第69話:作戦開始
PM19:55
指定された時刻の5分前に沙織は、校門を通り抜け礼拝堂の前に立った。真昼の学院とは違い校舎には誰の気配もなく辺りはしんと静まりかえっている。
空を見上げれば、礼拝堂の屋根近くに大きな満月が浮かんでいて不気味な光を放っていた。
「さて、何が出るのやら。………今から礼拝堂に向かう」
さっと小声で呟くと沙織は、礼拝堂の扉へと手をかけ扉を開く。
ギィ―――――――ッ。
扉の音が礼拝堂へと響いた。室内へと足を一歩踏み入れるとそこは、いつもの明るい礼拝堂の姿とはまったく違う。
照明は、点いておらず祭壇へと向かう通路の両脇にある備付の椅子の上に燭台に飾られた蝋燭に灯された火だけが部屋を照らしていた。
(私の他に人はいないか。だが油断するわけにはいかない)
沙織は、部屋の隅々にまで気を配る。そして注意深く観察しながら祭壇へと足を進める。すると祭壇の奥から人影が現れた。
「ようこそ、裏社交界へ」
声の主は自分と同じ年代と思わしき燕尾服姿の少年。
「君は?」
「案内人です。どうぞ、こちらへ」
恭しく一礼した少年は、沙織に手を差し出してくる。警戒しながらも沙織は少年の手に自分の手を重ねた。
少年にエスコートされた沙織は、祭壇の裏に隠された隠し階段を降り会場へ迎って行った。
沙織と少年が姿を消すとどこからか風が吹き、全ての蝋燭の火を消して行く。そして礼拝堂は、闇に包まれいつもの静寂さを取り戻した。
一方その頃、図書館近くの茂みには、沙紀達が身を潜め周囲の様子を窺っていた。
「沙織は無事に潜入したようね。私達も行きましょうか」
「「「了解」」」
四人は、音をたてないように入口へと向かうと扉に手をかける。しかし、施錠されているのか扉は開かない。
「田丸」
「任せろ」
田丸はポケットから針金らしきものを取り出し、鍵穴に差し込むとものの数秒で鍵を開けてしまった。
それを見ていた大祐の口からは感嘆のため息が出る。
「あざやかですね」
「ちょろいもんよ。ところでさっちゃん、開けてから言うのもなんだがセキュリティのほうはどうなってんだ?」
田丸の言葉に皐月は、頭を押さえ呆れた。
(何故、確認してから開けないのよ)
「蜘蛛に頼んで、警備会社との回線を遮断してもらったから大丈夫」
「ああ、なるほど。そういや、あいつ最近見ないけど生きてるのか?」
「あいかわらず」
「蜘蛛って何ですか?」
「うちの非常勤のメンバー。機械と意思の疎通が出来る上に凄腕のハッカーでもある変な人。かなりの面倒くさがりやでめったに表には出てこないの」
「雑談もそこまでよ。さっさと中に入りましょう」
皐月に促され四人は、図書館の中へと姿を消した。