キタコレ異世界ペットライフ
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魔王の名前
アルカイナ→ユースフィア
アルナ→フィア
に修正しました。
「はい、えさ!」
「わんわんっ」
「……わんわん、ってなんだ?」
「いや、俺の世界ではペットではそうやって感謝の気持ちを伝えるんだ」
「そうなのか、じゃあこれからもそう言ってくれるのだろうな!」
「わんわんっ」
異世界にペットとして召喚されて早一週間。
初めは抵抗のあったペットライフも、今ではお茶目な冗談が言えるまでになった。
しかしどうしよう。
どうやら俺はこれから餌をもらうたびに「わんわん」と吠えなければいけなくなってしまった。
さすがに冗談だとバレると思ったのだが、さすが幼女。
ちょろい。
ちょろすぎる。
まあそのことは追々どうにかしていこう。
どうにもならなかったら、その時はその時だ。
「う、うまいなこれ」
そうなのだ。
幼女もといフィアがくれる餌は、今まで食べた中でもかなり上位にランクインするくらい美味しいのである。
「そうだろうそうだろう?」
俺が美味しそうに食べるのがそんなに嬉しいのかと聞きたくなるほど、フィアはにこにこしている。
「まぁ私がつくったのだから、それくらいはあたりまえだ!」
「わんわんっ……わん?」
いやいや待て待て、今あり得ない発言が聞こえてきたぞ。
フィアは俺の戸惑いなど知った様子もなく、相変わらずまぶしい笑顔を浮かべている。
「え、これ、フィアが作ってるの?」
「? そうだが?」
幼女すげえええええええええええええええええええ。
え、嘘だろ!?
「そざいをまぜるだけの、かんたんなお仕事だぞ?」
「……」
確かに、出される餌は毎回かき混ぜられたようにぐちゃぐちゃではあった。
まあ確かに混ぜるだけなら簡単、か。
そこで俺は聞いてみた。
「え、因みに素材って、どんなの使ってるんだ?」
「むー? 魔界に住んでるアンドラキシタとか、グイドスリ、とかだなっ」
元気よくそう言ってくるフィア。
フィアには悪いが全く素材のイメージがわかない。
「ア、アンドラ何とかとかってのは、なんだ?」
もう一つはもはや最初の文字すら覚えていない。
元オタク現ペットの俺にはちょっと荷が重かったのかな?
「くさだ」
「くさだ? なんだそれ?」
いかだ、なら聞いたことがある。
なんだっけ、確か板を組み合わせていくやつだろ?
あれ、違かった?
まぁいいか。それで、くさだとは一体?
「くさ! くさ! そこらへんに生えてたくさを使ってるの!」
「ぶううううううううううううう!!!」
フィアのとんでも発言に思わず噴き出した俺。
しかし、草!?
草だと!?
今時、ふつうのペットでももっといいもん食ってるわ!!
それに草をどうやったらあんなに美味しくできるんだよ!
いや、あれが素材の味なのか!?
俺は戦慄する。
まさか異世界の草がこんなにも美味しかったとは…。
恐れ入ったぜ、異世界。
だがしかし、やっぱり草と知ってしまったからにはもう少し餌の改善を要求する。
「なぁフィア、もう少し、餌ってどうにかならないか? 別にフィアが作ってくれなくてもいいからさ……」
「それは、むりだ…」
「?」
俺の言葉に顔を沈めるフィア。
何か、あったのだろうか。
「私のなかまたちは今、まおーじょうにはいないのだ……」
「……はぁ?」
いや、意味が分からん。
仲間が魔王城にいないって、まぁ確かに異世界に来てからフィア以外には誰も会っていないが。
「いやいや、さすがに一人くらいはいるだろ?」
「ひとりも、おらん。みな、私がよわいから、どこかへ行ってしまったんだ」
「……ま、まじか」
確かに目の前の魔王は幼女だ。
潜在能力は分からないが、今のままでは使い物になるかどうかさえ怪しい。
「ち、因みにフィアはご飯とかはどうしてるんだ……?」
「……てきとうに、あるものを食べてる」
「そ、そっか」
ならまだ良かった方か。
何も食べていないとか言われたら、この餌をあげなきゃいけなくなっていた。
「それにしても、フィアを一人で置いていくなんてひどいやつらばっかだったんだな。魔王軍ってやつは」
「ち、ちがうっ。私がよわかったのがいけなかったんだ!」
「こんな子供に何求めてるんだよ……」
こんな幼女に強さを求め、見捨てるとは、そいつら悪魔か?
あ、魔族ってことは悪魔なのか、納得。
「こどもじゃないもん!」
「じゃあ今何歳だ?」
「ごさい!」
「幼女確定」
「ようじょ言うなーー!」
俺の幼女発言に怒るフィアだが、やっぱり幼女は幼女だ。
そこでふと、不思議に思ったことがあった。
「そういえば何でフィアは俺なんか召喚したんだ?」
「むう? べつにお前をしょーかんしたわけじゃなくて、しょーかんしたらお前だっただけだぞ?」
「いや、そういうことじゃなくて。 フィアはどうして召喚なんてしたんだ?」
ペットなんていたら、食事の準備だってしなきゃいけないし、することが増えるだけだろう。
ただでさえ一人で忙しいはずなのに、わざわざ仕事を増やす必要なんてないはずだ。
「………………から」
「なんだって?」
ぼそぼそとフィアが何かを呟いているが、聞こえない。
「さびし、かった、から……」
「……」
「ひとりが、いやだったんだ…」
「……」
やだなにこの子可愛い。
俺はどうしたらいいの?
どうしてこんな子が魔王なんてしてるの?
悪魔のボスがこんな天使でいいの?
「やっぱり、めーわくだった、よね」
泣きそうな顔でフィアは呟く。
いつもは偉そうにいろんなことを言ってくるけど、実はこんな本音をずっと隠していたのだろう。
本当、幼女に何やらせてんだか。
「よしよし、別に迷惑なんかじゃないよ」
「ほんと……?」
上目遣いがいちいち可愛すぎる。
「あぁ、ほんとだ」
頭をなでてやると、フィアはぎゅっと俺を抱きしめてくる。
一人が寂しいとか、そういうところは、やっぱり年相応らしい。
きっと俺の異世界生活はまだ始まってなかったんだ。
そして、今から――
「いいかフィア、俺はツキト――――お前のペットだ」
――――俺の異世界ペットライフが始まる。