甘々デートとほろ苦なスパイス
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「よし、じゃあ着いたな」
「う、うむ。おぶってくれて、その、たすかった」
「いいよ、気にしなくて」
やはり俺におぶられるのは恥ずかしかったのだろう。
お礼をいうフィアはどこか恥ずかしそうに目を背けている。
「それにしても賑わってるなぁ」
城下町は魔王城から見ていたときには分からなかったが、案外人もおおく賑わっている。
「ってあれ、ここにいるのって魔族じゃなのか?」
「まぞくだよ? みんなつばさをふくの中にかくしてるけどね」
「なるほど」
翼をかくした魔族というのは人間とほとんど変わらないらしい。
正直、違いが分からないくらいだ。
「じゃあひとまずは持ってきたものを売りに行こうか」
「う、うむ!」
俺は再びフィアの手を握ると、城下町へと入った。
「よし、案外高く売れたな!」
「そうだなっ」
換金所で魔王城から持ってきた品を見せたのだが、どれも高級品だったらしく、かなりの値段になった。
因みに値段についてはほとんど日本と変わらなかったのが、救いだった。
「…………?」
しかし一つ問題を挙げるとすれば、店を出たあたりから周りから妙な視線で見られるようになった気がする。
「な、なんだ?」
別に敵意ある視線では無さそうだが、これだけ視線が集まるとさすがに気味が悪い。
フィアもその視線に気付いているのか、手を握る力が強くなる。
これは少し早めに魔王城に戻ったほうがいいかもしれないな。
それがきっとフィアのためだ。
俺は換金所に向かう際に見つけておいた肉屋へと向かう。
やはりその際も周りからの視線はなくなることはない。
「……はぁっ」
少し焦りすぎただろうか。
息が乱れてしまった。
横を見てみると、フィアも肩で息をしている。
だが、肉屋にはたどり着くことが出来たので、周りの視線も感じなくなった。
「す、すみません、少し多めに買いたいんですけどー」
店の奥にいるのだろう店主に声をかける。
店主が来る前に店の中を見回すが、たくさんの種類の肉が並んでいる。
久しぶりに見る肉は、涎なしでは見られない。
「おう! 待たせたね!」
どの肉を買おうか悩んでいると、奥から年を取った魔族の女が出てきた。
見た目とは裏腹に妙にテンションが高い店主に驚きつつ、肉を選んでいく。
「オススメとかってありますか?」
一応自分で選んだ奴は伝え終えたが、こういうのは店主のオススメもあるのが定番だろう。
「うーん、あたいのオススメはこれとこれ、かね」
「ありがとうございます!」
オススメに従いそれも購入を決める。
さすがに店主のオススメだけあって、見るからにおいしそうだ。
「ほら、フィアもお礼をいわなきゃ」
「あ、ありがとうなのだ」
俺の言う通りすぐに頭を下げるフィアは、もう最高に可愛い。
「……フィア? あんたもしかして、ユースフィア、かい……?」
「?」
フィアがお礼を言った直後、店主の様子がいきなり変わりだす。
「わ、私はたしかにユースフィア、だが?」
フィアも店主の変わりように驚いたのか、どこか緊張しているように見える。
「魔王ユースフィア、かい?」
「そ、そうだ。私がまおーだ」
「な、なんと……」
フィアの答えに店主は顔を覆ってしまう。
本当一体どうしたというのだろうか。
「あたいは、先代魔王の時代に魔王城に仕えていたものじゃ」
突然の告白に、俺たちは目を丸くする。
「あなた様は、先代魔王様の忘れ形見でいらっしゃるのだろう……?」
「……」
俺は黙って、隣のフィアを窺う。
それは俺も薄々と気付いていた。
そもそもこんな幼女であるユースフィアが魔王になること自体がおかしいのだ。
そしてフィアの家族が魔王城に一人もいないということも、不思議だった。
しかしつまりそういうことだったのだろう。
「どうして、先代魔王様は亡くなったんですか?」
俺は俯くフィアに代わって尋ねる。
店主は神妙な面持ちでこちらを見つめてくる。
「勇者が攻めてきたのさ」
「ゆ、勇者、ですか……?」
勇者――ネット小説を読み漁った俺には知らないわけがない単語だった。
きっと俺の知る小説のように魔王を倒しに来たのだろう。
「その魔王様は、何か悪いことでもしていたんですか?」
「いいや、何も」
「何も、ですか」
「あぁ、何も、ね」
「…………」
「まぁ、これ以上は子供の前で話すことじゃないね」
「あ……」
そこで俺は、フィアが俺の手を強く握りしめていることに初めて気がついた。
「ただ少なくとも、ここにいる皆にとって、先代魔王の忘れ形見は、希望そのものなんだってことさ」
どこか自嘲的に呟く店主は、そのまま店の奥に戻ってしまう。
きっとさっきまでの視線は、そういう意図があったのだろう。
俺は商品のお金をカウンターに残し、フィアの手を引きながら店を出た。
現代ものの新作です
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