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Silver Sorcerer  作者: 土方あしこし
旅のはじまり
6/15

<1>

旅立ち前夜。


イヴンは、魔本封印をするためには何をしなければならないのかを、古い文献にも詳しいアダムに聞いた。

英雄の残した文献を辿ると、まずイヴンが両方の魔本の主にならなければならないようだ。

もう片方の魔本に触れれば左目も失明してしまうというリスクが発生するが、それを覚悟しなければ一生封印にたどり着くことは出来ない。


リスクを承知の上で、悪魔側に渡った碧の魔本の主を倒す為には、やはり信頼出来る仲間が必要だ。

人型悪魔を倒せる人間はイヴンを入れてフォルグド全土中でたったの四人。

倒す技術を身につけている人はかなり多く存在しているが、唯一対抗できる武器というのが四つしか存在しないのだ。

そして、それを扱えるのは現在のガーディアンのみと、所持者であった英雄が定めた。

かなり厳しいが、300年前の英雄達はそれをやってのけたのだ。


そんなわけで、悪魔を倒せる武器を所持できるあとの三人のガーディアンを集めることになった。


魔法で召集すればすぐに集まるものなのだが、イヴンはガーディアンに成りたてで経験不足であり、右目も失明してしまい、鍛練が必要になる。

そこで、徒歩で戦闘経験を積みながら三人を集めることとなった。


『最初に会うガーディアンなんだが、俺はミレトスくんが一番いいと思うんだがどうだ?

彼なら実力もあるし、なによりお前を理解し、支えてくれるだろうよ。

あとの二人はまだ十八才だからお前がフォローしなきゃいけなくなるかもしれん』


はい決定!といった感じでどんどん話を進めていくアダム。

自分も同じ意見なので、まぁいいかと思っていたら、なにやら視線を感じた。


「メアリもミレトスに会いたいなぁ…」


ちらちらイヴンの方を見るメアリ。

メアリとイヴンは、ミレトスと非常に親しく、会いたい気持ちはわかる。

が、会いたいという気持ちと同じく、イヴンから離れたくない気持ちも強いように見える。


「ごめんメアリ。

連れて行ってあげられないんだ。

危ない目にあわせたくないんだよ」


膝を折って、目線を合わせながらやさしく言い聞かせた。

しかし、それではわかってもらえなかった。


「メアリ、邪魔になんないようにするよ?いい子にする。

だから…」


置いてかないで。


「メアリ?どうしたんだよ。

師匠がいるだろ?」


「皆一緒じゃなきゃやだ…」


困っているイヴンに代わって、アダムが説得し始めた。


『なんだなんだ俺だけじゃ不満か~?

こんなに愛してるのに~☆』


椅子に座らせてほっぺたを軽くつねる。


「メアリ、せんせえ大好きだよ??

でも、離れたらもう会えないかもしれないよ??」


いつまでも三人一緒がいいよ!と断固する。

三人一緒はさすがに無理だ。

しかし、なんともいえない説得力でメアリを安心させた。


「大丈夫。

絶対にせんせいが離ればなれになんてさせないよ。

心配要らない。

今日はもうおやすみ」


やさしくやさしく笑って頭をなで、しまいにおでこにキス。

結局、なんの解決策も提示されず、イヴンと離ればなれになることに変わりはないのに、メアリはなぜだか安心して自分の部屋に行って眠ってしまった。


『さすが俺!

なにも解決してないのに説得させるのうまいんだよね~』


女性限定だが。と愉快そうに笑っている。

しかし、打って変わってイヴンは深刻そうな顔をしていた。


「メアリのこと…ちゃんとみててあげてね。師匠」


『わかっているさ』


「夜眠れないときは、絵本よんであげたり!

怪我とか絶対させちゃだめだから!!

泣かせられたらその相手を地の果てまで追いかけて!!

何か欲しがったらなんでも買ってあげて!!!

それからっ…いだっ!」


まだ途中なのにゴツン…と頭をアダムに殴られた。


『お前は過保護すぎなの!あほっ!

お前ももう寝ろ!!』


そんなこんなで夜は更けていった…。


翌日の早朝。

朝もやが首都を包み込んでいる。

いつもの賑やかさが嘘のような空間を、イヴンはトランク型の魔法の鞄をもって歩いていた。

後ろを、眠い目をこすりながらふらふら歩くメアリを連れたアダムが歩く。


街の正門に着くと、そこには人が三人立っていた。


「おはようございます。

お体の方はもう本当に大丈夫なのですか?」


最初に声をかけてきたのは、王の護衛官であるミラだった。


「おはようございます。

もう万全です。ご心配おかけしました。

あと…こんな事態にしてしまって申し訳ありません」


「!シャリオンさん。

謝らなければならないのは私の方です。

何もできなかったのですから…」


なにやら二人して落ち込みモード。

すみませんの嵐だ。


『いやだなぁ!

旅立ち前から辛気臭いですよ!ミラさん☆』


イヴンはいつもこんなかんじだけどー。とかいいながらミラの背中をバシバシ叩くアダム。

それに同調してきたのは、ミラの脇に立っていた紫色の髪の青年だった。


「そうですよミラさん。

むしろ謝るべきは私です。

いや、罰せられるべきですね本来は」


その青年はにこっと人のよさそうな笑顔をイヴンたちに向けた。

しかし、ミラはかぶりをふって答える。


「仕方がないだろう、たまたま体調不良の日が重なったのだから。

代理の私の責任だ」


またまた空気が淀みだした。

しかし、ここで脇に待機していた緑色の光沢を持つ黒髪の青年があくびをしながらのん気なコメントをした。


「護衛官殿は、一人で責任感じすぎなんすよー。

あーねむっ」


「君は黙っていなさい」


ミラさん失礼しました。と低頭しながら紫の髪の青年が、のん気な青年に注意を促す。

その光景をイヴンが不思議そうに見つめていたので、ミラが二人を紹介しはじめた。


「失礼、紹介が遅れました。

こちらはテオティ様の護衛官を勤めるゼノンです。

そしてこちらがゼノンの補佐官を勤めるビルマです」


最初にゼノンと呼ばれた方は、紫髪の青年の方だ。

ミラと、ビルマと呼ばれた青年は青い軍服を着ているのに、ゼノンだけ金の装飾品がいっぱい付いたマントを着込んでいる上に、耳についているピアスの数も多い。


「お二人が、俺の旅に同行してくださる方たちですか?」


服装の違いに少し疑問を感じたが、イヴンは違う質問をした。

それに対して、穏やかな笑顔のまま返答するゼノン。


「はい。

今ご紹介していただいたように、私はテオティ様直属の部隊を任せていただいているゼノンと申します。

シャリオン殿のガーディアンの交換式でもテオティ様を護衛する任を頂いていたのですが、あいにく体調不良でミラさんに代わっていただいた次第です。

また、シャリオン殿には旅の前にお許しを頂きたいことがあります。

私は、少しばかり身体が病弱でして、この様に装飾品に魔法を込めておいて体調管理をしているのです。

このマントとピアスをつけたままでもよろしいでしょうか?」


体調不良で護衛官の勤めを果たせない日があるにもかかわらず、こうしてこの地位にいるということは、それをカバーするほどの能力を持っているということなのだろう。

イヴンはそう解釈して、快諾の意を示した。


「俺はかまいません。

体調管理をしているならなおさらです」


「ありがとうございます」


人当たりのよさそうな第一印象であり、仲良くやっていけそうだ。

と、ここでビルマが会話に入ってきた。


「イヴンさんのそのピアスも体調管理のためについていたりするんですか?」


イヴンは、いつでも欠かさず長方形の紫色のピアスを両耳につけている。


「いえ。

これは・・・なんでしょう」


「は?」


実は、本人もなぜ付けているのかわからない。

両親が亡くなってからずっとアダムに外すなといわれて今にいたるのだ。

回答を求める視線を送ると、アダムは『説明したことなかったっけ?』とおどけながら説明した。


『魔力増幅機能がついているんですよ。

これは肌身離さずつけていないと威力を発揮しないので、私がつけさせているんです』


なるほどーとビルマ共々、イヴンも14年目の真相を知った。

アダムは続けて、ゼノンにも声をかけた。


『ゼノンさん。

イヴンを宜しくお願いしますね』


「お会いできて光栄です。

アダム=シーナー殿。

シャリオン殿のことはお任せください」


挨拶をすませたゼノンは、ふっとアダムの後ろにいるメアリに気が付き、上半身をかがめて優しく笑いかけた。


「はじめまして。

お名前はなんていうのかな?」


しかしメアリは応えず、アダムの後ろから動かない。


『ん~?どうしたメアリ?

人見知りなんてめずらしいな』


アダムが後ろを向いてメアリと向き合うと、メアリの耳がぺこんとたれ、尻尾も元気がない。

なにかに怯えているのが目に見えてわかった。


『どうした?』



「このお兄ちゃん・・・血のにおいする。

メアリ怖い」


血?そういいながら改めてゼノンを見た。

しかし、服や顔に血が付いている箇所がない。

何か違和感を感じたが、今は高い魔法の感覚もほぼ失われていて何がおかしいかわからない。

獣人は危険なものに敏感だ。

この人は何かを隠している。

そんな不審な目で見られているにもかかわらず、ゼノンは相変わらず穏やかだ。


「血のにおい?

あぁ。さっき悪魔退治をしていたからかな?腕が鈍ってないか確かめてたんだよ。

魔法できれいに落としたと思ってたんだけど、足りなかったかな。

ごめんね。怖がらせて」


そういいメアリの頭を撫でようと手を伸ばしたが、メアリがイヴンの方に逃げた。

自分のほうに逃げてきて驚くイヴン。

相当怖がっている。


「す、すみません!この子いつもは人懐っこいんですけど・・・」


とりあえず弁解しようとするイヴンだが、メアリの怯えように若干ゼノンへの不信感が生まれた。


「かなり嫌われちゃいましたね。あはは」


「どんまいゼノンさん!」


多少落ち込んでいたゼノンの背中を補佐官であるビルマが軽々しく叩いた。

軽く咳き込み、またもやビルマに注意を促すゼノン。

どうやら、二人はいつもこの調子らしい。


そして、街の朝もやが消えかけてきたので、誰にも見られないうちに街を出ることになった。

門の外に出るとはつまり、シールドからも出たことになる。

シールドから出たというのに街の外の道はきれいに整備され、街道の脇には風を防ぐ木々が立ち並び、旅人が歩きやすくなっている。

これは軍事力を誇るノーザンにしかなしえないことだ。

他国では悪魔に邪魔をされ整備が行えないのが現状である。


で、その道を進む前にやることがあった。

まだミラとアダム、そしてメアリがいる中それは行われた。


「シャリオン殿、紅の魔本でテオティ様をお呼び出しください。

状況を説明して差し上げなければなりません」


アダムいわく、魔本に入った奴隷を本から一時的に出すには、その奴隷の名前が入ったページを開きその名前を読み上げればいいらしい。

師匠、なんでそんな事まで知っているのだろう?と思いながらイヴンは言われたままにページを開き、名前を読み上げた。


「テオティ=セオドル」


魔本を手にした時と同じようにイヴンの体が赤い光に包まれた。

赤い光が発せられた直後、テオティがその場に現れた。

しかし、自分との距離が近い。もの凄く近い。

間近でテオティと目が合ってしまった。


『近っ!!』


イヴンは赤面して離れようとした。


「す、すみま・・・」


「体が!!私の体が透け・・・て・・・え?」


「はい??」


テオティの反応がおかしい。

体なんて透けていないのに自らの腕や顔をパシパシ叩いて、きょろきょろしては、頭に?マークを浮かばせている。

しかも、『体が透ける』なんて魔本に入る時のようで・・・。



「師匠。もしかして・・・」



『そう!魔本に入っている間は時が進まないんだ。

姫様は入った時の状態のままだということさ』


3日前のままのテオティ。

いきなりの場面変化についていけないのだ。

そして、彼女はまだ、自分が魔本に入ってしまったことを理解していないかもしれない・・・。


これまでの説明を彼女にしたのはゼノンだった。

全てを理解したテオティは悲しそうな顔をして、イヴンに近づいてきた。


「すみません」


なぜ自分が謝られるのかイヴンにはわからなかった。


「謝罪しなければならないのは俺の方です!

姫様をこんな目に・・・」


「なぜイヴンさんがあやまるのですか?」


?それはこっちの台詞だ。

なぜ姫が謝るんだ。

自分の非力にせいで魔本に入ってしまったのに。

なんだかかみ合わない二人。

お互いに、相手が怒っているのだと思っているようだ。


とりあえず、テオティは魔本に入ることを拒んだため、一緒に歩いて旅をすることとなった。


「すみません。

姫様を歩かせるなど・・・」


「!いいえ!歩くのは楽しいですよ☆」


魔本に入っているよりは。とイヴンには聞こえ、落ち込む。

テオティは、イヴンを励ますために言ったのにやはりなにか食い違っている。

こっちはこっちで『イヴンさんは徒歩が嫌いなのかも!!』と勘違い。

互いに落ち込む二人。

二人とも責任を感じすぎなのだ。

相手はまったく責めていないのに。

それをわかった周りは、肩をすくめて微笑んだ。

まぁ、この互いの誤解は旅のうちに解けるとして、ゼノンが話を進めた。


「テオティ様。まずはお召し物を軽いものにしましょう。

失礼」


パチンと指をならすとテオティのドレスが、膝丈の白いスカートとエメラルドグリーンの上着にかわった。靴もヒールの低いものになった。


「まぁ!ありがとうございますゼノンさん」


「他にご要望がありましたらなんなりとお申し付けください」


このお姫様は、自分の護衛官のことも『さん』付けのようだ。

しかし、白いスカートはすぐに汚れるんじゃ・・・。

とか、イヴンが思っていたらゼノンが整備された道の方を指差して叫んだ。


「さぁ、ではテオティ様!走ってください!!」


「へ?」


「走れば理解していただけると思います。

言葉で説明するにはわかりずらいことなので」


「わ、わかりました!

がんばりますね!!」


なんだかすごく意気込んでテオティは走り出した。超ダッシュ!!!


しかし、遅い。

ものすごーく、遅い。

走ることなんて滅多にありませんから。でも、顔は懸命だ。

100メートルほど離れたころだろうか、そろそろ戻らせないと危ないだろうと思っていたらゼノンに話しかけられた。


「シャリオン殿、避けてはいけませんよ」


「?どういうこ・・・どぁぁああだだだ!?」


まぬけな声を上げたのも無理はないかもしれない。

そして、それを見てアダムが爆笑するのも無理はないかもしれない。

いきなり100メートル先に走っていったはずのテオティが突然後ろからぶつかってきたのだ。


「きゃ!イヴンさん!?すみませんっ!」


イヴンの背中に当たった自分のおでこをさすりながら、とりあえず謝るテオティ。

しかし、テオティもなぜいきなりイヴンの後ろに移動したのかわかっていない。

この疑問に、にこにこしたゼノンが答えた。


「この紅の魔本。魔本の主から逃れられないように、100メートル以上進むと主の元に移動するようになっているのですよ。

碧の魔本の方は5㌔くらい離れても平気みたいですがね。紅と碧じゃ、使い勝手が違いますから。

つまり、シャリオン殿とテオティ様は100メートル以上離れられません。

お気をつけくださいね」


なんだとーーーー!?

100メートルって・・・短かっ!!


「大変だ・・・」


「そうですか?」


イヴンが深刻に悩んでいるかたわらで、テオティはなんともなさそうな反応をする。


「そうですよ!

もし、旅の途中で俺が崖から落ちたりしたら姫様も巻き込んでしまいます。

魔法が使えない森も通ることになりますし、危険です。

できれば危険なところにはお連れしたくないです」


「なるほど。

そうですね。私は足手まといになってしまいます」


「いえ、そうではなくっ」


姫を心配しているだけなのに・・・。


「イヴンさんはまじめですね~」


ここでなぜかビルマが入ってきた。

頭の後ろに手を回してケタケタ笑いながら話しかけてくる。

いったい何が言いたいのか。


「俺なら風呂の心配するけどな~☆あっはっは!あでっ!!」


「ビルマっ!!

無礼にもほどがあるっ」


ゼノンがビルマを数度殴った。

殴られた方は『いてぇ!』とかいいながら半べそだ。

なんか、頼りない。

イヴンはビルマの発言を聞いて『気をつけよう・・・』と肝に銘じていたが、テオティは違った。

まず、話を聞いておらず、他のものに気をとられていた。

黒いネコ耳に黒い尻尾。首と腰にはピンクのリボン。


「かわいらしいです!!」


目をキラキラさせてアダムの後ろにいる少女に歩みよった。

しかし、メアリはさっきから警戒しっぱなしで動かない。


『メアリのことがかわいいってさ☆この国のお姫様だよ。挨拶しなさい』


アダムが仕方なく、無理やり前にメアリを出させた。


「・・・こんにちはぁ・・・」


上目づかいで渋々テオティに挨拶する。

右手はアダムの上着をつかんだままだ。


「こんにちは。

私、テオティといいます。あなたのお名前は?

ぜひ、仲良くなりたいです☆」


テオティはメアリの前にかがんで手を差し伸べた。

そして、きらきらした笑顔。

この笑顔に安心したのか、メアリも微かに笑って応えた。


「メアリ。メアリ=ラス・・・です。

お姫さま」


「『テオティ』とよんでもらってかまわないですよ♪

私も『メアリちゃん』とお呼びしてもいいですか?お友達になりたいです」


さらに、『かわいらしいお名前がぴったりですね』とにこっと微笑んだ。

これで、メアリはテオティを好きになったらしい。満面の笑みで差し伸べられた手をにぎった。


「う、うん!

メアリもお友達になりたい!です!

えっと、えーと・・・テオちゃん」


テオちゃんと呼ばれたことに、テオティは感激した。

いままでこんな風に親しく名前を呼んでくれた人はいなかったから。


「はい!はい!!もう私たちは友達です!メアリちゃん!」


「テオちゃん!!」


ぎゅ~!

なぜか抱擁。まぁ、微笑ましいからこれはこれでよし。


「テオティ様、お待たせいたしました。

そろそろ出立いたしましょう」


ゼノンがいつもの笑顔で、テオティに話しかけてきた。

その後ろには、なぜか地面に正座したビルマがいる。


「あれ?あの、他の姫様の部隊の方たちは?」


イヴンは姫直属の部隊が付くと聞いていたから、不思議に思った。

これについて『言い忘れてました!』といった顔でゼノンが応えた。


「部下たちは、非常時だけ私が呼び出すことになっています。

大勢であるくと何かと大変ですからね。シャリオン殿と徒歩で旅をするのは、私とビルマ。

それと・・・」


と、ここまで話していたところで、アダムが話しに入ってきた。


『やはり、獣人が一名加わるのですか?』


「はい。獣人の野生の勘や習性は、旅に必要不可欠ですから。

・・・しかし、それがなにか?」


いきなりの質問してきたのだからなにかあるのだろう。


『いやぁ。

獣人なら、この子を連れて行ってもらえませんか?

子供のほうが野生の勘がよく働くといいますし♪』


そして、きょとんとした顔のメアリをすすめた。

これにはイヴンが驚いた。


「師匠!!なに言ってるんだよ!

こんな危険な旅にメアリは連れて行けない!」


『危険だからこそ、頼れる者がいないと困るだろう?

メアリならどんな時でもお前を裏切らない。

最高に信頼できる旅仲間だ。

それに、メアリはどんなことがあってもイヴンのそばにいたいだろうよ』


そうだろう?とイヴンとメアリに目で訴えた。

これに、メアリはこくんと頷いた。


「メアリ、イヴンの役に立ちたい!

一緒にいたい!!」


「メアリ・・・。

でも、俺はちゃんと守ってやれるか自信がないんだ」


それでもいい!とメアリは言い切った。セオドルで待っている気はさらさらないようだ。

これでイヴンも折れた。


「ゼノンさん。

メアリを連れて行ってもかまわないでしょうか。お願いします」


メアリは満面の笑みだ。

だから、ゼノンも断りにくくなってしまった。

諦めたように軽く笑う。


「・・・いいでしょう。

テオティ様とも仲がよろしくなったようですしね」


これを聞いて、テオティとメアリが笑いあう。


『ありがとうございますゼノンさん。

ほら、これをもっていきなさい。

メアリのかばんだよ。

それから、これはおまじない』


アダムは鞄を何もない空間から取り出すとメアリに預けた。

そして、目を閉じて自分の額をメアリの額に合わせて呪文を唱える。

呪文を唱えると、二人の足元に魔法陣が出現し、明るい光が二人を包んだ。

そんな一瞬の出来事が過ぎると、アダムは額を離してにこりと笑いかけ、メアリもつられて笑う。

これを見ていたミラが少し驚いたような顔をした。


「シーナーさん。

今のは、魔法使いが一生に一度しか使うことのできない、禁断魔法ですか?」


禁断魔法、それは魔法使いが他人にしか使えない一度きりの魔法。

そして、その効力は魔法を掛けられた本人が死したときに一度だけ発動し、生き返らせる。

魔法使いは、本当に大事な人にしか使わない。


「一生に・・・一度?

一回しか使えない魔法、メアリに使ってよかったの?」


『メアリだから使ったんだよ。

せんせいは近くにいれないから、こうして守ってあげる。

だから、無事に帰っておいで。

おっと』


頭を撫でていたら、メアリが自分の首の後ろに手を回して抱きついてきた。苦しいくらいだ。


「メアリ、せんせい大好きー!」


『あっはっは!

せんせいもメアリ大好き~~☆』


アダムもお返しにぎゅっと抱きしめた。

そして、二人は思い出したかのように後ろを向き、満面の笑みで・・・


「『イヴンも愛してる~☆』」


と叫んだ。

当の本人は少し照れたような、「身内がすみません」的な顔をした。


「いや。わざわざ言わなくていいって・・・恥ずかしいから」


変なノリをメアリに教えるなよー。

とアダムに注意してからイヴンは改めて笑った。


「いってきます」


『おう。いっといで』


そして、踵を返して整備された道をゆく。

イヴンは一度も振り返ることはなかった。


「行ってしまいましたね」


イヴンたちが見えなくなると、ミラがアダムに声をかけた。


『ですね。

寂しくなります』


もうイヴンとメアリは見えないはずなのに、愛しそうにその道の先を見ながら応える。

そんな横顔をちっらと見て、話題を変えた。


「・・・王にも言ってしまいましたね」


この言葉を聞いたとたん、いつも飄々として明るいアダムが驚いた顔をしたかとおもえば、冷たく暗い顔になった。目線だけでミラをとらえる。


『ミラさんは知っているのですね。あの無謀な夢を。

・・・アースさんとはどういったご関係で?』


アースという名前を口に出した時だけ、声が震えていた。

この人にも恐ろしいものがあるのか。


「アースは私の父です」


その応えに目を見張る。


『はは。なるほど。

似ているといえば似ていますね。

・・・ミラさん。

私は、王に反論したのは三日前のあの時が初めてなんです。

正直、恐ろしくて心臓が止まりそうでした。

強気な態度を保つのは至難の業でしたよ』


ははは、と笑う。

アダムの中で、王は絶対的存在らしい。

すると、ミラがアダムの正面に立ち、深く頭を下げた。


「申し訳ございません!!

シーナーさんの人生を大きく曲げてしまったのは、父なのです!

父が王に進言したのです。

あの魔法学校を・・・」


この先は、アダムの制止の手によって妨げられた。


『ここでそんなこと言ってはだめですよ。

それに、ミラさんが謝ることではないのでは?

・・・謝られても何も変わりませんし』


これまたいつもと違って、消極的な物言いだ。

ミラはかぶりを振って応える。


「いいえ。

私が父をちゃんと止めていればこんなことにはなりませんでした。

まだ16だった私は、自分のことで精一杯で・・・」


と、ここでいつものアダムの雰囲気が復活した気がする。


『ちょ、ちょっと待ってください。今なんと?

16歳?あの頃もう16歳??』


あれからもう20年くらいたってるんだぞ!?


「え?はい。

それがなにか?」


『だ、だって今あきらかに『僕19歳です☆』的な顔立ちしているじゃないですか!!』


「あ、はは。10代ですか。

まぁ、よく若くみられますがね。シーナーさんより年上ですよ」


まじで?


まじです。


『もしやエルフ!!』


アダムは年上だということが信じられず、ミラの髪をよけて、エルフ特有の縦長耳を探した。

が、普通の耳だった。

ミラは耳を掴まれて痛いのか、顔をしかめる。



「ママー!アダムさんが女の子以外に、男の子にも手ぇだしてるー!」


「見ちゃダメよ!!」


・・・いつのまにやら商人達が門に集まっており、変な誤解をされたアダムだった。

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