第82話:過去と現在、そして……
気が付くと大祐は、見知らぬ場所に立っていた。
そこはどこかのお屋敷のようで目の前には広い庭が広がっている。中央にある池にうつる満月の姿がどこか不気味だ。
突然こんな場所にいることよりもこの場所はいったいどこなのかが気にかかる。
「ここは、どこだろう?」
周囲を見渡すが、自分以外に人はいない。ただただ、静寂が支配する世界。
「誰かいませんか?」
大きな声で呼びかけてはみるが何処からも反応はない。
とりあえずこの場所を探索することにした大祐は、光が灯る場所へと足を進める。
何かがおかしい。理由はないけれど、感じるのだ。違和感を。
長い廊下の突き当たりを右に進むと引き戸が見えた。そしてわずかに出来た隙間から光が漏れ出ているのを発見する。
(お、誰かいるかも)
大祐は、躊躇いもせず引き戸を開ける。そして目にした光景に言葉を失う。
(何だよ!これ………!?)
そこに広がっていたのは、どす黒い赤。その匂いから察するに何かの血。
大祐はその衝撃に後ずさり口に手を当てる。
そんな時だった、大祐が来たのと同じ方向からヒタヒタと足音が聞こえてくる。
「誰だ? もしかして犯人とか…………」
大祐はホルスターへと手を伸ばし、銃を取り出す。そして安全装置を外し、身構える。
息を潜めその足音の主が来るのを待つ。
(落ち着け! 大丈夫だ)
呼吸を整えたその時、目の前にその人物が現れた。そこに現れた人物を見た瞬間、大祐の手から銃が落下し大きな音をたてた。
「さっ、沙紀さん?」
現れたのは見慣れた顔。ただし、本当に幼い子供姿の沙紀。
しかも、沙紀らしき子供は、目の前にいる自分の姿をまったく認識していないのか目線を合わせることなく進んで行く。
(どういうことだ? ………って、まずい! あんな光景……)
我に返った大祐は、その後を追ったが遅かった。少女は、その光景を呆然と見つめている。
「……………ちち、はは。どうして…………」
「沙紀さん!!」
沙紀に駆け寄ろうとした瞬間、眩い光が辺りを包む。その一瞬の間に幼い沙紀の目の前には、血に濡れた日本刀を手にした鬼面の男が立っていた。
「これは、制裁だ。もし他の家族の命を助けたいなら大人しくしていろ。そう、何が起きても。」
男はそう言うと大祐が止める間もなくこの場を去って行った。それと同時に複数の足音が聞こえてくる。
「誰か来たのか…………」
大祐が振り返ると同時に男が現れる。その顔を見て再度大祐は驚く。
「課長? どうしてここに…………」
「華音ちゃん!!」
課長は一直線に沙紀への元へと駆け寄って行った。そう一直線に。大祐の体をすり抜けて。
「え?」
驚きの声を上げた瞬間、また世界が変化する。
次に目に飛び込んできたのは、またまた沙紀。先ほどの子供姿ではなく現在の沙紀。
(もしかしてさっきのは過去なのか? じゃあ、今は?)
「私の仕事は人々の生活を守る事。その為なら力を開放することも厭わない」
そう言うと沙紀は髪を結んでいた紐を解く。すると沙紀を取り囲むように紅い炎が現れる。
(これは今だ、過去じゃない)
沙紀が一歩前に進み出ると男を睨みつける。その視線を追った大祐は、驚愕する。
「鬼面の男。もし、さっきの奴と同一人物だったら……。沙紀さんが危ない」
大祐は沙紀の元へと駆け寄り、その肩に手をかけた。すると再び眩い光がその場を支配する。その間、大祐の脳裏にはある光景が目に焼きついた。
そして再び目を開けるとそこは先ほどまで皐月といた場所だった。
「気がついたのね。駄目よ、動いちゃ」
「戻らないと! じゃないと危険なんです!」
そう叫ぶなり大祐は、立ち上がり駆けて行った。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい」
大祐に取り残された上、状況を理解出来なかった皐月だが我に返るなり大祐の後を追いかけた。
大祐君、能力発動の巻。
予知なのに過去を見ているではないかって?
大祐君は、未知数。
今回は、引きずられたっていうのが正しいのかもしれません。
もちろん、彼女にです。