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第65話:遭遇

 数日後、沙紀は退院した足である場所へと向かった。その場所というのは、喫茶店・ローズ。

 やや、乱暴に扉を押し開くといつもの女性店員が現れる。

 「いらっしゃいませ。退院、おめでとうございます」

 そしてにこにこと笑顔を浮かべながら、沙紀を中へと招き入れる。

 自分が入院していたことは当然知っているだろうと思っていたから女性の言葉に別に驚きはしない。

 「左京はいる?」

 「おりますが、只今他のお客様と商談中ですのでこちらでお待ちください」

 「ふーん。じゃあ、紅茶をお願い」

 奥のテーブル席に座り、店内を見渡す。

 (他に客は無し。そう待たされることはないか)

 正直、さっさと用件を済ませて帰らなければ。じゃないとママさんに何を言われるか………。

 病院を出る時につかまり、約束させられたのだ『家に直帰する』と。その時、顔は笑っていたけれど目はまったく笑っていなかった。

 以前、言いつけを破った時のあの般若の様な顔と5時間にもおよんだお説教はかなりこたえた。

 「お待たせいたしました。もう、そろそろ商談も終わりますのでお帰りには間に合うかと」

 先ほどの店員はそう言うと、ティーカップとケーキを並べ、一礼して去って行った。

 その後姿に視線を送りながら、沙紀は思う。

 ――ただの店員とあなどるなかれ。

 あれ程の能力者が、喫茶店の従業員。ああ、もったいない。

 いくら低レベルの心壁しか張っていないとは言え、沙紀の心を読んだのだ。かなりの実力者の上にこの情報網。

 うちに欲しいな。まぁ、ここにいるってことは誘っても無駄でしょうけど。

 お茶と一緒に出されたケーキを見てつくづくもったいないと思う。

 出されたのは、フルーツタルト。

 フォークで切り、口へと運ぶ。

 家族しか知らない、最近のお気に入り。それをさりげなく出してくるのだ、もったいない

 数十分後、何やら店の奥の商談スペースから大きな声とそれに続いて扉を開く音が聞こえてきた。そして、だんだん声とこちらに歩いてくる足音が近づいて来る。

 まだ若い少年の声、それを諌める他の少年。それに2つの人とは違う気配、そしてその先頭を歩くこの喫茶店の主の静かな足音。

 「彼等か……。それにしてもうるさいわね」

 大方、左京が苛めて楽しんでいるのだろう。それに素直に反応するのだから、まだ子供ということか。

 いくら跡取りとはいえ、まだ15だ。仕方ないか。

 「ふふふ、若いですね。まぁ、今回はお得意様の顔をたてて引受けましょう」

 「よろしくお願いします。ほら、疾風行くよ」

 「うっせーな、ムカつくんだよ。このおっさん」

 「疾風!!」

 左京に掴みかからん勢いの少年を少年達の後ろにいた年かさの青年の1人がはがいじめにする。

 「ここは公共の場よ。静かにしなさい、少年」

 沙紀はテーブルを立ちあがり少年に近づき注意する。

 「何だよ!! ………ってあんたはあの時の刑事さん」

 「あなたも公共のマナーぐらい分かる年齢でしょう。左京、あなたもからかわないの」

 「これは、お嬢様。何かご依頼で?」

 「ええ、そうよ。ここに書いてあることを調べてちょうだい。とりあえず1枚目は、早急に。2枚目以降は、時間がかかってもいいから詳しくね」

 「承知しました。そのご様子ではもうお帰りで?」

 「ええ、早く帰らないといけないから。失礼するわ」

 「よろしければお送りしますが」

 「けっこうよ。少年、左京と取引したければもう少し大人になりなさい」

 「分かってるけど、こいつが……」

 「あなたがそうやってすぐ反応するのがおもしろいのよ。一緒にいるお友達を見習いなさい」

 沙紀の言葉に疾風は渋々頷いた。

 (隣は地涯か。彼等との接触は最低限にしないとね)

 「じゃあ、失礼するわ」

 彼等の横を足早に通り過ぎるとまっすぐ出口へと向う、自分を注意深く探るようにみつめる視線を背に受けながら。


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