第76話:尋問
「あなたが刑事?」
安藤は改めて沙紀を上から下まで眺めるがどうみても刑事には見えない。この華奢で小柄な少女が刑事という荒っぽい仕事についているなんて信じられないのだ。
「安藤先生、あなたにはお聞きしたいことがあります」
背後から聞こえてきた男の声に目を向けるとそこには見知った顔が3つもあった。
「大熊先生!? まさか、あなた方も?」
「はい」
これだけの人数が学院に入り込み、捜査していたのに気付かないとは明らかに自分の失態だ。
(こんな事、あの方に知られたら私は)
安藤の顔がどんどんと青ざめる。それを好機と見て沙紀は話を進める。
「安藤先生、貴女はこの場の主催者を知っていますね?」
「知らないわ」
安藤の答えに沙紀は、軽く嘆息をつく。
「貴女は主催者に切られたんです。そんな相手を庇ってどうするつもりですか?」
「そんなことあるわけないでしょう!!」
その言葉に怒りを覚えた安藤は沙紀を怒鳴り、キッと睨みつける。その視線を物ともせず沙紀は続ける。
「気づきませんか? こんな危険な薬物を裏の人間に売るのではなく、学生に売りつける。そんなことをすれば我々特異課が動くことなど主催者は分かっているはずです。それなのにこの場所で売ることを許可しました。何か目的があったのか、それともこの社交場での最後の資金回収のつもりか分かりませんが。そして内部資料ではこの学院の社交場の責任者は貴女だと記してあります。つまり…………」
「押しつけられたのね、全ての責任と罪を」
安藤は力なく呟くとその場に座りこんでしまう。
「もう1度聞きます。この裏社交界の責任者は誰ですか?」
「……………によ」
「?」
よく聞き取れず首を傾げる沙紀を見て安藤は、再度呟いた。
「鬼。いつも鬼面を被った男、正体は知らない。でも………うっ!!」
「先生!?」
突然、呻き倒れた安藤に大祐達は近寄る。すると倒れた安藤の背にはナイフが刺さっている。
安藤の後には自分達がいたのだ。それなのにナイフを命中させるなど普通の人間のすることではない。
大祐達がサッと後ろを振り返るとそこには燕尾服姿の少年が立っていた。
「駄目だよ、先生。マスターを売るようなことをしちゃ」
それは春の事件で逃がした涼という名の少年だった。