便利な空間魔法
「これも、これも売れそうだな」
「うむ、どんどんきめてくれ」
俺たちは今、換金できそうなものを探している。
因みに探し始めた当初、俺は問題にぶちあたっていた。
換金できそうなものを見つけたとして、それをどうやって換金する場所まで持っていくかということだ。
残念なことに、元オタクな俺にはそんな能力はない。
せいぜい小さい机を一人で一つ運ぶのが限界じゃないだろうか。
それをまさか魔王城とお店まで、何度も往復したりするわけにもいかない。
時間の問題プラス、そもそも俺にそんな体力もない。
では結果的にどうしようもないのではないか、と思うかもしれないが、ここでフィアの登場だ。
なんとフィアは空間魔法が使えるらしい。
空間魔法というのはその名の通り、空間を司る魔法だ。
その効果は絶大で特に今役立つのは、何といってもたくさんの物をいれられるところだろうか。
そのおかげで俺は今、売れそうなたくさんの家具や装飾品をフィアに確認をとりつつ片っ端から亜空間に詰め込んでいるというわけだ
「ここあたりのは全部要らないのか?」
今までにもたくさんの物をフィアのつくる亜空間に詰め込んできたが、一度もストップされたことがない。
これだけ一杯あれば、何か思い出の一つでもありそうなものなのだが……。
「んーん、ぜんぶすてていいよ」
「本当に?」
「うん、べつにおもいだしたいことなんて、ないからな」
「……そっか」
これらの品は全部、フィアが今以上に小さい頃、もしくはそれ以上昔に集められた品だろう。
きっとそれはフィアにとってもあまり良くない記憶を思い出させるものなのかもしれない。
「じゃあ、全部売っちゃうか」
「うん」
特に何か気にした様子もないフィア。
それはもしかしたら幼いなりの気丈さだったりするのだろうか。
そうだとしたら、やっぱり目の前の幼女は凄いんだろう。
俺はそれ以上何も言わず、ただ黙々と売れそうな品を選んでいった。
「はぁ、疲れたなぁ」
「うんっ」
フィアと二人で協力して魔王城中を駆け巡ったが、意外とたくさん売れそうなものはたくさんあった。
汗がにじむフィアの頬は少しだけ赤く染まっている。
「よしよし、頑張ったな」
俺はそんなフィアの頭を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めるフィアはやはり可愛い。
何より、手伝いをしてくれるフィアが本当可愛い。
あまりにも可愛すぎて逆に困っているくらいなのだが……。
「じゃあ、俺は昼ご飯作ってくるから」
「うん、まってるぞ!」
昼ごはんを食べたら次は、待ちに待ったデートだ。
俺は胸を高鳴らせながら、キッチンへと向かった。
「ふふふーんっ」
「なにをそんなにうかれてるんだ?」
「別に浮かれてないぞー?」
俺は今最高に浮かれている。
それはもちろん、人生初のデートをしているからだ。
それもこんなに可愛い幼女ともなると、浮かれてしまうのも仕方ないだろ?
「ほらフィア、はぐれたらまずいから手繋いでおこう」
「うむ、いいぞ!」
若干緊張しながら提案してみたのだが、フィアは特に気にした様子もなくそれを受け入れる。
こういう幼女の汚れをしらない純粋なところがまた可愛い。
「じ、じゃあはい」
「うむっ!」
おずおずと差し出した手を、フィアは躊躇いなく握りしめる。
その瞬間、思わず身体が固まるが、悟られないように何もなかったかのように振る舞う。
初めて握る女の子の、幼女の手は、ぷにっとしていてとても気持ちいい。
少しだけひんやりとするその手を何時までも握っていられたらいいなと、少しだけ低いフィアの顔を見ながらそう思った。
それにしても城下町までは案外遠い。
魔王城から見下ろしていたときはここまで距離を感じなかったのだが、実際に歩いてみるとまだまだ遠い。
「フィア、疲れてないか?」
俺はフィアに尋ねる。
隣を歩くフィアは何時か見たワンピースとは似たような感じの可愛らしい服だった。
因みに魔族の特徴でもあるらしい翼は、今は小さく収縮されて服の中に纏められている。
「うん、まだだいじょーぶ」
ただ、そういうフィアの顔は少しだけ辛そうに見える。
久しぶりに魔王城を出たのであれば、そうなるのも頷ける。
しかし、これ以上フィアにそんな思いをさせてしまうのは忍びない。
「フィア、のる?」
俺は一度フィアの手を放すと、目の前まで回り込み、膝をつく。
「むう?」
「疲れただろ? のっていいよ」
「う、うん」
珍しくおずおずと提案にしたがうフィアの表情を見れないのは残念だが、致し方ない。
そう、俺はフィアをおんぶしたのだ。
「お、おもくない……?」
そういうことを聞かれると、フィアも普通の女の子なんだなと思える。
「大丈夫だよ」
俺は、自分の重さを気にするフィアを慰めるように、城下町に向けて歩き出した。