生させる。
発動者は、真っ青な瞳の中に漆黒の瞳孔を宿した目へと変化し、体の周りには青と黒の稲妻が纏わりつくことになる。
この色域を発動しているアリエスのウロ・ボロスは青と黒の色を宿しており、威力は通常のウロ・ボロスを凌駕する。
しかしラビリンスの純度は青の色域の方が高く、使用用途によってアリエスは色域を切り分けている。
髪が漆黒に染まってしまう変化がある。
・悪源
正式名称・全悪の源凶
想界が持っている終末防衛機構。
想界が崩壊を悟ったときに生み出される破壊概念。全てを無に帰す悪性を生み出し、それをもって崩壊の原因ごと握りつぶす現象。
想界に溜まった悪の感情をリソースとして誕生しており、生まれたら最後、全てを破壊するという絶望的な衝動で行動し続ける。
対話ができる存在ではなく、言葉すら発しない。(例外はそれなりに存在する)
通常、悪の感情は善の感情のリソースとなるため、滅多なことでは悪源は生まれない。それこそ想界全ての生物が悪の感情に飲み込まれても、その程度では生まれることは絶対にない。
一般的に想界強度が高ければ高いほど悪源の力は大きくなるとされており、最高ランクの悪源は色域保有者クラスでなければ討伐は困難を極める。
悪源には「固有悪性」という特殊能力が備わっており、そのどれもが想界を一瞬で破壊しかねない力を秘めているとされている。
想界自身も悪源の誕生は最終手段だと考えており、基本的には悪源が生まれないように動いている。つまり想界にとって悪源は想界救済の最終手段であると同時に、最悪の破壊機構であると言える。
・ジ・イーブル・ディスペア
妃愛の世界で黒包と呼ばれていた存在の正体。
掌中回帰を利用して世界の崩壊と再生を繰り返し、それを止めるために招かれた別世界のハクを殺害することでエネルギーを得ていた。
結果的に始中世界のハクという最も力を持ったハクが招かれた段階で、悪源として覚醒。
固有悪性にも目覚めハクと戦うことになる。
固有悪性は「完全牢獄」であり、対象を永遠に絶望を与える位相に閉じ込めるというもの。
非常に強力な能力だが、死にかけの后咲によって引き上げられたことで攻略することができた。
また「アン」の名を持っていないため、悪源の中ではまだ可愛い方。真・人神化によって討伐された。
白包はこの悪源を倒すために用意された最終兵器だったことも後に発覚する。
今後の活動について
はじめに長らく投稿できずに申し訳ございませんでした。
その間、何をしていかというと、この作品に関して言えばずっとプロットと設定ばかり書いていました。その結果、設定から逆算するとその全てを書き切るには二千話以上かかる計算となり……。(実際、あまりにも設定の量が多すぎてデータ自体が重く、ファイルを開くのも一苦労という事態に……)
というわけで、その設定を少しでも投稿してみようかと思い、今回投稿した次第です。
今後についてですが、現状かつてのペースでは執筆できない状況にあります。
また自分自身、自主的な活動としていくつかの作品を抱えている状況でなかなかこの作品に時間を割けない状況です。
また今回投稿したお話はこのお話の大きな区切りになる戦いとなります。現状の計算ではここに辿り着くには三百話から四百話、駆け足で二百話ほど必要な計算となっています。
もし続きを投稿してほしいという方がおりましたら、その声だけでもお聞かせください。その数が多ければ、以前のペースというわけにはいきませんがまた続きを書き続けてみようかと思います。
では、またどこかで。




