第77話:別行動
「皐月ちゃん、タロ。先生を後で待機している別班に預けて来て」
「分かったわ。大祐君、先生を運んで。私がシールドを張るわ」
「了解。気をつけてください」
大祐は、安藤の体を抱えると皐月と共に扉へと急いだ。皐月と共に警戒しながら進んだが少年は2人に対してまったく反応を見せなかった。
「やはりあなた方が絡んでいましたか」
沙紀は相手との距離を取りながらいつでも戦闘に入れるように態勢を整える。
「僕達が裏にいると分かってはいたんだ。良かった、さすがにそこまで愚かではないんだね」
「あなた方のマスターとやらが、この会の主催者ですね。せっかくなので取り次いで頂けませんか?」
「いいよ」
あっさりと承諾した涼にいぶかしげな視線を向けると涼は半ば呆れながらも楽しげに笑う。
「何? 信じられないって? まぁ、そうだろうね。僕もどうかとは思ったけどマスター本人が君に会いたがってるからね」
涼やその主であるマスターとやらの真意が読めない。裏社会で生きる彼等なら自分達警察に会いたがるはずもないだろう。
(だけど、このチャンスを逃すわけにはいかないか)
「では、案内して頂けますか?」
「こっちだよ。あの扉の向こうだから後から来る彼等も分かると思うよ」
涼は反対側にあった扉を開け、奥へと進んで行く。その姿を追いながら沙紀と田丸は、周辺に罠が張られていないかをチェックする。
「何かあるぜ、確実に」
「そうでしょうね。田丸、ここに待機して皐月ちゃん達を待っていてくれる?」
「駄目。さすがにさっちゃんを1人ではやれない」
「もし、私達が入った後に扉が姿を消したらどうするのよ? 田丸がいれば力でどうにか出来るでしょうし、皐月ちゃん達だってすぐ戻るわ。別班だってすぐ近くにいるし。それにインカムもある。危なそうだったらすぐ呼ぶから」
「あのお嬢ちゃんだって連絡が取れなくなってるんだ。俺達のインカムが正常に作動するかも怪しいだろう?」
「沙織に渡した通信機とこれを一緒にしないで。それに何のために蜘蛛を現場に引きずりだしたと思ってるの」
一歩も引かない沙紀に田丸は、頭を抱える。しかし、沙紀の言い分もかなり正しい。道が閉じてしまったらこじ開けられるのは自分だけだ。
「いいか、少しでも不利な状況になったらすぐ呼ぶこと。分かったか?」
田丸の念押しに沙紀は、笑って答える。
「当然。そっちこそすぐ来てね?」
「当たりまえだ」
「じゃあ、先に行ってるから」
扉の前に田丸を残し、沙紀は扉の奥へと進んだ。
単独行動ばかりでバディを組んでいる意味があるのかと聞かれたら、沙紀の場合はどうだろうとしか答えようがないです。
単独行動に慣れてますから。後は大祐が頑張ってついて行くしかないです。