第66話:予測的中
「それでは今日の授業はここまで。三瀬さん、いつも通りノートを集めて準備室へ持って来てください。天見さんは補習の件で話があるので準備室へ来てください」
「起立、礼」
大熊が授業を締めくくると同時に沙織は、委員長としての役目を果たす。
「皆、後からノートを集めて教卓において欲しい」
その言葉にクラスメート達は、雑談しながらも手際よく作業を行う。集められたノートの数を確認した沙織は、席を立ち準備室へと向かう華音を見つけ声をかける。
「華音、準備室に行くなら一緒に行かないか?」
「ええ。半分持つわ」
華音は沙織の手から半分程のノートを取り上げる。
「助かるよ。皆、今日は午後から他の学校の先生達が会議でいらっしゃる。5時までには、下校するように」
「分かったわ」
「はーい、委員長、華音。また明日ね」
「ええ、また明日」
クラスメートからの声に返事をすると2人は、準備室へと向かった。
廊下の窓から来客用の玄関が目に入る。まだ時間はかなり早いが何人かの来客の姿が確認出来る。
「会議ね……。一体、何の会議をするのやら」
「それは言わずもがなってやつよ、沙織」
目的地である社会科準備室のある特別棟へと向かいながら2人は、学院の空気が微妙に緊張を帯びてきているのを感じ取る。
何人かは分からないが、けっこうな人数の能力者がいるようで彼等の探るような思念の波動が時々頭の隅に引っかかる。
「まぁ、こちらが手間取るような力の持ち主はいないみたいだな」
「いてもらっても困るわ。ただ、何が起こるか分からないわ」
「何か気になる点でもあるのか?」
「ええ、春にある事件で出会った能力者達がいたの。少年と少女の2人組」
「華音が気にするってことは、相当なのか?」
「さぁ? 前回は不覚をとってね。私自身はそんなにやり合ってないから。ただ……」
そう言うと華音は、その場に立ち止まってしまう。
急に立ち止まった華音を沙織は顧みる。
「ただ、青嵐と水鏡の者達だったのよね。その2人」
華音は、沙織の反応を待つ。
もし、これに少しでも反応を示すようなら自分達の予測は当たる。
「一族からの離反者か。まぁ、ここ数年けっこうな数の離反者が出ている。生きてく為にはこの力を使うのが一番早いからな」
当然のことだと言わんばかりに反応を返した沙織を見て華音は俯き苦笑いをする。
(やっぱりそうなのね)
ほんの一瞬だが、沙織の精神の揺れを感じ取った、それが何よりの答えだ。