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第64話:涙

 「それなら納得いくわね。あの一族が自ら進んで事件調査に乗り出しているのも」

 「もしかして、無理やり薬を作らされているのかもな」

 「そうですね。…………って沙紀さん。何かうかない顔してますね」

 沙織の動く理由が分かったのだから少しくらい明るい顔をしてもいいだろうに今の沙紀の顔はまったく反対で暗い顔だ。

 「皐月ちゃん達が考えている通りならいい。だけど………」

 「本家のそれも妹の名代を勤めるほどの力の持ち主なら、他人に使われるということはまずないかと」

 沙紀の言葉を引き継ぐ形で杉浦が意見を述べた。

 その重い響きに部屋の空気は一気に張りつめたものになり沈黙が訪れる。しばらくして、その空気を払うかのように沙紀は言った。

 「でも、まだ彼女が関わっていると決まったわけじゃないもの。仮定の話ってことで覚えておいて」

 その言葉に大祐達は、大きく頷く。

 それからは、裏社交界への突入に向けての準備などを打ち合わせると杉浦と田丸は海里へ、皐月は課長への報告を兼ねて本部へと戻って行った。

 大祐は、病室に残り沙紀と共に溜まった書類の処理に追われた。病室に積まれた書類の束は大量でせっかくの機会だと言わんばかりに沙紀から事務処理を叩きこまれた。

 何故こんなにも書類が溜まっているか。それは、常勤の刑事は課長を含めて3人しかおらず政府に提出する正規の書類の作成は非常勤のメンバーに認められていないからである。

 とりあず、大祐がパソコンで書類を作成しそれを沙紀が見て判を押すという手順で進められた。

 そしてあらかた処理の目途がたつと大祐は立ち上がり腕を上に伸ばし肩を大きく回す。

 するとゴキゴキと大きく骨が鳴った。

 「少し休憩。冷蔵庫に飲み物があるから好きなのを飲んで」

 「ありがとうございます。沙紀さんは何にします?」

 「紅茶」

 大祐は、自分の分のコーヒーと沙紀の紅茶を冷蔵庫から取り出し沙紀に手渡す。

 「どうぞ」

 「ありがとう」

 カンを開けて一口飲む。冷たく冷えたそれはとても美味しかった。

 沙紀も黙って紅茶を飲んでいる。

 休憩しているはずなのにどこか緊張して張りつめた感じがする。どうも、原因は沙紀のようで握っているカンを強く握りしめカンを一心に見つめている。

 (うーん、どこかピリピリしてる感じだ。不機嫌というより不安?)

 この数カ月、沙紀と一緒に過ごすようになってほんの少しだが沙紀の表情が読めるようになってきた。

 元々、大祐には弟妹がいて世話をしていたせいか表情を読むのは得意だったりする。

 「出奔した子が気になるんですか?」

 沙紀は、更にカンを握る力を強める。

 「春の事件で会ったあの少女。彼女がそうだと考えているんですか?」

 「当たって欲しくはないけれどね。でもそれなら彼女がああも私に敵意を向けていたことに納得がいくの」

 沙紀は、窓の外に目をやりぽつりぽつりと言葉を選んでいく。大祐は、口をはさまずその様子を見守る。

 「本家に生まれて彼等にも選ばれ大切に育てられた。それなのに、一族から離れ自由に生きている私を見て怒りがわかないはずないもの」

 唇を強く噛み、何かに必死に耐える姿。それを見た大祐は、沙紀のすぐ側に立ち沙紀の手に自分の手を重ねる。

 「沙紀さんには沙紀さんの理由があります。それにあの時の子達も沙紀さんに何が起きているのか知っていたはず。それに、沙紀さんが気にしているのは違うことでしょう?」

 その言葉に沙紀はビクッと体を震わせると俯く。

 「…………姉様も同じように私が憎くは無かったのかな?」

 「何故そんなことを?」

 「だって、私が生まれるまで姉様が跡取りで。なのに私が生まれたからって……」

 「沙紀さん、それは彼等の家庭問題であって沙紀さんの家の問題ではないんです。間違わないでください。それに沙紀さんのお姉さんは自分の妹を憎む人ではないでしょ?」

 「…………優しかった。とっても………っ」

 それまで必死にこらえていた涙が、ぼろぼろと零れおちる。大祐は、2人のカンをテーブルに置くと沙紀の体を抱きしめた。

 そして妹達にするように優しく背をさすってやる。

 最初は沙紀も体を強張らせていたが、じょじょに力を抜くと大祐の胸に顔を押しつけて泣いた、涙が枯れるまで。

 


元々、沙紀は感受性が強いたちです。その上、じょじょに記憶が戻ってきたりで自分の中で処理できないものが生まれて考えが飛躍しすぎたのでした。

大祐君は、役得?


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