ペット召喚されました
魔王の名前
アルカイナ→ユースフィア
アルナ→フィア
に修正しました。
「……こ、ここどこだ?」
俺は今、暗闇の支配する部屋の中にいた。
かろうじて少しだけ部屋の中が見えるくらいだ。
でもおかしい。
俺はさっきまで家でパソコンをしていたはずだ。
こんなところには断じていなかった。
もしかして夢の中、だったりするのだろうか。
「い、痛っ」
頬を思いっきりつねってみるが、痛みはある。
どうやら夢ではないらしい。
じゃあここは一体どこだというんだ。
も、もしかしてこれは――
「ふっふっふ」
「だ、誰だ!?」
その時、暗闇の中から声が聞こえてくる。
よく見れば、少しだけ離れたところに小さな人影が見える気がする。
「おまえは、私によってこのせかいにしょうかんされたのだ!」
「なっ!? じゃあここはやっぱり――異世界!?」
自慢じゃないが俺は日本では健全なオタクだった。
アニメや漫画はもちろん、最近ではネット小説なるものにもはまっていた。
そのネット小説の中で人気だったのが――異世界召喚。
空想のモノだとばかり思っていたが、まさか実際にこんなことになるなんて……。
「うむ、そうじゃ。 きょうから私がおまえのかいぬしだからな!」
「…………は? 飼い主?」
それは一体どういうこだろう。
召喚主、とでも言いたいのだろうか。
なにはともあれひとまず、部屋を明るくしてほしい。
「えっと、この部屋って明るくできる?」
「うむ、とうぜんだ!」
その直後、暗闇の中の誰かが何かを呟いたかと思うと部屋の中に明かりが灯っていく。
そして現れたのは――
「――――って幼女!?」
そこにいたのはなんと、年端もいかない一人の幼女だった。
「ようじょ言うなぁ!」
「あ、ごめんごめん」
どうやら目の前の幼女は幼女と言われるのがいやらしい。
ませてやがる。
「それで君が俺の飼い主っていうのは?」
「おまえは私がしょうかんしたんだ! だから私がかいぬしなのだー!」
「は、はぁ……?」
だめだ意味が分からない。
まぁ、幼女に説明を求めた俺が悪かったのだろう。
「えっと、君の名前は?」
「むう? 私か?」
「うん、そうそう。君のお名前」
「私はユースフィア。まおーだ!」
「……?」
ふむふむ、ユースフィア、と。
それで、なんだって……?
「まおーだ!」
「まおー……?ま、おう……? 魔王!?」
「そうだ! 私がまおーだ! すごいだろ!」
なんてこったい。
これは王道とはかけ離れた異世界召喚じゃないか。
普通王道でいえば人間の国のどこかが、復活した魔王の対抗策として異世界から勇者を召喚するとかだろう。
しかし目の前の幼女は魔王だという。
そういえば確かに、幼女の背中には黒い羽根がうかがえる。
いやいや、冗談だろ?
そういう王道じゃないのは俺なんかの素人じゃなくてもっと他のプロにでも頼んでくれればいいじゃないか……。
「えっと、魔王、様?」
「フィアでいい! まわりからはそう呼ばれてるぞ!」
「じ、じゃあフィア? 俺を元の世界に戻したりすることとかは……」
「むりだっ!」
こいつうううううう。
魔王なのにキラキラした笑顔でそう断言してきやがる。
しかし確かに俺が読んでいたネット小説でも、一度召喚されたら日本に戻ることは出来ないのがメジャーだった。
それと同じなのかもしれない。
ただそれなら俺も普通に王道な召喚がしたかった…。
そして可愛い王女様と良い仲になって、幸せな異世界ライフを……!
それをこの幼女が壊しやがった……!
くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
半端に異世界召喚などするものだから、つい贅沢になってしまった。
だ、だがまだ希望はある。
俺は幼女な魔王様と向かい合う。
一番大事なことを聞かなければならない。
「なあ、フィア」
「なんだー??」
「召喚された俺って、もしかして『チート』とかってあったりするのか?」
そう、チートだ。
異世界召喚でのお約束といっても過言ではないだろう。
チートとは他者を圧倒する力であり、他者を魅了する力でもある。
日本では単なるオタクだった俺にもついに、何かチートが……!!
「…………なんだそれ?」
「え」
しかし俺を召喚した張本人であるフィアは首をかしげる。
「な、何か特別な力とか、俺に宿ったりしたりとかは、ないのか……?」
まさかの可能性を抱きつつ、俺は恐る恐るフィアに尋ねた。
どうか杞憂であってくれと祈りながら。
「…? なんで特別な力が宿るんだ?」
「…………オワタ、俺の異世界生活」
俺は膝をついた。
まさかここまで王道から離れているとは思わなかった。
というかチートがない異世界なんて、わさびのないお寿司のようなものだ。
もうそこには何の希望もないのだ……。
「……あれ?」
そこで不思議に思った。
ならなんで俺は、魔王ユースフィアに召喚されたんだ?
確かにネット小説にも王道から離れたものも少なくはなかった。
魔王様に召喚されていたものだってあったはずだ。
それでも呼び出されるには何かしらの理由があった。
例えば、暴虐を尽くす人間の国を止めるため、などがその例だ。
そしてそうやって呼び出された異世界人たちはやはりチートを持っていたのだ。
しかし俺は何の力も持っていないという。
じゃあ本当になんのために――?
「フィア、どうして召喚なんてしたんだ?」
さっきは飼い主とかどうたら言っていたがさすがにそれではないだろう。
では、一体。
「むう? ただ私が――――ペットにするためだぞ?」
オワタ、俺の異世界生活。