第63話:お家騒動
水鏡の一族――彼等の里は、九州のとある山奥に存在している。現在の当主には、息子が1人、娘が2人。そのうちの、下の娘が次期当主とされている。歳の離れた兄は、数年前から行方不明であり、姉が妹を補佐している。
「本家についての説明はこんな感じです。それで、現在の状況ですがかなり悪いですね」
杉浦は、眉間に皺を寄せ言いにくそうに言葉を濁す。
「何が起きているの?」
「後継ぎ問題で揉めています。その為か、姫は本宅から姿を消し里にも姿を見せていないと」
「何故?彼が選んだのは、彼女でしょう?」
「例えそうでも、屋敷の奥から出ることがなく、水軍も指揮出来ないでは次期当主としてどうだという意見が出ているようです。水軍の者も、上の姫が継いで欲しいと思っているそうです」
「あの、ちょっといいかしら?」
皐月は手を上げ杉浦の話を止める。
「何? 皐月ちゃん」
「その跡継ぎの子は、何が問題なの?」
「彼女は、生まれつき目が見えないの」
その言葉に、皐月達は息を飲む。
一族の仕事は、自分達と同じく命の危険にさらされる仕事。多分、五体満足な人間でもかなりの危険を伴う。そんな仕事を盲目の人間がつくことなど無理だ。
「心眼という術があってね、それで見ようと思えば見えるの。ただ、その術を絶えず使用するのは体に負担がかかって難しいの。だからこそ、彼女の姉が名代として立っていた」
「沙紀さんが言う、彼といのは炎輝さん達と同じ存在なんですよね? その彼に選ばれたのなら今さらそんなことで反対されますかね?」
「俺もそう思う。さっちゃんだって力が強いから跡継ぎに選ばれたんだろう?」
「そう。普通ならありえない。でも、そのありえない事が起きている」
「沙紀様は、お小さくて知らなかったと思いますがあの家の人間関係はかなり複雑なのです」
「複雑?ああ、確か母親が違うって聞いたけど。上の姫の母親が亡くなって引き取られと聞いたけど」
「げっ、不倫ってこと? うまくいかないでしょ、普通。よく、妹の補佐なんか出来たわね」
皐月は、複雑な心境であるだろう姉に同情する。
「いや、妹のほうも複雑だろう。いきなり知らない人間が今日から家族ですって言われても」
「いえ違います。上の姫の母親が亡くなったのではなく、下の姫と兄の母親が亡くなって引き取られたんです」
「逆ですか………、ああ何だか昼メロの世界に突入しそうですね」
「タロ。扉の一族内では、普通。逆に世間一般の普通の家庭がむしろ少数派だから」
至極当然といった感じの沙紀に大祐達年長組は、そんなこと普通に思って欲しくないと切実に思う。
「元々、現当主の奥方に子供が出来なかったので一族の他の女性を第2夫人にしたと」
「どこの国の王様よ!」
「皐月ちゃん。一族の人間は何よりも血の存続を求められるの。それも本家に近ければ近いほどね。うちは普通の家庭環境だったけど、多分」
「多分なの?」
「うん。だって、私子供だったのよ。父親の交友関係なんて知らないわ」
「さっ、沙紀さん。本題、本題に戻りましょう? ねっ、杉浦さん」
「旦那様は、奥さま一筋です。続きですが、奥方にやっと子供が出来たと分かった頃、同じように第2夫人にもお子様が。その上、同日に生まれました。本来なら正妻の子である姉の誕生に沸き立つはずでした。しかし、第2夫人に生まれた妹は彼に選ばれたと」
「うわっ、最悪だ」
「それで現在に至るわけです。そして跡継ぎ問題で揺れ始めた頃、姉姫が一族を出奔したそうです」
「見るに耐えかねてですかね。きっと、姉妹仲が良かったんじゃないでしょうか?」
「そうでしょうね。…………ってさっちゃん?」
急に黙りこんだ沙紀を不審に思い、皐月は様子を窺う。
「沙織の目的は、制裁じゃないのかもしれない。主を探している?」
ポツリ呟いた沙紀の言葉の意味に大祐達は気が付く。
「薬の製造方法は本家に近い人間だけが知っている。だとしたら、出奔した姉が何かしら関わっているかもしれないそう考えたとしたら」
「「「「「きっと、妹は動く。姉を探す為に」」」」」