大問題発生、繰り返す――大問題発生。
魔王の名前
アルカイナ→ユースフィア
アルナ→フィア
に修正しました。
「ツキトー、これはどうしたらいいんだー?」
「ん、野菜はひとまず一纏めにしておいてくれたら大丈夫かな」
「わかったぞ!」
俺たちは今、キッチンを掃除している。
もちろん廊下も掃除しなくてはいけないのだが、優先順位を考えた結果、キッチンから掃除をすることになったのだ。
初めて経験する掃除を一生懸命手伝ってくれるフィアはやっぱり可愛い。
「たまにはペットの言うこともきいてやらんとな!」
「はい、ありがとうございます!!」
はぁ…! 可愛すぎだろ…!
フィアはキッチンに散乱する野菜をまとめ始める。
あちこち行ったり来たりを何回も繰り返し、頑張っている。
俺はというとフィアには任せられないところの掃除だ。
こんなところあんなに可愛いフィアにさせられない。
こういう汚れたところは汚れた奴がやるべきだろう。
つまり俺だ!
それにしても本当に汚い。
一体どれだけ掃除をしてこなかったのか問いただしたいレベルだ。
しかし、幼女様のためであれば頑張れる!
日本ではただのオタクだった俺だが、そんなの関係ない。
やれるかやれないではなく、やるのだ。
「おりゃああああああああああああああああ」
掛け声と共に、手を付け始める。
俺の大きな声にフィアが驚いていたけど、それも最高に可愛かった。
「ひ、ひとまずキッチンの掃除はもう大丈夫かな」
掃除を始めてからどれくらい経っただろう。
ようやくキッチンの掃除を終えた俺たちは、もうくたくただった。
「よく頑張ったな」
頑張ったフィアを褒める。
頭をよしよしと撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めている。
しかし、結構汗をかいてしまった。
フィアを見てみても、その頬を汗が伝っている。
さすがにフィアをそんな状態で放っておくわけにはいかない。
「よしフィア、お風呂入るか!」
先に断っておくが、別にフィアの裸を見たいとかそういうんじゃないぞ?
ちゃんと隈なく身体を洗うにはそっちのほうが良いというだけであって……ごにょごにょ。
まぁいいじゃないか。
そもそも俺は一体誰に弁解しているというんだ。
そう、ここには俺とフィア(幼女)しかいない。
「……ふ」
我ながら下衆だな。
「……?」
しかしフィアは首をかしげる。
「?」
そんな反応に俺も首をかしげる。
「お風呂ってなに?」
「…………」
きっと目がテンというのは今の俺のような状態のことを言うのだろう。
それほどまでに俺は唖然としていた。
「い、いやフィア? いつも身体とか洗ったりしてるだろ? み、水流しながらさ」
「?」
「それをしないと身体が汚いままだろ……?」
因みに俺はというと一週間の間お風呂に入っていない。
その間はフィアが持ってきてくれた濡れタオルで我慢していた。
まぁ女の子ならともかく、オタクライフを満喫していたペットにはそんなもんで十分だろう。
「身体はちゃんと拭いてたぞ?」
「ま、まじか」
なんということだろう。
緊急事態だ。
目の前の幼女様はどうやらお風呂に入っていなかったらしい。
身体は拭いていたらしいが、それでも女の子がそんな生活で甘んじていたらダメだろう。
「あれ、でもお風呂ってなかったっけ?」
元いた部屋からキッチンまでの間それらしき部屋を見た気がする。
「? 水をためる部屋ならあるぞ?」
「おお!」
「汚れてるけど」
「お、おぉ……」
期待からの絶望とはこのことか。
今から掃除するといっても、さすがに時間がかかりすぎる。
明日には掃除するとして、ひとまずは今日をどうにかして乗り越えなくてはならない。
「でも、やっぱり拭くくらいしか出来ないよな……」
どう考えても、それで妥協するしかないだろう。
「あれフィアはいつもどうやってタオルを濡らしていたんだ?」
キッチンで水を出そうにも、そんな形跡はなかった。
「ん? こうやってだが?」
そういうフィアの掌には水の玉が出来ている。
「ま、魔法……?」
そうだった、ここは異世界だ。
異世界と言ったら、魔法が無いわけがないじゃないか。
「も、もういいよ」
俺が驚いているのがそんなに嬉しいのか、フィアは最後、見てとばかりにその水の玉を空中に投げたかと思うと、それを反対の手で消してしまった。
「えっへん」
ど、どやってる幼女可愛い……!
あやうく襲ってしまいそうだった。
「じゃあ今日まではタオルで身体を拭いておいてくれるか?」
「りょうかいだ!」
明日は絶対お風呂を掃除しよう。
そして願わくば一緒にお風呂に入ってやろう。
誰と、とは言わずもがな。
「?」
その時フィアに手をひかれた。
そしていつも通り濡れたタオルを渡される。
きっと先ほど自分の部屋に戻っていったときに取っておいたのだろう。
「あぁありがとう」
俺の分まで用意してくれるなんて、あぁ天使。
「ちがうぞ」
「? なにが?」
しかしフィアは顔を膨らませている。
「そのタオルは私のだぞ」
「? そうなのか?」
じゃあはい、とフィアに返そうとするが受け取ってくれない。
「フィア……?」
これは一体、どういうことだろう。
思わず首をかしげる。
しかしフィアは次の瞬間、とんでもないことを口走った。
「だから、それで私の身体を拭いてくれ、と言ってるんだ」
ま、マジですかぁ……。
どうやら俺は、五歳の幼女の身体をタオルで拭かなければいけないらしい。
次回、どうしましょう。