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第百一話 vs勇者、六

今回はクビロ無双回です!

では第百一話です!

 クビロの影の能力、その名を「影の城(シャトルード)」という。

 この力はクビロが生まれながらにして持つ能力で、クビロ自身が言う通り自他の影を自由に扱うことができる。その特徴ゆえ全世界が影に包まれる夜は昼間の数倍の力を使うことが可能で、地の土地神(ミラルタ)の名に恥じない存在に昇華する。

 そのため日が沈みかけている今のような時間帯はクビロの最も好きなタイミングなのだ。

 クビロは目の前でうろたえている三人の勇者を眺めながら、小手調べ程度に影の雨を使用する。それは以前ハクと戦った際にも使ったもので自分の影を伸ばし、無数の刃を影で作り出す技である。

 それは影の濃度が上がっている今、かつてないほどの鋭さを見せ、やわな盾や武器ならば容易く粉砕させてしまうだろう。


『軽い覚悟を持つ、勇者よ。わしがその心意確かめてくれよう!』


 瞬間、影の雨は空気を切り裂きながら勇者たちを狙う。


「く、くそ!」


「て、天界壁!」


 勇者たちはクビロの攻撃を何とか避けながら、一人の少女がなにやら聞き覚えのない魔術のようなものを発動し影の雨を防ぐ。

 ドガガガガガガガガガ!という音とともにその二つは衝撃波を伴いながら激突した。この場合よっぽどのことがない限りクビロの刃が勇者の障壁を打ち砕くことになる。というのも、本来大規模障壁というのは強大な一撃を防ぐために作られたものであり、小規模な連撃を受けるために開発されたものではない。そのためこのような障壁は外へ外へと力を流すような仕組みになっているのだが、今のような状況になると、力を分散させる前に次の攻撃がやってくるので障壁の耐久度が著しく低下する。

 よってこの競り合いはクビロに分があるはずだった。


 のだが。


『ほう、少々特殊な守りのようだな』


 その盾はクビロの刃がぶつかるたびに、はじき返すのではなく、まるで溶けるように消失したのだ。こうなってしまえば普通の物理法則は通用しない。


「ふ、ふん!どうよ私の力は!ちょっと私たちより大きいからって、なめないでよね!」


 正確に言えば、勇者たちと今のクビロの身長差はちょっとどころではないのだが、クビロにとってそのセリフはさらに闘志を湧き立たせるものになった。


『ではこれはどうかのう?』


 クビロはそう言うと自身の魔力を集結させ、新たな影を錬成する。それはクビロを細くしたような触手状の影で、常に形を変えながら勇者たちの首を狙っていた。またその触手は先程の影の雨と同じように、クビロの体から無数に伸びている。


『影の祀り、わしはそう呼んでおるが、これをどう防ぐかのう?』


 瞬間、空間を覆いつくすような大量の触手が一斉に勇者たちに襲い掛かった。それを勇者たちは自身の武器を振り回しながら切り払っていく。

 やはりその動きはどことなくぎこちないもので、力は一級品なのだが肝心の体がその力について行っていない。それは長い間生きてきたクビロにとってはもはや新米冒険者が初めて魔物を討伐するような動きのように見え、心底落胆するのだった。


(所詮は力だけ与えられた子どもかのう………。主には遠く及ばんようじゃ……)


 実際、ハクとその勇者たちの年齢差は一歳くらいしかないのだが、元の世界にいたときの経験差というものが膨大なのだ。

 下手をすればこの異世界よりもハードな戦闘をハクは潜り抜けてきている。十二階神との戦闘から始まり、その戦いの中で培った戦闘経験と精神力は通常の高校生とは比べものにならないほど成長していたのだ。


「はああ!!」


「やあー!」


「とうおおお!」

 クビロの影の祀りを、声を上げながら振り払っている勇者たちは、額に大きな汗を滲ませながらそれを切り払っていく。

 だがクビロの攻撃は長年の戦闘から積み上げられた戦闘経験によって縦横無尽に勇者たちを翻弄し体力を奪っていった。


『どうした?先程の盾は使わんのか?』


 クビロはその勇者たちを眺めながら、舐めるように語り掛ける。

 確かにクビロの攻撃は強力なのだが、それでも影の雨を防いだ障壁を使われれば、消失まではしなくても相殺するくらいのことは出来るはずなのだ。

 だが今の勇者たちはそれを使う気配がない。


「はあ、はあ、だ、黙りなさいよ………!あんたの攻撃なんかすぐに吹き飛ばしてあげるんだから!」


 影の雨を防いだ少女の勇者はクビロにそう叫ぶと、己の両手に魔力を手中させて魔術を展開しようとした。

 残りの二人は、その少女を守るようにクビロの攻撃を防ぎながら、攻撃の姿勢をとる。


「天界壁!」


 魔力の重点が完了した少女は先程と同じように薄い黄色の障壁を自らを守るように発動した。それは言うなれば神々が使うような盾に似ており、その表面には月桂樹の葉のような文様が浮かんでいた。

 それは再びクビロの攻撃と激突するが、その瞬間影の祀りの形状がいきなり変化した。

 今までブヨブヨと不定形をとっていたその触手は、まるで鉄のように硬質化するとレーザーのように直線的な形に変化し、障壁に激突した。


『ただ、攻撃していてはつまらんからのう。少し工夫を加えてみたがどうじゃ?』


 その攻撃は勇者の盾に当たった瞬間、たった一撃でその障壁を打ち砕き勇者たちの首横を通り抜け地面を穿つ。


「ば、馬鹿な!?」


「そ、そんなうそでしょ!?」


「なんという力だ………」


 勇者たちが使用した障壁の能力が何であり、クビロと勇者たちではそもそもの魔力量が天と地ほどの差がある。勇者たちも普通の冒険者や兵隊よりは遥かに多いのかもしれないが、それでも地の土地神(ミラルタ)であるクビロに敵うはずがない。

 それは使用する力の強度にも色濃く反映され、実力の差を痛いほどしらしめ、勇者たちを震え上がらせた。


『この程度で怯むなど、勇者の風上にもおけんな。今までわしに挑んできたもの中では最弱のようじゃ』


 クビロはそう呟くと、完全に興味を失った表情で、残っている影の祀りを勇者めがけて砲撃した。

 それは無慈悲に勇者たちの鎧を打ち砕き、柔肌を傷つける。赤い鮮血を巻き上げ肉を断ちSSSランクの魔物の攻撃が突き刺さった瞬間を描き出す。


「がああああああああ!?」


「きゃあああああ!!」


「ぐはあああああああ!」


 絶叫と悲鳴が木霊し、エルヴィニアの里に響き渡った。

 その痛みは勇者たちの感じたことのないものであり、元の世界で緩く育った少年少女には死にそうなほど痛覚を刺激した。

 ショック死、という言葉があるように、人間は極度の痛みや衝撃を受けるとその生命活動を自ら断つことがある。

 今の勇者たちも似たような状況であり、その精神状態はかなり不安定なのになっていた。これが歴戦の冒険者であれば、この程度の痛みで心が折れることなどまったくないのだが、この勇者たちは召喚されてまだ一か月程しか経っていない。仮に強大な力を保有していたとしても、その使い方もわからず、心も弱いのだ。

 とはいえ、この勇者たちは自らの行動の重さを理解せず、罪もないエルフたちを襲った。それは何も知らなかった、という言い訳だけで許されるものではない。

 ゆえにクビロは手を緩めない。


『強者は強者なりの責任がある。お前たちがその力をどのようにして手に入れたかは知らんが、その使い方を誤るからこうなるのだ。自らの犯した罪を重く受け止めよ』


 クビロはいつものふわふわとした口調をやめ、威圧の含んだ言葉を投げつけた。


「な、なんで、俺たちが……、こんな目に合わないといけないんだ……」


「お願い!命だけは助けて!」


「こんなところで死にたくない!ま、まだ俺にはやりたいことが残っているんだ!」


(何を言い出すかと思えば……。命乞いに己の願望を吐き出すか……。本当に哀れな奴らじゃ)


 クビロは心の中でそう思うと、再び魔力を練り上げ新たな影を呼び出した。


『悪いが、わしはお前たちを許す気はない。ルルンやその他のエルフを襲ったのもあるが、それよりわしはお前たちのその覚悟が気に入らん』


 クビロは今まで数多くの戦士と戦ってきた。そのどれもが自分の命と行動に責任をもち、たくましいものだった。あのハクもその目に宿る光は常に攻撃的で、一度戦うと決めた以上、攻撃の手を緩めることはない。

 それがどんなに弱くても、その愚直な態度だけはクビロが唯一、人間を認めていた部分であった。

 だがこの勇者と名のるものたちは力に酔いしれ、相手の姿だけで怯え、あまつさえ命乞いをする。

 そのような低レベルな気持ちでエルフを襲い、自分に挑んできたことはクビロにとってとても容認できるものではなかった。


「ま、まってお願い!なんでもするから!!」


 少女の勇者が叫ぶように、クビロに言葉を投げるがもう遅い。


『後悔と妄念の渦に沈むがいい!!!』


 その言葉と同時にクビロの鋭く尖った影の祀りが勇者たちに放たれる。

 もはや勇者たちは腰を抜かしており、立つことも避けることもできず、体の至る所から体液を流しだしている。

 それは自分に迫る死の気配と、クビロの殺気だった姿に怯えた結果であった。

 瞬間、その触手は勇者たちの首元に滑り込み、とてつもない衝撃をたたきつける。それは魔物とは思えないほど洗礼させた攻撃であり、綺麗に意識だけを刈り取った。


『そのまま、ずっと無様な姿をさらしていればいいのじゃ』


 クビロはいつもの口調に戻すと、その勇者たちを放置し、すぐさまアリエスたちの気配を探る。


『むう、これは、南の里門か……。そこにアリエスとエリアは向かっているようじゃな』

 クビロは軽くそう呟くと、その場所に大きな音を立てて移動し始めた。


 

 その時クビロは自分の主の姿を頭に思い浮かべながら、心の中で話しかけた。


 (やはり主は人間でありながら一味も二味も違うみたいじゃ、厄介な連中が相手じゃが、そちらは大丈夫かのう?)


 



 残る勇者の数、二人。








「あ、キラ!」


 アリエスたちはヘルとともに勇者たちを撃破した後、南の里門に向かっていた。そこにはアリエスたちとは別に帝国兵を蹴散らしているはずのキラがいるはずであり、アリエスたちが里門に到着すると丁度辺りを見渡しながら移動しているキラと遭遇した。


「ん?ああ、アリエスか。どうやら無事のようだな」


 キラはアリエスとエリアを発見すると表情を和らげ優しく話しかけた。


「う、うん。ヘルっていう人が助けてくれたの」


「ほう、やはりそうか。なにやら強大な気配がそちらに向かっていたから、なにかマスターがしたのだろうと思っていたのだが、ともあれ無事で何よりだ」


「キラは今何をしてるの?」


「妾は捕らわれたエルフを探しておるのだがなかなか発見できないのだ。気配もほとんど感じられず、正直言ってかなり困っている。吹き飛ばした帝国のものも全員気を失っているし………」


 キラは申し訳なさそうに顔を暗くしながらそう答えた。


「それなら、この近くの空き地に皆まとめられてるらしいよ!」


 アリエスはそうキラに言いながら笑顔を浮かべた。アリエスたちからすれば出来るだけ早くエルフたちを救出したので、居場所がわかっているということは、かなり大きなことだ。


「そうか、ではその救出は二人に頼めるか?妾は逃げてしまった帝国兵の残りを殲滅してこようと思うのだが」


「ええ、任せてください。ですがキラも気をつけてくださいね。やつらは危険ですから」


「心配するな。妾は精霊の女王だ。人間に遅れはとらん」


 キラは笑いながらそう言うと空に浮かび軽く手を振りながら飛んで行った。


「さあ、私たちも急ぎましょう!」


「うん!」


 アリエスたちもそのままエルフたちが捕らわれている場所に向かい、走り出した。





 しかし、この時はまだアリエスたちもキラやクビロも、あのハクでさえも、エルフたちのいる場所にもう一つの集団が近づいていることに気が付いていなかったのだった。


次回はようやくハクの視点に戻ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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