幼女の食生活に物申す!
ブクマ評価ありがとうございます。
魔王の名前
アルカイナ→ユースフィア
アルナ→フィア
に修正しました。
異世界に召喚されて分かったことがある。
魔王(幼女)が可愛い。
もはや天使の領域であるということだ。
幼女であるために仲間の魔王軍に見捨てられた魔王は寂しさからペット――俺を召喚したわけらしい。
うん、やっぱ可愛すぎる。
そして始まった、俺の異世界ペットライフだが、これからどうしたらいいだろうか。
「フィアー、因みに魔王城にいるのは俺たちだけなのか?」
「ああそうだ。私たちだけだぞ!」
俺の質問に元気よく答えるフィアはやっぱり可愛い。
最高にかわいい。
もういっそのこと「フィアたん」とか呼びたいくらいだ。
フィアはどうやら先ほどまでの暗い雰囲気から回復したようで、元気一杯だ。
少しだけ安心した。
「あ、フィアが普段どんなものを食べてるのか気になるから、一回見せてくれないか?」
「んー? 分かったぞ!」
俺のお願いに対して元気よく了承してくれるフィアさんまじ天使。
しかし悠長なことは言っていられない。
フィアは成長期だ。
成長期にちゃんとした食生活を送らなければ、後々の健康に響いてくるとどこかで聞いたことがる。
そんなこと看過できるわけがない。
「じゃあ行くぞっ」
フィアはそんな俺の考えを知らずに、俺を先導し始める。
因みに異世界に来て一週間、部屋を出るのは初めてだ。
トイレは部屋についてあるし困ることもなかった。
丸一週間何をしていたのかと聞かれれば、食って寝ていただけだ。
本当自分は何をやっていたんだろう……。
もっと早くにフィアの食生活を調査できたかもしれないというのに。
ちょっと一週間前に戻って、昔の俺をしばき倒したいものだ。
先導するフィアについていき、部屋を出る。
しかしこれはひどい。
薄暗い廊下の壁や天井にはいくつも蜘蛛の巣が張り巡らされ、床のいたるところにはホコリが溜まっている。
まぁ確かに、この状況だからこそフィアの輝きが一層増すというのも分からなくはないが、健康を損なっては元も子もない。
これも早急に対処しなければならない項目だな、と俺はため息をついた。
「ここだ!」
「ここは、キッチン?」
フィアに連れられてやってきたのは、廊下と同じで薄汚れたキッチンだった。
「それでフィアは何を食べてるんだっけ?」
「ん、これとかそれとかだな!」
間髪入れずに指を指し示すフィア。
その指し示された方向に視線を向けると、そこには『野菜』があった。
「これって、ジャガイモ……? それにこれはキャベツ、だよな……?」
なんと二本でもよく目にした野菜が、キッチンの机の上で散乱していた。
「えっとフィア? 因みにどう料理していたんだ?」
ここ最近、全く使われた様子の無いキッチンに恐る恐るフィアに尋ねる。
「そのまま食べた」
「……な、なんてこったい」
予想していたとはいえ、聞かされるとさすがに驚いてしまう。
野菜とはいえ、生でそのまま食べて大丈夫なのだろうか。
確かジャガイモは芽が生え始めたら、まずいと聞いたきがするのだが……。
幸いキッチンに転がっているジャガイモには芽が生えていなかったので、ほっと安心する。
それにしても、やっぱりこれじゃだめだ。
「幼女がこんな食生活していいわけがない!」
「ようじょ言うなー!」
俺の幼女発言に再び文句を言ってくるが、今はそれどころではない。
一刻も早く改善してやらなくては、フィアの健康が……!
「フィア、掃除をしよう!」
「そーじ?」
思わず叫んでしまったが、フィアはいまいちピンときていないようだ。
首をかしげる姿がまた可愛い。
「いや、俺が掃除をするからフィアは部屋でじっとしておいてくれ!」
これ以上フィアにホコリを吸わせてなるものか。
「…………」
しかし、今まで元気が良かったはずのフィアは何故か再び元気がなくなったように見える。
顔は俯いて、拳は握られている。
「フィア?」
「……」
「な、なんだ?」
フィアはゆっくりと俺に近づいてきたかと思うと、裾をぎゅっと握る。
その仕草も可愛いのだが、一体どうしたのだろう。
「……ツキ、ト」
「っ」
フィアが、初めて俺のことを名前で呼んだ。
今まで『お前』とばかり呼んでいた俺のことを名前で呼んだのだ。
「そんなこと言って、きゅうに、いなくなったり、しない……?」
「な…!?」
なんだこの可愛い生き物。
もう天使とかいう次元じゃないくらいに可愛いぞ……!?
でも、フィアが今までどんな経験してきたかは分からないが、きっと俺もまた他の皆と同じようにいなくなってしまうと思ったのかもしれない。
そしてきっとこれは単純に「いなくならないよ」などと言って安心させられるものではないのだろう。
そういう環境で、育ってきたのだ。
「フィア」
俺は、目の前の小さな頭を撫でる。
触れた瞬間、フィアの肩が小さく跳ねたのが分かった。
「一緒に、掃除しよっか」
口で言ってダメなら、行動で示すしかないだろ!
フィアが少しでも安心していられるようにしてあげなきゃいけない。
「……う、うんっ!」
元気のいいその返事は、どこか鼻声のような気もしたけど、そんなフィアもやっぱり最高に可愛かった……!