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第九十九話 vs勇者、四

今回はヘル無双です!

では第九十九話です!

 死の女神、ヘル。

 この女神は、北欧神話のなかでもかなり特異な部類に含まれる女神だ。

 半身が白と黒に塗り分けられており、その表情は人間なのかはたまた化け物なのか判別することはできない。ニブルヘイムにて死者の魂を管理していたという話もあるが、基本的には自由気ままに過ごしていた女神である。

 それはニブルヘイム、のちのヘルヘイムがラグナロクの戦害をまったく受けなかったことに起因する。

 そもそもニブルヘイムとは北欧神話における地獄のような場所で、死者の魂は基本的にこの世界を彷徨うことになる。

 しかし当の主神、オーディンは有力な戦士の魂をワルキューレが回収しエインヘリヤルとして復活させていたため、ほとんど関わりがない世界であったのだ。

 それゆえラグナロク終結後も生き残ったとさせ、神が寿命で死んでしまう北欧神話ではわりと長く生きた女神である。

 またヘルは死者蘇生を行える唯一の神としても君臨した。それが嘘か真かは今となってはわからないが、それでも強力な力を宿していたことは確かだろう。


 その女神が今、アリエスの前に降臨した。


「あ、あなたは………?」


 アリエスは地面に倒れながら掠れた目を必死に開き、その女神に問いかけた。


「ヘル。みんな私のことはそう呼ぶわ。あの人から頼まれてあなた達を助けに来た、と言えばわかるでしょう?」


 ああ、そうなのか。

 アリエスはそう思ってしまった。

 自分が最後の最後で助けを求めてしまった青年はまたしても自分を救った。その事実は泣きそうなほど嬉しかったが、同時にその期待に答えられなかった自分を殴りたくなてしまう。


「吹き荒れろ、煉獄」


 そう減ヘルが言葉を発した瞬間、アリエスとエリアを包み込むように、青色の炎が燃え上がる。


「「ッ!?」」


 いきなりのことで二人は咄嗟に身構えてしまうが、直ぐにその炎の正体に気がつくと肩の力を抜いた。


「ごめんなさい、私は自分の性質上、このような方法しか取れないの。でも痛みはないから安心しなさい。それと魔力も復活するはずよ」


 その炎は二人の傷を完全に癒し、さらには魔力も最大まで回復させた。

 ヘルの力は死者蘇生。それは受け継がれる神話でどのように書かれていたとしても、それを語られるだけのことをヘルは行ったという証拠だ。であれば現存するヘルがそれと同じようなことを出来てもおかしくはない。

 煉獄はときに守りの盾として作用する。それが長い間ニブルヘイムに篭っていたヘルのたどり着いた一つの答えだ。全ての苦痛から解放する炎は、骨だろうが、魔力だろうが元に戻す。


「あ、ありがとうございます……。ヘルさん……」


 アリエスは立ち上がると、服についた土を払いながらそう呟いた。みればエリアもこちらに走りながら近づいてきた。


「え、えっとこの女性は、ど、どなたですか………?」


 その二人を眺めたヘルは少しだけ微笑むと、すぐさまその表情を変化させた。


「あら、あの人の膜が消えてるわね。もしかしたら消されたのかしら?」


「え?そ、それはどういうことですか?」


 アリエスはヘルの顔を眺めながら問いかける。


「あの人はあなた達に気配創造の膜を張っていたのよ。だけどそれが綺麗さっぱり消えてる。これは何かによって破壊されたというのが正しいかしら」


 その事実はアリエスもエリアも初めて知った事実で、その言葉を聞きながら二人は心の中で同じことを考えていた。


(やっぱり、ハクにぃには……)


(かないませんね………)


「ふふ、女の子がそんな顔したら勿体無いわ。あなた達は綺麗なんだから、いくら戦場でも女の子らしくしないとダメよ?」


 とヘルはその空気を変えるように笑いながらアリエスたちに話しかける。だがその目は笑っていない。それは決してアリエスたちに向けられたものではなく、遠くに吹き飛ばされた勇者たちを見ていた。


「あ、あのヘルさん。わ、私達はいったどうしたらいいでしょうか……?」


 アリエスはおずおずと顔を上げながらヘルに言葉をかける。


「そうねえ、とりあえずはあの後ろにいっぱいいる有象無象をお願いしようかしら。今のあなた達なら余裕なはずよ。私はあの五人を相手にするわ」


「わ、わかりました」


 アリエスはそう頷くと、エリアを引っ張ってその場を後にする。


「ちょ、ちょっとアリエス!あ、あの方は一体何者なんですか!?」


「大丈夫、私達の味方だよ」


 アリエスはエリアにそう答えると、魔本を勢いよく開き魔力を放出しながら声をあげた。


「今の私達にできることはこの帝国兵を倒すこと!それくらい出来なきゃハクにぃに顔向けできない!」


 いつもとは違った覇気を纏わせているアリエスを見たエリアは、一瞬だけ呆けていたがすぐさま片手剣を握り直すと、口に笑みを浮かべながらアリエスの隣に立った。


「そうですね………。やりましょう、アリエス!ここからが私達の戦いです!」









「さあーて、気分はどうかしら異世界の勇者さん?」


 ヘルは余裕たっぷりの顔で吹き飛ばされた勇者達に話しかける。勇者たちは致命傷ではないが体の所々に傷をつくり地面に蹲っていた。


「く、くそ!一体なんなんだ、あの攻撃は!」


「私の顔に傷が…………。許さない、許さない許さない!」


「あ、ああ、俺のハニーが………」


「次から次へと、うざすぎるわ!!!」


「………………」


 五人の勇者はそれぞれ違う反応を示し、悶えていた。その光景は地獄の門番をしていたヘルからすれば好物以外の何者でもなく、舌を口の中で回しながら、さらに言葉を投げる。


「どうするのかしら?このまま私はやめてもいいのよ?そのほうがあなた達は痛い目にあわずにすむわよ?」


「馬鹿言うな!こんな無様な姿で帰れるわけがない!僕達はお前をなんとしても倒す!お前は勇者の最優先討伐対象だ!!!」


 その瞬間、息を合わせたように五人の勇者はヘル目掛けて攻撃を開始する。しかしそんな光景を目にしながらもヘルは笑みを崩さずニヤニヤと笑った。


「ねえ、知ってる?勇者っていうのは、自ら勇者って語らないものなのよ?」


 かつて目にしたエインヘリヤル達はその全てが人間界え勇者や英雄と崇められていた者たちだった。その者たちは決して自らを棚に上げることはせず、英雄願望は持っていても英雄の名前を振りかざすことはなかった。

 ヘルはその記憶を掘り返しながら五人の勇者を全て同時に迎え撃つ。

 剣や槍はヘルの体に触れた瞬間溶け出し、跡形もなく消失する。


「な!?ば、馬鹿な!?」


「私の剣が………!?」


 それは死の女神特有の能力で、触れたものに死を与える力だ。それはハクの魔眼ほどの出力ではないが、所詮人間の域をでない勇者達の武器など容易く破壊する。

 それが本物の神であり、格の違い。

 驚いている勇者一行は、判断力だけはいいのかすぐさま距離を取ると、魔術における遠距離攻撃をヘルに向かって放った。それは普通の冒険者では一瞬で灰になるほどの威力が込められていたのだが、今回は相手が悪い。


「まったく、私をなんだと思っているのかしら。仮にも魔術のオンパレードな神話にいる私に魔術なんて死亡フラグよ」


 北欧神話は数多くある神話のなかでも、各個人の能力だけでなくルーン文字を多用する魔術の神話でもあるのだ。

 それは主神であるオーディンがミミルの泉で知識を得たように、また三姉妹のうち二人が世界樹にルーン文字を刻みこんだように、北欧神話と魔術は切っても切り離せない関係なのだ。

 勇者達の魔術はヘルの体に当たる直前で、いきなり方向を変えヘルの右手に全て収束する。

 それはすぐさま勇者たちに向かって放たれた。


「お返しね」


 その攻撃は勇者たちが放った魔術をかき集め、さらにヘルの魔術で重ねがけされているものだった。当然それは絶大な力が秘められており、このエルヴィニアを吹き飛ばしてもいいほどの魔力が集中していた。


「な、なによあれ………。完全に化け物じゃない!!!」


「あ、あなたスキル使いなさいよ!あれならあいつに当てる事だってできるでしょ!!!」


「わ、わかってるよ!!」


 そう言われた少年の勇者はヘルの攻撃の前にわざと身を晒すような形で躍り出た。その顔には明らかに勝利の笑みが浮かんでおり、もはや人間の表情ではなかった。


「ハハハハハハ!これでお前もおしまいだ!!!」


 瞬間、その少年の体がぶれたかと思うと、いつの間にかヘルの体は自ら放った魔術の前に移動いており、先程この場祖にいた勇者は、キラが立っていた位置に動いていた。

 それは先程アリエスを叩き伏せるときにも使用したもので、この勇者の固有スキルである。


「へえ、座標交換ってことかしら。確かに面白い攻撃ではあるけれど………」


 ヘルは自分の攻撃を目の前にしながら、右手を上空に掲げ、新たな行動を起こした。


「それだけで勝てるほど神様っていうのは甘くないのよ?」


 ヘルがそう言った直後、ヘルが放った魔術はそのままヘルの体を沿うように上空に上がり、十メートルほど進むとそこでいきなり無数の光弾に分裂した。

 それは一発も外すことなく勇者達の体を弾き飛ばす。


「ぐええええ!?」


「きゃああ!?」


「がはあああ!?」


「うきゃあああ!?」


 その光景はヘルが楽しみにしていたものであり、その恐怖の感情を食べるかのように唇の周りを舌で嘗め回すと、その場に唯一両足で立っている少年に舌を出しながら話しかけた。


「なるほどねえ。あなた、空間に干渉できる力を持っているようね。それも自分に都合の悪いものを打ち消すような、能力をね?」


 すると今まで口数の少なかったその勇者は、ヘルの肉体になぜか破壊されていない片手剣を振り回し、ヘルに返答した。


「俺のスキルは消滅結界。俺に対して害をなすものを全て消失させることが出来る能力だ。この力、今まで持て余していたが、お前になら全力で使えそうだ」


 その少年は無表情ながらも胸の高鳴りを抑え切れないような声のトーンで戦闘態勢に入った。


「いいわ、その力どこまで通用するか、見せて見なさい。でも私の攻撃についてこられるかしら?」

ヘルはそう言うと、そのまま両手に莫大な魔力を集中させ、地獄の門を開けた。


死者の渦(モル・ロード)


 ヘルの背後に大きな黒い穴が出現し、その中からは治療の屍があふれ出る。それはすぐさま勇者を取り囲み、数の暴力という言葉を現実にする。


「さあ、耐え切ってみなさい。いうなればこれはあなた達帝国軍がやろうとしていたことと同じことよ?」


 この秘境、エルヴィニアに大量の軍隊を送り込みエルフを大量確保する。それはいかえれば多勢に無勢の極みであり、今の勇者の状況と同じだった。


「ぐっ!?」


 さすがに勇者もこの事態は想定外だったようで、顔をしかめながらも剣を振るう。それは一撃で何対もの屍を屠るが、それを補充するようにヘルの後ろにある門からは屍の大群が進撃してくる。


「くそ!な、ならば!消滅結界!」


 その勇者がそう叫んだ瞬間、勇者を中心にヘルが従える屍たちが跡形もなく消え去る。それは灰すら残さず、そこにいた痕跡さえもかき消した。


「はあ、はあ、はあ。こ、これならどうだ………」


 と、息を上げながらその勇者はヘルの姿を確認する。しかしそこにはヘルの姿はなく、消滅結界で消失したか?と一瞬だけ想像してしまった。


「あの人の膜を打ち消すのだから、それなりのものだと思っていたけれど、大したことないわねえ。それに攻撃しているときは相手の居場所を常に観察しておかないとダメよ?」


 その声は勇者の背後から響き渡ると、振り返る前にその意識は刈り取られた。


 気を失った五人の勇者を前に、ヘルは空中で足を組むと戦闘中絶対に崩さなかった笑みを浮かべてこう呟いたのだった。


「今の人間って本当に弱いのね。勇者なんて言ってるから少し期待したのだけれど興ざめだわ」


 ヘルはそう言うと、帝国兵を倒しに向かったアリエスたちを追いかけるのだった。





 残る勇者の数、五人。


次回はアリエスサイドとクビロサイドをお送りします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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