第88話:希望は彼女の手の中に<2>
「とりあえず、何が起きたのか私達に説明してくれる?」
「あの男が投げつけてきたのは、闇玉」
「ああ、前に聞いたやつだな」
沙紀は頷きながら説明を続けていく。
「最近、某一族が関わる事件が多かったでしょ?」
「おかしくなった人間が街を破壊したりする件ね」
「そのおかしくなる原因が邪と呼ばれる気。それは人の心をどんどんと蝕むの。邪は、私の一族の炎で焼き払うか、闇珠の一族がその力で封じ込めるかどちらかなの」
「つまり、大祐に当たったあの玉にはそれが宿っていると」
「じゃあ、さっちゃんが焼いちゃえばいいんじゃないの?」
皐月の言葉に沙紀は、二、三度首を大きく振った。
「それだとタロごと焼くことになる」
「つまり邪を焼き払うと同時に大祐もあの世行き?」
田丸は顔を大きくしかめる。大祐が死ぬのであれば焼く意味がない。
「封じこめられるならそれを引きはがすことは出来ないのかしら?」
「私の力じゃ無理。でも方法がないわけじゃないの」
「なら簡単だろ。それをすればいい」
田丸が何を難しく考えているのだと沙紀に問うとその沙紀は自信なさげに首を振る。
「私が倒れた原因はそれなの。これから先どうしても浄化の力が必要だから訓練していたんだけど」
「さっちゃんは浄化の力が使えないのね?」
「うん、両親が殺されたせいなのか何なのか分からないけど使えなくなっちゃった」
「でも、このままだと」
三人はちらりと大祐に目を向ける。心なしか先ほどより顔色が悪くなっている気がする。
「どうしよう。華炎、炎輝」
思わず沙紀は、この場にいない二人を呼んでしまう。
「今の小姫なら大丈夫じゃ。きっとこの青年を救えるだろうて。なぁ、炎輝?」
「ああ、自信を持つがいい」
音もなく沙紀の後に姿を現した男女は口ぐちにそう言った。
急に現れた二人を見て沙紀は、驚く。
「二人とも何で…………」
「封印が解けたのだ、小姫が呼びさえすれば我等は現れるぞ」
華炎は沙紀を抱きしめ艶やかに笑う。
「俺が力を貸そう。本体がなくとも契約を結んだ我等にはそんなこと障害にもならないからな。どうする? 小姫?」
炎輝は、沙紀に手を差し出す。それに応えるように華炎の腕を解き、恐る恐るその手へ自分の手を重ねた。
「もちろん、やるわ」
その力強い答えに炎輝は満足そうに笑った。それでこそ自分達の主だと。