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第百十五話 神器の謎

今回は少し長いです。

 その後。

 どうなったかと言うと。

 ミストはマルクの遺品や衣類、そして三つの神宝全てをネビュリアルスに持ち帰ったらしい。そして無理を承知で王宮へ侵入し、真話対戦で起きた全てを話したそうだ。

 無論、この戦いにはマルクの部下も大量に来ていたこともあって、その説明を受けてミストを攻撃するような輩はいなかったらしいが、それでも現国王が死んでしまったという事実はあまりにも大きなものだった。

 聞けばマルクはその圧倒的な指揮力によって国民の支持が高かったらしく、国民から事実を説明するように求める声も上がったようだ。

 とはいえ、非合法に行われている日本のよくわからない戦いのことなど国民に話せるはずもなく、原因不明の病に倒れたという発表がされた。

 そしてミストはそんなマルクの墓を二人の師匠ネルスの墓の隣に建て、その中に遺品の全てを入れらしい。そこにどのような意図があったのかはわからないが、それでもミストは優しい笑みを浮かべてその墓に花を手向けていたそうだ。


 そして。

 対する俺と妃愛はというと。


「……ね、ねえ、お兄ちゃん? こ、これは何かな……?」


「い、いやぁー……。な、なんだろうな?」


 戦いで消耗した体力も戻ってきた本日、俺たちの家に突如とてつもなく大きな荷物が運び込まれていた。それは宅配業者三人係でようやく運び切れるようなサイズと量で、玄関はおろかリビングにまで運ばなければいけないほどだったのだ。

 そしてその差出人は。


「全部ネビュリアルス王室から届いてるものなんだけど……。あ、手紙ついてるよ」


「うーんと、どれどれ……。…………。この度は我らが陛下の最期をお看取りいただき誠にありがとうございます。つきましてはささやかなお礼をと……」


「ってことはこれ全部お礼品ってこと!?」


「そ、そうらしいな……。別にお礼されることなんてやってないんだけど……。まあ送り返すわけにもいかないしな……。どうしたものか」


 その言葉に偽りはなかった。

 俺や妃愛は恨まれることはあれどお礼されるようなことは何もしていない。

 俺に限って言えば、マルクを死に至らしめる攻撃を放った張本人だ。

 そんな俺たちにお礼の品を送ってくる意味がわからないと思ってしまったのだが、その手紙には最後にマルクの行動に巻き込んでしまって申し訳ないとも記載されていた。

 どうやらネビュリアルスとしてはマルクのわがままに俺たちを付き合わせたと考えているようで、俺たちを責める言葉はどこにも書かれていなかった。

 味方を変えればそう見えなくもないが、そう簡単に頷けるものでもない。

 だからこそ、この荷物をどう扱おうか悩んでしまっていた。


「それじゃあ。ミストさんに送ってみる? 王室から送られてくるぐらいだからきっと高級品が詰まってそうだし」


「いや、多分ミストの下にも同じものが届いてるんじゃないか? 見ず知らずの俺たちにここまでするくらいだし」


「えー……。そ、それじゃあどうするの、この荷物……。見た感じお菓子もたくさんあるみたいだけど、いくら私でもこんなに食べられないよ……」


「そうだな……。……あ」


「どうしたの、お兄ちゃん?」


 あー。

 当てがないわけでもない、か。

 まあ本当に緊急手段ではあるけど……。


 そう思った俺は大きく息を吐き出して妃愛に向き直るとこう返していった。


「ちょっと無理やりだけど当てが見つかったよ。だから妃愛は好きなだけ欲しいもの取ってくれ。んで、残ったものは俺が配りに行くから」


「え? そ、そうなんだ。うん、わかった。それじゃあ、早速開封しよっか!」


「そうだな。……って言っても開けるのだけでも一苦労だけど」


 というわけで。

 そのまま一日がかりで届いた荷物を開封した俺と妃愛は、各々が必要なものを取り終わると、その品物を俺の蔵の中に投げ込んでいった。妃愛は最後まで俺の当てが誰なのか気になっていたが、それはあえて伏せることにした。

 というのも。

 さすがにそれを妃愛に説明するのは少し難しいからだ。

 そしてその理由はその日の夜、明らかになる。


「……よし、妃愛は寝たみたいだな。それじゃ早速」


 そう言って取り出したのはカラバリビアの鍵。そのレプリカ。

 そしてそのまま次元の壁を開いたトレはその中に身を躍らせる。

 向かう世界は始中世界。

 無理やり連れてこられたとはいえ、世界間の移動は問題なく行える。

 始中世界は妃愛の世界とは打って変わって青空が気持ちいい午前九時ごろの気象環境だった。時間の進むスピードを変えているため誤差はでないはずだが、リアルに時差ボケを味わうことになってしまった。

 そんなことを考えながらその当てがある人物の下へ急行する。生憎、相手が相手のため気配を感じることはできなかったが、俺には「眼」がある。

 先の戦いで新たな使い方を習得した魔眼。その力を使えば世界中を見渡すことができる。とはいえ、ただ「視る」だけなら神々が持つ真眼でもできるため珍しいものではないが。


「えーと、魔眼を発動して、それから……。……お! いたいた!」


 案の定、その人物はすぐに見つかった。

 場所はエルヴィニア秘境から少し離れた森の中。

 どうやら俺に視られたことに気がついたようだが、別に知らない仲ではないためそのまま向かっていく。

 高速転移を使用して移動した俺はにこやかに声をあげて話しかけていった。


「よっ! 久しぶりだな、サシ……。っておわああ!?」


「ふっ!」


 直後。

 俺の体を薙ぐように赤い剣撃が放たれてくる。

 その一撃をギリギリ躱した俺は、すぐに体勢を立て直して気配創造の刃を作り出していった。

 しかし、そんな俺よりも速く次の剣撃が飛んできてしまう。


「や、やばっ!」


「……遅い」


「くっ!」


「っ!?」


 だが、その攻撃は俺に当たる前に弾け飛んだ。

 気配創造の刃で対処できないと判断した俺は、そのまま発動中だった魔眼を剣撃に向け、それを破壊したのだ。

 さすがに相手もその反撃には対処できなかったようで驚いた顔を俺に向けてくる。

 とはいえ、「こいつ」がここで止まるわけがない。すぐにそう判断した俺は、そのまま第二神妃化を発動して背後に回り込むと、その首筋めがけて手刀を振り下ろした。


「はあっ!」


「……ふっ」


 しかし。

 俺には見えてしまった。

 その口に笑みが浮かんでいることを。

 瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。


 ま、まずい!

 な、何かが、くる!


 と思ったのだが。


「え……?」


「……」


 何もなかった。

 それどこか先ほどまで漂っていた濃密な殺気も消え去っている。

 すると、俺の前に立っていた「そいつ」は嬉しそうに微笑みながらこんなことを呟いてきた。


「……よかった。ハクはハクのままね。その強さ。たまらないわ」


「……はあ。か、勘弁してくれ。寿命が十年は縮んだぞ……」


「でも、私とハクの関係はこうでなくちゃ面白くないでしょ?」


 笑顔でそう言ってくる声の主。

 それは真っ赤な長い髪に誰もが羨むような美貌を持った一人の女性だった。

 だが反してその身につけている服はボロボロで少しみすぼらしさすら感じてしまう。


 ……あー、そいえばこいつ、武者修行の旅に出てるとか言ってたな。

 すっかり忘れてたぜ……。


「あのなあ、お前が俺以上の戦闘狂だってのは知ってるし、戦いが好きなのはわかるけど、いきなり襲いかかってくるのはやめてくれ、頼むから。……それにしてもまた強くなったみたいだな、サシリ」


「でもハクには通用しなかったわ。最後だって『気づいてた』みたいだし」


「……やっぱり最後のあれは何かあったのか?」


「別に何もないわよ。むしろ何かあるんじゃないかって思わせることが目的。ほら、吸血鬼ってそういう幻術系の力に長けてるから」


「あ、あはは……。そ、そういうこと……」


 って!

 そんな生易しいものじゃなかったですけど!?

 一瞬マジで殺されるかと思いましたけど!?


 とまあ、比較的明るい雰囲気で脳内ツッコミを入れた相手、もとい俺がお礼品を渡そうとしている相手。

 それはサシリだった。

 それこそ最近会ってなかった上に、少し聞きたいことがあったため彼女の下に駆けつけたというわけなのだが、挨拶という名の攻撃をかまされてしまった。

 するとサシリは俺に何やらいぶかしむような視線を向けながらこんなことを呟いてくる。


「む……。そういえばさっきものすごく大きなハクの気配を感じたんだけど、あれは何かしら?」


「へ? 俺の気配? いや……? 別に何もしてない気が……。……あ!」


 心当たりがあるとすれば一つ。

 この世界と妃愛の世界では時間の流れが違う。よって、俺が妃愛の世界に連れて行かれたのはこの世界でいうと高々数時間前の話なのだ。

 ということは、その気配の正体は――。


「あー……。多分、新技というか新しい変身の練習だな……。少しでも体に慣れさせるために修行してたんだ。……でも、空想の箱庭を発動してたはずだから気配は漏れてないはずだけどなぁ」


「漏れてたわよ、かなり。まあ、一般人にはわからないでしょうけど、パーティーメンバーは全員気がついてるはずよ。それくらい大きな気配だったから」


「あ、あはは……。悪い、驚かせちまったな」


「いいわよ。少なくとも、私は。それに今更でしょ、ハクが何かしでかすのは。……と、まあ、世間話はそれくらいにして」


 サシリはそう言うと、ボロボロだった服を一瞬で再生させ、貴族のような洗礼された振る舞いで近くにあった岩の上に腰掛けていった。そして声のトーンを一段階落として話を続けてくる。


「ハクがいきなり私に会いにきたってことは、何か聞きたいことでもあるんでしょ? その話をしましょう」


「話が早くて助かる。……あー、でもその前に今、俺が置かれている状況を説明しないといけないな」


「わかったわ。ならそれからお願い」


「ああ」


 そうして、俺は自分がいきなり別世界に飛ばされたこと、その世界で妙な戦いに巻き込まれていること、そして今回の本題について話していった。

 その話を全て聞き終えたサシリは少しだけ無言で何かを考えたあと、すぐに俺の疑問について答えてくれる。


「つまりハクが聞きたいのは私が使っていたザンギーラに神祖の力が宿っていたかどうか。そしてザンギーラがリアの神宝に何か関係があったかどうか、ってことね?」


「ああ。アリエスのカラバリビアみたいにこの世界で発見されたけど、元はリアが作った神宝だったって例もある。だからもしかしたら、そういうこともあるかと思ったんだけど……」


「答えを言えば、どちらも絶対にありえないわね」


「やっぱり、そうか……」


「ザンギーラは吸血鬼の長としてあの城下町を治める者にしようが許されている剣よ。でもその力は神祖が持つ力に依存したもの。そもそも物質を血液とみなして操る力だって宿ってない。むしろそういう力は吸血鬼本人が持ってる力ね」


「ってことはこの世界のザンギーラには何の力も宿ってないってことか? いやでも確か俺と戦ったときは」


「ええ。あの剣は相手の攻撃速度を自身の攻撃速度に上乗せすることができるわ。それと、本当なら受けたダメージをそのまま吸収して半永久的に強くなることができる、なんて力もあったはずよ」


「え……。そ、それは初耳なんだけど……。というかそれ、強すぎないか?」


「そう。だからあの剣にはいくつもの封印が施されてるの。私でもその二つの能力を解放させるので精一杯だったわ。まあ、今の私があの剣を持ってたら話は別かもしれないけど、私はもうあの町の長じゃないし、どれだけの能力が隠されているのかは、わからないわね」


「な、なるほど……。でもだったらあの封印されてる能力の中にそういう力があったっていう可能性はないのか?」


「それはないわ。こればっかりはあの剣を使ったことがないとわからないと思うけど、あの剣に秘められてる力はあくまで吸血鬼が吸血鬼のために用意したもの。ハクがさっき言った能力はまるで使用者を『吸血鬼に作り変える』ような力だった。だから前提としておかしいのよ」


「……そうか。ってことはおのずと――」


「ええ。あの剣がリアのものだったという線もなくなるわね。リアの神宝は神のために用意されたもの。加えてそれは神話に残されている多く武器具の原点となるもの。吸血鬼に関わりのある神々や武器もあるかもしれないけど、それをリアが持っていたっていうのは、まずありえないと思うわ」


 となると。

 いや、ますますわからないことが増えてしまった気がする。

 后咲はリアの神宝を召喚することで神器としていると言っていた。いくら世界が違うとは言え、リアにまつわる伝承に大きな違いはない。そうなると神器にザンギーラが含まれていること自体おかしいことになる。


 ……ということは。

 そもそも前提条件が違うと考えるべきか?

 神器はリアの神宝ではなく、別の場所から引き寄せている……?


 と、ここで急に黙ってしまった俺をサシリがじっと見つめていることに気がついた。

 その顔には少し俺を心配しているような雰囲気がにじんでおり、思わず声を漏らしてしまう。


「ん? どうした?」


「……大丈夫? もし助けが必要なら私もついて行くわよ?」


「……気持ちは嬉しいけど、問題ないよ。俺が呼び出されたってことは何かしら意味があるんだろうし、それはあくまで俺の問題だろうから」


「はあ……。またそうやって一人で抱え込もうとする……。これは本当にアリエスの気苦労が絶えなさそうね」


「そ、それを言われると耳が痛い……」


「まあ、でもとにかく元気そうで安心したわ。久しぶりに人と話すのも悪くないわね」


「おいおい。まさか武者修行に夢中になりすぎて、誰かと会話することすら忘れてたなんて言わないだろうな」


「さあ、どうかしら。……ハクと星神討伐のために世界中を回ったはずなのに、この世界にはまだまだわからないことがたくさんある。それを追いかけてたら……」


「追いかけてたら?」


「……なんでもない。少し物思いに更けただけよ。で、確か私に渡したいものがあるって言ってた気がするけど?」


「ああ! それだ、それ! えーと……。これ!」


 その言葉によって当初の目的を思い出した俺は、蔵から大量のお礼品を取り出していく。


「え、な、何これ……?」


「さっき言ったお礼品だよ。ネビュリアルスっていう国の特産品とか色々あるんだけど、あまっちゃって」


「い、いや、別に私、いらないんだけど……」


「だったらみんなに配ってくれないか? なんなら城下町の住民に配ってもいいし」


「だから、何でそれを私が……」


「いや、本当はエリアとかに渡して色んなところに配ってもらおうと思ったんだけど、ザンギーラのことでサシリに聞きたかったからちょうどいいなーと思って」


「つ、つまり私は面倒ごとを押し付けられようとしているわけね……」


 とまあ、結局はそう言いながらもサシリはそのお礼品を受け取ってくれた。

 そしてサシリとわかれた俺はそのまま妃愛の世界に戻っていく。

 サシリとの会話は俺に大きな収穫をもたらしていた。少なくとも神器というものがリアとそれほど深く繋がっていないことがわかっただけでも進展しているだろう。

 と、考えていた帰り道。

 ふと、とあることを思いついてしまう。


 なぜそんなことを思いついたのか、それはわからない。

 でも、どうしてだろうか。

 それはあまりにも「自然」なことのように感じたのだ。


「まだ少しあまってるから日頃のお礼ってことで」


 こうして。

 俺は妃愛の家に戻る前にもう一箇所だけ寄り道をするのだった。












「……で、これは一体何なんでしょうか、夢乃?」


「さ、さあ? 私が今朝、玄関を見たらこんなものが置かれていて……」


「まあ、何となく犯人はわかりますけど」


「……妙に嬉しそうですね」


「それこそ気のせいです。ええ、気のせいですとも」


 そう言って、突如として届けられた大量の宅配物を図書館の中に運んでいく后咲。

 その足取りはどこか。




 軽く見えたのだった。


次回から新しい章が開幕します。

次回は6月27日21時に更新します。


※6月27日追記

諸事情により27日の更新はお休みいたします。

次回更新は7月4日21時になります。

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