第75話:突入
沙紀からの合図で扉を開け放ち、大祐達は銃を構え人々を威嚇する。
突然の出来事に中にいた人々は呆然と立ちつくしている。
「動かないで下さい。我々は特異能力犯罪捜査課の者です、申し訳ありませんが皆さん直ちに我々の指示に従いこの部屋から退出を願います」
その言葉に我に返った客達からは戸惑いや場を乱した特異課に対する怒声などが上がり始める。そんな中一人の中年の男性が歩み寄ってくる。
人々が道を譲ることからこの男性はかなりの発言権を持つ人物なのだろうと予測がつく。
「これはどういうことかな? 九重君。優秀な君ならこの場がどういう場所なのか分かるだろう?」
「そうですね、本来なら我々が介入するべき場所ではありません」
「それならすぐにここから立ち去りなさい」
「しかし、この場で流通している薬物で一般人への被害が出ています。それも政財界に通じる人間ではなく、普通の若者達へ。このような事態を放置することは出来ません。我々は別にこの会場にいらっしゃる方々の身元などを調べるつもりも捕縛するつもりもありません。ただ、今夜はこのままこの場から立ち去って頂きたい。我々が用があるのはここの主催者です」
「ここの主催者は売買の場は提供しているだけで品物を製造しているわけではないのだよ」
「我々が特定しなければいけないのはこの薬の製作者と売買している者達です。そして薬のデータと現物全ての廃棄・回収。それには、主催者の協力が必要です、その為にこの場に踏み込ませて頂きました。これ以上、我々の任務を邪魔するのであれば、いくら貴方でも公務執行妨害で逮捕させて頂きますよ?」
最後に続いた男性への呼びかけ。それは言った本人と男性しか聞き取ることしか出来ず周囲に聞こえることはなかった。
しかし、沙紀の口の動きを読んだ大祐は驚愕する。顔に出すことはしなかったが思わず男性の顔に目を移してしまう。
(総理って、マジですか!?)
「さぁ、どうなさいますか? 我々はどちらでもかまいませんけど?」
不敵な笑みを浮かべる沙紀。その笑みを見て男性は顔を青ざめながらも決断したようだった。
「みなさん、今宵の社交はお開きに致しましょう」
男性の言葉に周囲の人間は、戸惑いながらも応じる素振りを見せる。
身元を詮索しない、この言葉がかなりの効果をもたらしたようだ。
「それでは皆さんは、順番にあちらの扉から警備の方の指示にしたがい外へ」
扉の前に立っていた警備員たちが誘導を始める。その誘導が良かったのかたいして混乱は無くすぐに会場は空になっていく。
その様子を眺めていた沙紀が突然走り始め、1人の女性の腕を掴み拘束する。
「貴女には残って頂きます。安藤先生?」
「…………天見さん?」
自分の腕を掴んだ少女の顔を見て安藤は、驚く。
「あなたが何故? それにその格好?」
「分かりませんか? これが私の本当の姿です、天見 華音はこの学院に潜入する為に造られた人物。そして私の本当の名は、九重 沙紀。特異課に所属する刑事です」