第81話:耳鳴り
ホールを後にした大祐と皐月は、別班が待機している場所へと急いでいた。
「怪我人が1名。本件の重要参考人でもあります。背中を小型のナイフで刺されたもよう至急医療班の出動を願います」
走りながら皐月は、外に待機している支援班に連絡を取る。その間も時折後方へと視線を向け警戒を続ける。
「どうやら追って来る気配はないですね」
「そうね。主催者にとって彼女はもう用済みだろうから。だけど私達にとっては重要だわ」
「急いで戻らないと。田丸さんがいるとはいえ2人だけでは不安です」
「確かに。田丸じゃ、さっちゃんの行動を抑制することなんか無理でしょうから」
皐月の言葉に大祐は、不安を覚える。ただでさえ、沙紀はこの件に関して神経をとがらせている。その為、何をするか分からないという危険がある。
今の沙紀さんは冷静なようで冷静じゃない。そんな時にもし1人になってしまったとしたら?
考えたくはないが最悪な事態に発展する可能性が大だ。
「藤田刑事! 大熊刑事!」
聞こえてきた声に目をやると地上へと向かう階段前に待機している警察官達がいた。その後では簡易ストレッチャーを準備している医療班も確認出来た。
大祐はいっきにスピードを上げるとその医療班の面々に安藤を預ける。
「お願いします」
「了解です」
いくつかの指示を出し終えた皐月に目を向けると視線がかち合った。互いに頷きあい、皐月と大祐が急いで引き返そうとしたその時だった。
キーンという音と痛みが大祐の耳を襲う。あまりの痛みに思わずその場にしゃがみ込む。
「大祐君!?」
それを見た皐月は、大祐に駆け寄り声をかける。
「どうしたの?」
「………み…………耳鳴りが………。痛ってぇ」
痛みで目を閉じたその時だった。大祐の脳裏にある光景が浮かぶ。
「…………何だ? これ?」