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第67話:それぞれの実情

いつもなら2話に分ける文量ですが、中途半端に切るのもどうかと思い、1話にまとめました。

携帯の方は読みづらいかもしれません。

ごめんなさい。

 「失礼します」

 「2人ともごくろうさま」

 準備室に入ると室内には大祐の他に皐月と田丸が居た。

 「さぁ、今お茶を入れるからそこに座ってて」

 皐月が示した場所には2人分のパイプ椅子があり机を挟んだ正面には田丸と大祐が座っていた。

 「これでそろったな」

 「念の為に結界を張っておくわね」

 皐月は白衣のポケットから結界符を取り出し、ドアに貼る。

 「じゃあ、これからの段取りを決めてしまいましょう」

 「タロ、例の荷物は届いた?」

 「はい。そこの隅に置いてあります。あと、メール便で届いたのがあるんですけど」

 大祐は、机に置いておいた少し厚めの封筒を沙紀に手渡した。

 「何です、その荷物は?」

 部屋の隅に積み上げられたいくつかの大きめの段ボール箱を見て沙織は首を傾げる。

 「我々の装備品です。三瀬さんは、ないんですか?」

 「いくつかの使いなれた武器や符があれば十分です。あとは力で」

 「危なくないの? 防具はしっかりしておかないと傷ついちゃうわよ」

 「慣れていますし、何より今回は相手が一般の能力者ですから。一応、物心つく前から訓練をしている身で負けるようでは一族の仕事は出来ません」

 「その考えが命取りになるんだぜ、お嬢さん。裏社会で生きる能力者達を軽く見てると痛い目みるぞ」

 「肝に銘じておきます。…………華音、何みてるんだ?」

 大祐から封筒を受け取るなり無言で中の書類を見ていた沙紀は、その言葉に書類から目を離す。

 「これは情報屋からの情報。今日の警備体制などもろもろについてのね」

 沙紀は、机に何枚かの書類を並べていく。

 「まず、これが会場の見取り図。会場は、図書館と礼拝堂の間の地下にある。招待状の内容からして礼拝堂がゲストを迎えいれる入口。だから図書館のほうは、関係者が出入りする裏口」

 「じゃあ、私は礼拝堂からどうどうと乗り込めばいいんだな?」

 「ええ。私達は、この図書館にある裏口から侵入しつつ能力者達を無力化する。学院の周囲は、警察の人間で固めておく」

 「沙織にも小型の通信機を渡しておく。これは発信機にもなっているから、私達はそれで随時あなたの場所を確認する」

 沙紀は、通信機を沙織に手渡すと使い方を説明していく。

 その間に他の人間は見取り図を頭に叩き込む。

 「能力者の無力化か。大祐、お前はあんまり出すぎるな。俺とさっちゃんがフォワードに回る。お前と姐さんは俺らのサポート」

 「どの程度の能力者かしらね。一応、銃の出力レベルは高くしておく?」

 「そうですね、能力者なら高レベルのレーザーでも平気な人間がいますからね」

 「今回は高レベルでいこうぜ。裏社交界なんてもんに関わってんだ、それなりの力があるとみるのが正解だろう」

 「最悪の場合、出力レベルMAXでの射殺も許可が出てる。タロ、少しでも危ないと思ったら迷わず撃ちなさい」

 「了解です」

 それまでの会話を黙って聞いていた沙織はある疑問を投げつけた。

 「もしかして先生は、力の扱いが下手なんですか?」

 沙織の言葉に大祐は、笑ってごまかす。

 「タロは新人だし、そもそも現場むきの能力ではないのよ。ただ、いざという時に1人いると便利よ」

 「便利って……」

 情け容赦ない沙紀の言葉に大祐は絶句する。

 確かにそれは事実だけれど、もう少し優しい言葉でお願いしたい。

 「私達は最低でも2人で動くことを義務づけられているから問題ないのよ。個々の力で補えない部分を助け合いそして解決するっていうのがスタイルだから」

 大祐があまりに不憫に思えた皐月は、沙紀の言葉を補う。

 「でも足を引っ張られる可能性の方が高い気がする」

 どこかあざけりを含んだような沙織の言葉に沙紀はカチンとくる。

 「沙織、一族だって軍で動くでしょう? それと同じよ」

 「でもさすがに素人は使わないぞ」

 「素人だろうが何だろうが治安維持の為には人手が必要なの。数年前までは、能力者なんてほとんど社会に存在しなかった。居たとしても極々少数。一族が裏で処理出来る程度よ。それに本来なら一族が事件の処理に当たるべきなのよ」

 沙紀は、現実を知らない沙織に懇々と諭す。

 「我々だって処理しているさ。現に他の土地では出てないだろう?」

 「そうね。本来ならこの地域は焔の管轄。でもね、その焔の本家に制裁を下しその機能を低下させたのは扉の一族全体の責任だわ。だったら、他の一族がその分を補うのが普通じゃない?」

 「…………すまない」

 痛いところをつかれた沙織は俯き黙り込み、完璧にやつあたりととれる行動をした自分に対して自己嫌悪に陥った沙紀も同じように黙ってしまいその場の空気が悪くなる。

 それを見かねた大祐が手を叩き、2人の注意を自分に引き付けた。

 「2人ともそこまで。三瀬さん、俺は素人ですけど警官としては訓練をきちんと受けてきましたから能力者以外だったら自分でどうにか出来ます。沙紀さん、治安維持は俺達警察の本分ですから俺達が頑張ればいいんです。それと謝るならすぐ謝った方が何事もいいですよ」

 「ごめんなさい、沙織。言いすぎたわ」

 「いや、警官である華音が治安維持に関して文句を言いたいのは分かる。私も不用意な発言ですまなかった。ただ、補足させてもらうと治安維持をしないのではなく出来ないのが現実なんだ」

 「え?」

 「焔の一件からだろうか、この土地に精霊が存在しづらくなっている。力が強いもの以外はこの土地で精霊を呼べなくなっていてそれに加えて感染者が増えてる」

 「それは扉が開いているということかしら?」

 その言葉に沙織は首を激しく振って否定する。

 「それならもっと騒ぎになっているさ。ただ、感染者は確実に増えている。それも一族内に。だからその感染者達を止めるので精一杯というのが実情だ」

 「それなら我慢するしかないようね」

 2人の間の張りつめた空気がなくなったのを見て皐月は、大祐に感心する。

 「さすが先生。仲裁がうまいわね」

 「ああ、教職のほうがむいてるんじゃないか」

 「ご冗談を。あの程度の仲裁は、妹達で慣れてます」

 「確かに姉妹喧嘩レベルか、今のは」

 「沙紀さん、何で我慢するしかないんですか?」

 大祐は、沙紀達の会話を聞いていて思った。普段、あれだけ文句を言っているわりにはあっさり引くのが意外だったのだ。

 「ほとんど素人上がりの私達特異課が、感染しておかしくなった一族の人間を止めるなんて無理。それこそ死人が出る」

 「我慢します」

 「とりあえず、さっさとこの事件にケリをつけましょう」

 その言葉に沙織を含めた全員が大きく頷いた。


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