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偉大なる肉

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「はぁ、疲れたなぁ……」


「……」


 ようやく魔王城に戻ってきた俺たち。


 しかしフィアの表情は優れず、黙り込んでいる。


「よし、じゃあ俺はご飯準備しておくからフィアはお風呂に入っておいで」


「……わかった」


 お風呂に向かうフィアにはやはり何時もの元気はなかった。




「うーん、どうするか」


 俺は買ってきたばかりの肉を眺めながらつぶやく。


 けどそれは何を作るかということに対してではない。


 どうやってフィアに元気を出させるか、ということについてだ。


 そもそもフィアの元気がなくなったのは、先代魔王様の話を聞いてからだ。


 俺はこちらの世界に来たばかりで、先代魔王様のことは何一つとして知らない。


 そしてその先代魔王様を倒したという勇者についてももちろん全く知らない。


 一体、何があったというんだろう。


「うーん……」


 俺はそのことを考える一方で料理を進めていく。


 最初に使うのは店主にオススメされて買った肉だ。


 簡単なもので申し訳ないが、肉野菜炒めにでもすればいいだろう。


 鍋に具材を入れ、やわらかくなるまで炒める。


 因みに帰ってくる途中でパン屋なるものも見つけた際買っておいたので、それを皿に盛っていく。


 これで、ごはんの用意はある程度片付いた。


 しかし、やっぱりフィアのことをどうにかしないといけないだろう。


 このまま元気がないままでは、あの満点の笑顔を見ることが出来なくなってしまう。


 それだけはなんとしても避けなくてはならない。


 もちろん自分のためという理由もないことはないが、俺としてはフィアにはいつでも笑っていてほしいのだ。


「でもやっぱり、昔のことが何もわからないんじゃ励ましようがないよなぁ……」


 適当なことを言って励ましたところで、また同じようにフィアの元気がなくならないとは限らない。


 かと言ってフィアに昔のことを直接聞くなんてことは絶対できないし、食材もある程度揃えてしまった今では再び城下町に降りるのも違和感がある。


 城下町に一人で行くとしても、そもそもフィアがそれを許してくれるか分からない。


 他の魔王軍の奴らと同じように俺までいなくなってしまうと勘違いし、俺の飼い主という立場を利用したりしながら俺の一人での外出を阻止してくるだろう。


 まぁそんな最高に可愛いフィアも一度は見てみたいところだが、今は自重しておこう。


 さすがにそんな雰囲気じゃない。


「やっぱこっそり聞きに行くのがいいのかぁ……?」


 俺は顎に手をやる。


 何度も繰り返し考えたが、やはりそれが一番手っ取り早く確実な方法な気がする。


 フィアに気付かれずに出ていくのは至難の業かもしれないが、それはどうにかするしかないだろう。


 例えばフィアが夜眠ったあとの深夜に出ていく、とかか?


 いやでもそしたらそもそもあの店主が起きていない可能性が高い。


 うーん、どうするか……。


「ツキト、あがったぞ」


 するとその時フィアの声がかかる。


 振り返ってみると、そこにはフィアが立っていた。


 お風呂からあがったばかりのフィアの頬は赤く染まり、髪も少しだけ湿っている。


 やばい可愛い。


「ほら、タオルかして」


「うむ」


 内心ではフィアの可愛さに打ちのめされつつも、何とか平静を装い、何時も通りタオルを受け取る。


 フィアはちょうど俺の前にまでやってくるとじっと動かなくなった。


「……」


 俺はそんなフィアの髪の毛をタオルで、湿り気を優しくふき取る。


 つい先日試しにやってあげたのが気に入ったのか、今では風呂上りの日課となっている。


 フィアの髪の毛は年の割に長い。


 腰辺りまであるその髪を拭くのは結構大変だが、お風呂上りのフィアのいい匂いを堪能できるから最高だ。


 ほんと最高だ。


 いかんいかん、これではただの変態だと思われてしまう。


 俺はただフィアが成長した時のことを思ってだな……って誰に言い訳してるんだ。


「よし、こんなもんだろ」


「かんしゃするのだ」


 少し時間がかかってしまったが、ちゃんと湿気を拭きとれただろう。


「じゃあご飯にするか」


「うむ」


 そう返事するフィアはやっぱりまだ元気はないらしい。


 俺は冷めてしまった肉野菜炒めをもう一度炒めなおし、パンの盛られた皿に移していく。


「……っ」


 ちらりとフィアに視線を移してみると、興味がないようなふりをしてはいるが涎が隠せていない。


 なんとまぁ、可愛いことで。


「じゃあ、いただきます」


「い、いただきます」


 躊躇いがちにそう呟くフィアが、一口大に切られた肉を頬張る。


「……っ!」


「ふふ」


 どうやら好評だったらしく、しゃべる間もなく食べ続けている。


 そんなフィアがあまりにも可愛くて、思わず笑ってしまった。


「……」


 しかしそう思っていたのも束の間、フィアの顔が絶望に包まれる。


 何かと思い見てみると、どうやら食べ終わってしまったらしい。


 俺は笑ってしまいそうなのを何とか堪えながら、フィアに手を差し出す。


「フィア、おかわりあるけど、いる?」


「い、いるぞっ!!」


 そう返事するフィアの顔は明るい。


 どうやら俺がいくら悩んだところで、美味しいご飯には敵わないようだ。


「……」


 これはきっと一時しのぎにしかならないのだろう。


 ただ、今はそれでもいいと思う。


 フィアが成長していくように、少しずつ少しずつ、俺も成長していけばいいのだ。


 そしていつか、フィアを心の底から笑顔にしてあげよう。


 その時の可愛さに俺が耐えられるかは、自信ないけどな。


 俺は鍋に残っていた肉野菜炒めを全部、フィアの皿に盛りつけた。

 

現代もの新作です!

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