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第89話:焔、目覚める

 沙紀は大祐の近くに腰を下ろすと右手を大祐の心臓の位置にかざし、体に触れるか触れないかの微妙な位置に固定する。

 そして目を瞑り、呼吸を整えると神経を右手に集中させる。そしてゆっくりとその手に力を集め始めた。

 すると沙紀の手から紅い炎が生まれ大祐を包んで行く。

 「おい!?」

 その光景を目にした田丸は叫ぶと二人に手を伸ばそうとした。しかし、そんな田丸の肩を強く掴み止める人物がいた。

 「浄化の炎は、扱いが難しいのじゃ。小姫の集中を邪魔するのではない」

 「だってあれじゃあ…………」

 「あれは通常の炎と違って人を焼いたりはせぬから、黙って見ておれ」

 華炎に諭された田丸は、大人しく見守ることにした。

 「うぅ…………」

 炎に包まれた大祐が、苦しそうに声を上げながら身じろぎする。

 「本当に大丈夫なんですか? 随分と苦しそうに見えるですけど」

 皐月は自分の隣に立つ炎輝に問いかける。

 「邪気を吸収したのだ、ある程度は仕方ない。あれでも軽いほうだ。彼は、邪気に染まった人間の段階でいうなら第一段階だからな。すぐに抜けるだろう」

 「もっと段階が進むとどうなるんですか?」

 「第二段階は、意識が戻った後。体に巣食った邪気に唆され欲望に支配される。そして段々と自我を乗っ取られる。この段階で発見出来ればまだいい。最終段階になると、浄化すら効かない場合が出てくる。そうなると」

 「そうなると?」

 「命を断つしかない」

 皐月は、炎輝の言葉に顔を引きつらせながらも大祐を見てホッとする。第一段階と言うなら最悪な事態だけは避けられるだろう。

 その時、ツンと鼻につく臭いがした。何かが焦げたような臭い。その臭いを辿るとその原因は大祐のようだ。よく見るとかすかにだが服の裾が焼けている。

 「さっちゃん!!」

 「どうしよう、力が混ざり合って上手く制御出来ない」

 どうやら異なる力を持つ炎がバランスを崩し、浄化がうまくいかないようである。

 「小姫、手を」

 炎輝は沙紀の横にしゃがみ空いている沙紀の右手と自分の手を重ねる。

 「俺が力を誘導しよう」

 その直後、炎は落ち着きを取り戻したように見えた。しかし、収まったのは一瞬ですぐに炎は大祐の服を焼き始める更に火力を増して。

 「なっ、何で?」

 「小姫、落ち着くんだ。昔を思い出せ、浄化には何が一番必要だった?」

 「浄化に必要なもの?」

 それは慈愛の心。でも、そんなものはとっくに失くしてしまった。

 「失くしてなどいない。小姫は、この十年色々な人物に会ってきたはずだ。総てを失くした小姫に手を差し伸べてくれた人達を思い出せ。彼等のおかげでたくさんの事を得て取り戻したものがあったはずだ。その中には、人に対する愛情もあった。この青年もその一人じゃないのか?」

 沙紀は、大祐に視線を移す。

そこにいるには優しくて真っ直ぐで一生懸命な人。付き合いにくいであろう自分にいつも明るく接してくれる大きい心の持ち主。

 「お願い、タロを助けたいの。これ以上大切な人を失いたくないの、だから力を貸して。タロの苦しみを取り去るために」

 沙紀は、近くにいる火精に語りかけながら、懸命に制御する。すると、自分の中で昔、欠けてしまった心に温かい何かががはまり心の隙間を埋めてくれるような感じがした。

 「そうだ、それでいい」

 今まで制御出来なかった力が、自然とコントロール出来ている。まるで、昔みたいに。

 「小姫の炎が目覚めたようだ」

 「ああ、これでこの青年も大丈夫だろうて」

 華炎の言葉通り、大祐の顔からは苦痛の色はなくなった。そして大祐を包んでいた炎が消える。

 「終わった」

 沙紀は、かざしていた手をどけ大祐の様子を窺う。すると、閉じていた瞼がピクリと動き、ゆっくりと開いた。

 「………………沙紀さん?」

 「良かった、タロ」

 「大祐!」

 「大祐君!」

 大祐が目覚めると部屋の扉が開き、医療班が入ってくる。

 「彼女と大熊刑事を急いで搬送してちょうだい」

 皐月の指示に彼等は急いで準備を始める。

 「俺は大丈夫です」

 「ダメよ、タロ。いくら浄化したとは言え、体には大分負担がかかっているわ。大人しく運ばれなさい」

 「で、俺等はどうする?」

 「現場検証や無いとは思うけど証拠や資料を押収しましょう」

 「了解」

 田丸は、一緒に来た別班の元へ向かいこれからの指示を出す。

 「皐月ちゃんは、沙織とタロをお願い」

 「分かったわ。あら? あの二人は?」

 皐月はキョロキョロと辺りを見渡す。先ほどまで一緒にいた華炎達がいつのまにか姿を消している。

 「多分、帰ったんでしょ。じゃあ、私は田丸達と一緒に作業してくるから」

 「沙紀さん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫、タロのおかげで助かったわ。ありがとう」

 (そう、おかげで私は堕ちずにすんだわ)

 「失礼します。大熊刑事を搬送します」

 医療班の数人が大祐をストレッチャーに乗せて出て行く。それを見送りながら沙紀は、そっと安堵の溜息をついた。

 全面解決までとはいかないが、何とか事件にかたをつけることが出来た。

 あとは、彼等がどうでてくるか。

 「さっちゃん、こっちに来てくれ」

 「今、行くわ」


まだ、もう少しだけ続きますのでお付き合いください。

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