緊急事態発生、繰り返す――緊急事態発生。
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「フィナー、ご飯出来たよー」
「いまいくー!」
タオル事件が過ぎて、一週間がたった。
あれ以降、俺に対して妙に警戒心を持っていたフィナだったが、一週間もたてば幼女はそんなこと忘れてしまうらしい。
すっかり元通りになっている。
因みにこの一週間で魔王城のだいたいは綺麗にしたと思う。
それで思ったが、魔王城が住む人に対してあまりに広すぎだったので、もう絶対使わないというところは放置した。
もちろん日常的に使うキッチンをはじめ、廊下、そしてお風呂も全部掃除した、俺が。
異世界に来て体力があがったのか、それともフィアの可愛さのおかげか、存外に早く片付いてよかった。
そしてもう一つ変わったことといえば、食生活。
前まで、魔王であり幼女のフィアは野菜丸かじり、ペットの俺は草をかき混ぜたものだった食事生活も、今ではちゃんと俺が料理している。
何でも異世界では魔石とかやらが働いているおかげで、日本にいたころと料理方法はほとんど変わらない。
もちろんちゃんと調理できるようになったからと言って、問題がなくなったわけではない。
朝、野菜炒め。
昼、野菜炒め。
夜、野菜炒め。
この食生活に問題が無いなんて、誰が言えるだろう。
肉が食べたい。
何より栄養バランスを整えて、健康を少しずつ整えていかなくてはならないのだ。
しかしフィアがそれを妨げている。
今まで野菜丸かじりだったフィアにとって、野菜炒めという料理は、革命と同じレベルで感動ものだったらしい。
俺が作った野菜炒めを美味しそうに食べるフィアの顔といったら、もうたまらない。
この笑顔を見れるなら、これ以上何か変に変えたりしなくてもいいのではないかと思ってしまうくらいだ。
ただやはり成長期にちゃんとした食生活を送らせてあげなくてはならない。
「いただきます」
「いただきますっ」
ここ数日で教えた食事のあいさつも、今では野菜炒めを食べられる合図とばかりに元気よく言っている。
なんて可愛いんだろうか……!
「やっぱりおいしいなこれ!」
確かに野菜を炒めただけでなんでこんなに美味しくなるのかと疑いたくなるが、それが異世界と日本の違いなのかもしれない。
「うーん」
自分で作った野菜炒めを頬張りながら考える。
どうやって野菜以外の食料を手に入れようか。
「なぁフィア、魔王城って貯金とかってあるの?」
「たぶん、ぜんぶもっていかれた」
「だよなぁ……」
フィアの昔の仲間が魔王城を出ていくときに、それを持っていかないはずがないだろう。
もともと貯金自体がどれだけあったかは分からないが……。
「じゃあどうするか……」
部屋の窓からは、魔王城の城下町が賑わっているのでお店自体は絶対あるはずだ。
ただお金がどうにもない。
「あ、でもウチにあるものとかなら、なんでも売ったりしてくれていいぞ」
「おぉぉ!!」
俺が悩んでいると、フィアがそんな提案をしてくる。
簡単な発想ではあるが、意外な盲点だった。
そんなことに気付くとは、さすがフィア。
可愛いなおい。
「じゃあ明日にでも換金しに行こうかな」
今日はもう遅い。
あまり夜遅くに行っても、店が開いていない可能性だってある。
それに換金できそうなものを探す必要だってある。
魔王城なのだから、結構な値になるものが多いだろう。
もちろん元魔王軍のやつらが持っていないとは限らないが、まさか全部持って行ったりはしていないだろう。
現に、この部屋にも案外、高く換金できそうなものもいくつかあるくらいだ。
「私もいっしょにいくぞ!」
しかし、そんなことを考えていると、フィアがまさかの発言をする。
「えっと、それは別にいいけど、二人でか?」
「それいがいに、だれかいるのか?」
「いや、いないけど」
「ならけっていだな!」
元気よく腕をあげるフィアはやはり可愛い。
しかし、これはいわゆるデート、というやつではないか……?
もちろん俺はこれまでの人生の中で、女の子とデートしたことなど一度もない。
だからといって男とのデート経験があるわけでもないからな!?
勘違いするなよ!
そんな俺が、こんなに可愛いフィアとデートなんてしていいのだろうか。
「じゃああした、たのしみにしておくぞ! ごちそうさま!」
綺麗に野菜炒めを食べ終わったフィアが、皿をキッチンに持っていき、そのまま自分の部屋に戻っていく。
初めは食べたままのフィアも、今では立派に片づけをしてくれるようになった。
そんな、成長と共により一層可愛くなっているフィアと、俺がデート……?
本当にとんでもないことになってしまった。
俺、ツキト――――異世界で幼女とデートします。