第九話 情報集めと初クエスト
今回はこのお話の前日譚である真話大戦の十二階神について少し触れています。
勘の言い方は既に正体に気づくかもしれません!ぜひ考えてみてください!
では第九話です!
「え?あ、はい、こ、これは、た、確かに正当防衛です……」
俺はジュン、ソンニ、ガルフの三人衆を弾き飛ばした後、己の行動が正当防衛に含まれるのか訊ねていた。
どうやら受付のお姉さんは驚きながらも俺の正当防衛を認めてくれたようで俺はとりあえず肩の荷を降ろす。さすがに先程の状況ではこちらに非はないことは誰が見ても明らかであるが、一応確認を取ってみた。
冒険者登録して五分で冒険者職剥奪になんてなろうものなら笑えないからね。
いや、本当に、冗談抜きで。
俺に吹き飛ばされた三人は建物の壁にぶつかって気絶している。
いいざまだ!
『にしても、また珍しい力を使ったのう主様。それは二位の力じゃったか?』
『ああ、あれの力は威力はない分小賢しい技が多いからな』
十二階神序列二位のとある神の能力、それを俺は使った。本来十二階神とは一位から十二位まで分類されており、十二位に近づけば近づくほど強大な力を持つようになる。つまり今回俺が使った力を持っていた十二階神序列二位は下から二番目の強さということだ。
ちなみに俺が真話大戦で戦った十二階神はイレギュラーも含めると合計五人だ。そしてその中に二位の存在はない。これはリアが初めて十二階神と戦った太古の神話対戦において既に倒されていたからである。
ではなぜその能力を使えるのかというと、ただ単純にリアの記憶から引っ張り出し見よう見まねで再現したのだ。だからオリジナルには程遠いがそれに似たようなことなら起こせるのである。
今回はジュン、ソンニ、ガルフの三人衆の後ろに少々大きい重力場を作り出したのだ。よって俺に向かってくる前にその重力に引きずられて後ろに吹き飛ぶという仕組みである。
すると受付のお姉さんがなにやら申し訳なさそうに頭を下げていた。
「あ、あのこのたびはこのような事態になってしまい本当に申し訳ありませんでした。正直本当に助かりました。あの三人はギルドに来るたび私をいやらしい目で見ていたので、私もどう対処しようか悩んでいたのです。ですので内心スカッとしました」
ああ、そうですか。そう言ってもらえると俺もありがたいのだが。
にしてもあの伸びてる三人、ギルドに来るたびあんな感じだったのか。それは相当迷惑なことだっただろう。
ふむ、なんならもう一発ぐらいかましてやろうか。それくらいはいいのかもしれない。
すると受付のお姉さんの後ろから、また違うギルド職員の人が現れた。
「ラン、もう今日はあがっていいよ。こっからは私が引き継ぐから。少しは気分転換でもしてきたらどうだい?」
「セ、セルカさん……。そ、そうですね。それじゃあ今日は失礼します」
「ああ、そうするといい」
そう言ってランと呼ばれた受付のお姉さんはギルドの奥のほうにはけて行った。
「んじゃあ、改めてウチの娘が迷惑をかけたね。最近ランはあの三人に詰め寄られて相当精神的に疲弊していたんだ」
おおう、まじか。そこまでしつこいともはやストーカーだな、ストーカー。
「それじゃあ、もう一発殴っときます?」
「ハハハ、君、面白いね。でもこれ以上君に負担はかけられない。こちらで処理しておくよ。そして私は一応このギルドの受付チーフをやっているセルカ=イアリルだ。よろしく頼むよ」
そう言って長い茶色の髪を揺らしながら颯爽と現れた女性は自己紹介をした。この女性も先程の受付のお姉さんと引け劣らないぐらい綺麗な人だ。
もうー何なんですかね!異世界に美人さんが多いんですかね!眼福最高ッス!
「一応君のことはカラキから聞いている。ハク=リアスリオン君、アリエスちゃんを盗賊から助け、この村まで送ってきた張本人。いや、まったく昨日は災難だったね」
「い、いえ、もう気にしていないので大丈夫です」
「そうか。そう言ってもらえると助かる。カラキは昔から少々責任感が強くてね。若いうちは苦労したもんだ」
ん?若いうち?カラキは少なくとも三十歳は超えているし、セルカさんはそのカラキさんと昔なじみみたいな口ぶりをしている。にしてはセルカさんは若すぎるしなぁ。
うん?これってどういうことだ?
「あの……。失礼ですが、年齢をうかがっても……?」
「うん?ああ、私はハーフエルフなんだよ。エルフほど寿命は長くはないけど人族よりは遥かに長く生きる。まだわたしは百五歳だけれどまだ若く見えるだろう?」
と言ってほらほらと髪に隠れている耳を俺に見せてきた。
あ、本当だ。ものすごく長いとはいえないけれど少し耳の先端が尖っている。
「で、ハク君なにやらまだ私たちに聞きたいことがあると言っていたね。私に答えられる範囲であるならば出来る限り答えよう」
お、それは助かる。百年も生きているのなら持っている知識量も膨大だろう。
年長者は語る、というやつだ。
「では遠慮なく……。まず魔法について教えてください。俺は生まれてこの方魔法というものをみたことがないのです。できれば概念とか仕組みとかもあればそれも一緒に」
「魔法を見たことがない?ほう。それはまた珍しいね。ということは魔術のことも知らないのかい?」
なに?魔術もあるのか、この世界。
うーん、魔術か。あんまりいい思い出がないんだよな。頭の中にとある隻眼の魔術神である十二階神の一人を思い浮かぶが、思いっきり頭を振りそれを振り払う。
あれは嫌な、というか思い出したくない過去だ。
「ええ、それも知りません。説明をお願いします」
「いいだろう。まず魔術とはなにか。魔術とはあくまで人間の人智において理論的に引き起こされる魔力的法念だ。故に魔術は多種多様な汎用性を持ち創作も比較的簡単に行うことが出来る。使用魔力も加減を間違えなければそれほど多いものではない。しかし最上位魔術ともなれば話は別だがね。ま、とはいえ魔術はやり方さえ覚えてしまえば誰にだって使うことが出来るのさ」
なるほど、あくまで人間の理解できる範囲で魔力というものを落とし込んでいるのか。これは興味深い考え方だ。基本的にこのような超常的な力は使用者を選ぶ場合が多い。いわゆる適性と言うやつだ。しかしこの世界の魔術はそれを必要としないのだという。
これはもしやとても便利なものではないのか?
「では次に魔法についてだ。魔法とは人間の人智では解き明かせない領域に存在する力だ。魔術は途中計算を残しながら答えに現象という結果にたどり着くのに対し、魔法は過程をすっ飛ばして直ぐに結果をはじき出す。それゆえ魔術より遥かに強力な法術を展開できるが使用魔力が尋常じゃないくらい持っていかれる。だからあんまり魔法を普段使いしている奴は少ない。それと魔法は使える者と使えない者が先天的に決められている。その確率は大体五分五分だと言われているが遠い西のオナミス帝国では魔法が使えない者は迫害されていたりするらしい。……まったくくだらない世の中だ。……おっと、すまない。私から説明できるのはこれくらいだが、どうだ?」
「はい、参考になりました」
魔法、使用者を選び絶大な威力を持つ法術か……。こればっかりは俺も使えるかわからないな。もちろん神妃の力を使えば似たようなことは出来るのだろうけれど、それでも模造は模造だ。本物にはなりえない。
これはのちのち調べていく必要があるな。
「では他にはないか?」
まだ聞きたいことはある。それも先程の魔法の話のせいで増えてしまったが。
「先程、西の帝国で魔法が使えないものは迫害されているとおっしゃられましたが、その他にも種族や能力で差別の問題とかはあるのでしょうか?」
するとセルカさんは一瞬驚いた顔をして再び語りだした。
「まったく君は鋭いところを突いてくる。はぁ……まあいいだろう。本当に君は世情に疎いようだしね。基本的に種族間における迫害問題はそれほどない。かつてはハーフエルフも迫害の対象だったらしいが、エルフが人族と共生するようになってからはそれもなくなったのだとか。ただ……」
「ただ?」
「獣人族だけはいまだに差別を受けている。女や子供は奴隷として、男は強制労働を強いている現場が数多く存在する。……まあ私は馬鹿げていると思うがね。しかしそれでも獣人族にとって一つだけ救いがある。獣国ジェレラートだ。その国は唯一獣人族の人権を保障している。そこには獣人族だけでなく獣人族たちと共生を望む他の種族も生活している。まあ獣人族における楽園のようなところだろう。私が話せるのは以上だ」
「十分です。ありがとうございました」
やはりどの世界に行っても人種差別はあるらしい。
まったくもってくだらない。
しかし今後獣人族と会う機会があるならば慎重に接しなければならない。もちろん俺は獣人族を避ける気はないが、あちら側が相当警戒しているはずだ。
これは肝に銘じておかねば。
「では最後の質問です。現在ギルドランクトップのSSSランクの冒険者はどれくらいいるんですか?」
「うん?ああ、そうだな。君も今日から冒険者になったのだ。上位陣の情報を知りたくなるのは当たり前か。現在SSSランクの冒険者は世界で五人存在している。どれも怪物ぞろいと聞く。まあこんな小さな村には来ることすらないだろうけどね」
五人!?たった五人しかいないのか。これは道は長いな……。
「それと……」
「はい?」
「今の君にぴったりのクエストを用意しておいた。受けてみる気はないか?」
と言ってセルカさんはカウンターの下から一枚の紙を取り出した。
まあ元々何か依頼は受けるつもりだったし、好都合と言えば好都合なのだが……。
なにか裏がある気がするなー。悪い人ではないのはわかるのだけれど、なんだか掴みどころのない人だ。
そして差し出された紙を確認する。
えーとなになに、近くの山道で多数の魔物が出現しているので討伐してほしい………。その数およそ五十体。
っておい!なんだよ五十体って!Fランク依頼にしては多すぎだろう!
なんですか、このギルドは本当に新米殺しでもやってるんですか?
「これ、絶対Fランク依頼じゃないでしょう!?なんか依頼ランクの欄黒く塗りつぶしあるし!」
「ハハハ!多数の盗賊を一瞬にして倒してしまう君に、いまさら採集依頼を出してもつまらないだろう?だからこれは一種の試験だ。このクエストを無事成功させれればそのクエストの依頼ランクまで冒険者ランクを上げておこう。ほらランも言っていただろう?ランクアップには特例があるって。どうだ?悪くない話だろう?」
ぐ、やっぱり裏があった。本当に読めないなこの人。人間長く生きるとこんな風になるんですかね?
だが当然断る気もないので一応二つ返事で返答する。
「まあいいですけど、そのかわり無事に達成できたら本当にランク上げてもらいますよ?」
「ああ問題ない、ギルドマスターには私のほうで話を通しておく」
なにがそんなにうれしいのかセルカさんはニコニコと笑みを浮かべたままクエストを受理していく。
「よし、これで大丈夫だ。魔物の場所は依頼書に書いてあるからそれを見てくれれば問題ないだろう。とりあえず御武運を」
おいおい!その言葉感情が篭ってないぞ!本当に大丈夫なんだろうな!?
俺はそれを受け取って受付に背を向けギルドの出口から外に出た。
まあ気分的には悪くない。いろいろとアクシデントはあったもののこうやって無事に依頼を受けることが出来たのだ。
あとは俺が如何に依頼を完遂するか、ただそれだけだ。
俺は少し下を向き軽く笑いながら、先程からずっと黙っていた相棒に問いかけた。
『それじゃ、いっちょやってきますか!いくぞリア!』
『おう!ぶちかましてやるのじゃ、主様!』
ちょうどそのころ、ハクが出て行った扉を眺めてセルカは高揚を隠し切れなかった。ギルド内に入ったときから感じていた圧倒的存在感。
強いということはわかる。
だがその先が推し量れない。
元Aランク冒険者である自分でさえ先の見えない実力。
だからセルカは本当にわくわくしていた。
ガラの悪い冒険者を一瞬で蹴散らし、獣人族の差別に憤りを覚えた青年を。
彼ならば何かを変えてくれるかもしれない。そう感じてしまった。
「さあ私に見せてくれ、ハク=リアスリオン君。君のその力を、その意志を」
セルカがハクに渡した依頼書の控えには赤字でこう書かれていた。
「依頼ランクA。赤竜の目撃証言あり、注意すべし」
今回も説明回でした。のちのちかなり大切になることを伏線で入れてあったりします!
次回は完全な戦闘回です!
誤字、脱字があればお教えください。