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禁書の王  作者: カボス
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第一話 謎の男

 2話目にして作品が一人歩きしはじめました(汗)こんなはずではなかった。矛盾点、誤字脱字等、おかしな所があったらどしどし言ってください。感想お待ちしています。

 意識の覚醒に伴い目を開く。真っ暗。夜なのか?と心の中で思いながらも妙な違和感を感じた。首を傾げながら数秒虚空を見つめていたが黙っていても仕方がないと体を起こす。


ガコッ


 頭をなにか固いものにぶつけた。しかし起き上がる勢いは衰えることなくそのままその固いなにかを持ち上げる。......結構いい音がしたな。これはたんこぶ必須だろう。僅かな痛みに顔を顰めつつ辺りを見渡す。


「これは......棺桶か?」


 朝なのだろう、陽気な光が窓から差し込みその光を反射するように純白のカーテンがキラキラと輝く。辺りを見渡した時にこの家はドーム状の建物だということが分かった。四つの窓と八つの扉、内一つは玄関なので実質七つの部屋があるのだろう。赤、青、緑、黒、白、黄、そして赤黒の扉だ。趣味悪いな。天井も床も真っ白で赤のラインが天井へと向かって伸びている。朝だというのに小鳥の囀り一つ聞こえないのはこの家が防音機能に優れているのだろう。そんな、静謐な空間の真ん中にポツリと一つの棺桶が存在していた。


「ここはどこだ?」


 脳内がはてなマークで埋め尽くされ、ぼそりと漏れた独り言も空気に溶けて消えた。理解しがたい光景に柄にもなく動揺しつつも、俺はのそりと起き上がった。筋肉が硬直していて久しく動いてなかったかのように体が痛むが、なんとかぎこちなく体を動かすことはできた。

 赤の扉の近くにタンスがある。取り敢えずそこへ向かうことにした。


「体が、重いな」


 転がり落ちるように棺から抜け出すと、壁まで這うようにして移動する。そこから壁によっかかるようにしてなんとか立ち上がると足を引き摺って歩き出す。

 棺桶から出たことで気付いたことだが、今の俺は何も身に纏ってない産まれたままの姿、つまりは裸だ。裸だというのに少しも肌寒くないことは不思議だがここはきっと暖かい場所なのだろう。俺は一言「ふむ」と頷くと、先程より少し早足でタンスへと向かった。


 タンスは白を基調とした落ち着いた雰囲気だった。木でもなければ金属でもない、不思議な材質でできたタンスだ。壁の色とよく合っている。きっとここの住人は趣味がよかったのだろう。......いや、七色の扉だ。それはないか。好奇心を刺激されながらも俺は金色のとってに手を掛けた。一番上の引出だ。


「服......か。これはありがたい」


 中には複数の下着と上下の服、そして黒の生地に赤のラインが入った品のいいローブが綺麗に畳まれて入っていた。やはりこの服も趣味がいい。ここの住人は扉限定で壊滅的なセンスをしていたのだろうか?


「まあ、どうでもいいか」


 雑念を振り払い服を着る。サイズはまるで用意されていたかのようにぴったりだった。少し体を動かして着心地を確かめる。うん、丁度いい。それから次の引出を開けた。


「ここには本が置いてあるのか」


 そこにあったのは一冊の本だった。表紙にでかでかと『取扱い書』と書かれている。なぜ文字が読めるのかは疑問だがその謎はいったんおいておくことにする。本は分厚く、だいたい500ページくらいありそうだ。そのかなりの分厚さに、読むのには結構時間がかかると判断し後で読むことにした。


 そして最後の引出だ。正直、なにかあっただけでも儲けもの程度の感覚でタンスを開けていたため大した期待はしていなかった。だが、


「くっ...!やけに重いな!!!」


 とてつもなく重い。嫌がおうにも期待が高まる。普通の状態ならいざ知らず、今の貧弱な俺では少々荷が重い重量だがそれでもめげずに引っ張り続けること数分。そろそろ限界だな、と諦めかけた時、何かが動く音と共に急に引出が軽くなる。重さの急な変化についていけなかった俺は引出ごと勢いよく後に倒れた。とっさに床に手をつけたのは不幸中の幸いといったところか。


「なにが起きた?」


 床に強打した尻をさすりつつ、手にしっかりと握っている引出に目をやる。中は空っぽだ。タンスにもなんら変化は見受けられない。どこに中身は飛んで行った?と警戒しながら辺りを見渡すと、棺の上で毛並を整えている小虎が一匹。


「ぐるぁあ」


 まるでこちらに気付いてないかのように欠伸をした。


「............」

「ぐるぐるぐる」


 相手にもならないと思われているのか、それとも本当に気付いていないのか。ただ一つ言えるのは、引出に入っていた重い物体はこいつだということだ。敵意がないことだけは分かっているため取り敢えず放置でいいだろう。

 思考を切り替える。


「さて、扉の先を調べるか」

「ぐるるぅ!」


 一番近くの赤の扉に向かおうとしたところ、小虎にコートの裾を引っ張られた。いつのまに接近していたのだろう、足音なんてまるで聞こえてこなかった。その小さな口でコートの生地をはみはみしている。

 少し動揺するがすぐに治まり、小虎をじっと見つめた。やはり敵意はないようだ。


「どうかしたのか?」

「ぐる!ぐるるるぅう!!」


 この小虎、よくよく見たら不思議な出で立ちをしている。赤黒がかった銀色の毛並に真紅の縞。瞳は金色にギラギラと輝いている。禍々しいと言っても過言ではないその姿になぜか懐かしさを覚えた。

 その小虎が、まるでこっちへ来いとばかりに手を招く。


「そっちになにかあるのか?」


 小虎は何も答えず、ふいと背を向け歩き出した。まるで来れば分かるとばかりに尻尾を振りながら歩いていく。時折こちらを振り返って見ていることから、俺の勘違いではないのだろう。黙ってついていくことにした。

 

「ぐるぐる」

「ここに入れってことか?」


 小虎が止まったのはその毛並の色に似た赤黒い扉の前だった。

 壁に手を付けながら歩いたため少し時間はかかったがなんとか目的の場所まで辿り着けた。よりにもよって一番禍々しいここに来るとはこの小虎も中々いい趣味をしている。少し入るのに躊躇いを感じる色だ。

 そうこうしている内に小虎が小突いてくる。早くしろとばかりに牙を剝き出して唸った。その姿に仕方ないかと諦め、意を決してドアノブに手をかける。ガチャッというこ気味のいい音と共に開かれる赤黒のドア。向こう側は真っ白だった。危険じゃないかと思い扉を閉めようとするも、後から小虎にど突かれる。その勢いによろめいた俺は吸い込まれるようにして扉の向こう側へと消えて行った。




*****




「なんだここ」


 目の前に広がる大量の本の群れ。かなりの広さがある部屋の中に所狭しと本棚が並べられている。窓は一つもなくじめっとはしているのだが、不潔な感じは一切ない。天井からぶら下がった厳かなシャンデリアはてらてらと辺りをほの暗く照らし、何とも言えぬ不気味さを醸し出していた。

 

「図書館......か?」

『その通り!!』


 ボソリと零した独り言に返ってきた朗らかな声。明らかに場違いなその声音に自然と体が強張った。


「誰だッ!?」


 前後左右、どこを向いても相手の姿が見えない。そのことに警戒度を最高まで引き上げ、ぎこちなく体を動かし戦闘態勢をとる。いつでも来いとばかりに虚空を睨みつけると慌てたような声音が聞こえてきた。


『か、勘違いしないでっ!!僕は敵じゃないんだよぅ』


 その言葉に眉を顰める。今の言葉に嘘は含まれていないのは分かったのだが相手の意図がよく読めない。このトーンの高い声も妙に不快だ。


「お前は誰だ!!敵じゃないと証明したいならば姿を現せ!!」

『わ、分かったよぅ』


 威嚇の意味も込め、声を張り上げて叫ぶ。瞬間、目の前の空間が歪みひょろりとした男が現れた。黒のボロいローブを纏っていてその顔はやや青白く透けている。

 男は訝しげな目で見つめる俺にニカッと笑いながら両手を挙げて近づいてきた。


『君の警戒する気持ちもよく分かるけどさぁ~。そろそろ警戒を解いてくれてもいいんじゃない?』

「生憎と初対面の奴を信用できるほど甘くもないんでな」

『そっか~。でも君さ、今の状況理解してる?』

「理解していない。全部さっぱり分からないな」

『へぇ~』


 男はニタリと気味の悪い笑みを浮かべると、覚束ない足取りでゆらりゆらりと近づいてくる。その姿は陽炎のように微妙にぼやけていて掴みどころがない。

 背中に薄ら寒いものを感じた俺は、咄嗟に後へと距離を取った。男はそれを見てさらに笑みを深める。


『中々いい勘をしているんだね』


 後から、声が聞こえた。


「――――――ッ!!!??」


 動揺を一瞬で噛み殺し咄嗟に前へ転がろうとするが


『こらこら、逃げないの!』


 体が金縛りにあったかのように動かなくなる。神経が麻痺したというよりは、脳の命令を体が一切受け付けなくなった感じだ。全身動かないため喋ることもできない。睨むこともできないのだ。完全にされるがままの状態だろう。俺は心だけでも屈すまいとあらん限りの敵意をニヤニヤと笑う男へ向けた。


『そんなに怒らないでよ~。僕は君にアドバイスしにきただけなんだからさ』


 ヘラヘラと笑いながら肩を組んでくる男をよく観察する。やはり霞のようにぼやけていて焦点を合わせられない。肩に組まれている腕からも重さらしきものは感じられないため、こいつはきっと幽霊かなにかなのだろうと予想をつける。

 そんな風に内心考察しているのにも気付いた風もなく、男は饒舌に語りだした。


『大体ね? 大体だよ? まず目が覚めて疑問に思わなかったのかな? 自分が何者なのかってさ~。自分の名前分かる? ねぇねぇ? なんも覚えてないでしょ?』


 男の言葉は俺にかなりの衝撃を与えた。そうだ、俺は何者なのか。何故今まで気付かなかったのかが不思議でならないほどの、酷く原初的で、それでいて当たり前の疑問だ。

 一度罅が入った堤防はいっきに決壊していくかのように、溢れ出た疑問は大きな渦となって俺を飲み込んだ。そんな俺に気を悪くしたのか、男はぶーたれた。


『何も反応がないのはつまんよぅ......ん? あ、そっか!! 動きを封じてたんだっけ』


 男は手をポンと打つと爽やかな笑顔で俺の顔は鷲掴みにした。


『顔だけ戻れっ♪』


 顔の支配権を取り戻した感覚が脳に響き渡る。とめどなく溢れてくる疑問は一時隅に置いておいて、試しに声を出してみる。


「あ、あ、あ。喋れるようになったみたいだな」

『うんうん! 顔の支配権だけは返してあげたんだよっ! 感謝するよーに!!』

「..............」


 そのあまりにも図々しい物言いに思わず黙りこくる。


『全くも~。 ぼくは君の助言者アドバイザーなんだよ? もっと尊敬するべきなんだよ?』

「それなら俺の名前を教えてくれ」


 正直、こいつとの腹の探り合いは疲れそうなので今一番の疑問を単刀直入に聞いてみることにした。


『素直でよろしい♪ ではでは、知識送りの儀をはじめるね~』

「待て、それはなんだ?」

『う~ん、別に今教えてもいいんだけどね? どうせ流したら理解することだから二度手間なんだよね~......うん! 面倒くさいから送っちゃえー!!』

「な――――ッ!!?」

「『彼の者に我の知識の一端を授け給え! 禁術・知識送り』」


 男にしてはちゃんとしたその声と共に、脳を焼かれるかのような錯覚を起こすほどの熱量を覚え、一瞬にして意識はブラックアウトした。

 意識が途切れる瞬間、


『やっば、やりすぎたかも.....ま、いいか』


そんな声が聞こえた気がした。

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