第86話:衝撃
「そう来なくてはおもしろくない。だが、今回はここまで」
鬼面の男の言葉に沙紀は、捕縛の為の結界を張ろうとしたが一歩遅かった。男達のすぐ側には、千夏が作りだした移動の陣がすでに完成していた。
「全てを取り戻した君に二つほどプレゼントがあるんだが受け取ってもらえるかな?」
「一体何を…………」
いぶかしむ沙紀を見て男は楽しそうに笑うと言った。
「一つは、君のお姉さんは生きている。我々の元でね」
「!?」
その言葉に沙紀は強い衝撃を受け言葉を失う。
「二つめはこれだよ。受取りたまえ」
男はポケットから何かを取り出すとそれを沙紀へと投げつけてくる。投げつけられた物を見て沙紀の目は大きく見開かれた。反射的にそれを避けようとしたが、一瞬反応が遅れたため間に合いそうになかった。思わず目を閉じた沙紀は、それが自分の体に当たるのを待ったがいつまでたってもそれがぶつかることはなかった。
恐る恐る目を開けると目の前に、自分を庇う様に立つ大祐の大きな背があった。
「タ………タロ?」
「………だ…………大丈夫…で……す……」
顔をこちらに向けて大祐は笑い、そしてドサリという音をたてその場に倒れた。
「いや―――――――っ」
その場に沙紀の悲鳴が響き渡った。
「大祐!」
「大祐君!」
大祐の後を追ってきた皐月と田丸には一体何が起きたのか分からなかった。2人が見たのは、沙紀の前に回り込む大祐とその後倒れた大祐を見て泣き叫ぶ沙紀の姿。
「お姫様には、騎士がいたか。まぁ、その騎士もすぐに死ぬだろうが。それでは我等は失礼する、またどこかで会おう」
「待ちやがれ!!」
田丸が男を追おうとした瞬間、突風が吹き荒れる。
その風を投げつけてきたのは涼で、男が陣に入るのを見届けると同じようにその陣に姿を消した。
「じゃあね」
その場に残ったのは、陣の創生者である千夏だけ。
泣き叫ぶ沙紀を見て千夏はポツリと呟いた。
「彼を助けられるのは貴女だけ。全ては貴女次第、彼を助けるのも貴女の姉を助けられるのも」
「どういう意味なの?」
皐月の問いには答えず、千夏も同じように陣へと姿を消した。