第62話:ミーティング
沙織が病室を訪れてから数時間後、学院での仕事を終えたメンバーがぞくぞくと沙紀の病室に集まった。そして最後に杉浦が病室に現れる。
「遅くなりました」
「悪かったわね、杉浦。じゃあ、始めましょうか?」
杉浦が用意された椅子に座るのを見届けると早速、沙紀は沙織の元へ届けられた招待状についての説明をした。
「安藤先生が?」
招待状を手渡した人物を聞いて、大祐は思わず大きな声を上げてしまう。
「確かに意外よね? お嬢様方の見本って感じだもの」
「ああ。俺達にもきさくに話かけてきたり、差し入れもくれたぜ?」
皐月と田丸も大祐と同じように驚きを隠せない。
思い出すかぎり彼女は優しく、穏やかな淑女の鏡という人物だ。その人が裏社交界に関わっているとは考えてもみなかった。
「うまく猫をかぶってるってことでしょう。杉浦、調べてくれた?」
「はい。彼女の経歴ですが、幼稚部から大学まで学院で過ごしています。かなりの名門出身で、父親は国会議員。祖父は、元総理で母方も同じような家柄です。彼女自身かなり優秀で大学卒業後は父親の秘書にと望まれていたようですが、現在は母校で教師です」
「つまり、彼女は青田買いされた。そして、自分と同じように優秀で将来性のある生徒の青田買いをしている」
ということは、他の名門校でも同じように生徒の値踏みをしている教師がいるということか。
同じことを考えたのか、皆一様に顔を見合わせ溜息をつく。
「とりあえず、乗り込んでみるしかないでしょうね」
「そうだろな。でも、彼女を逮捕したところでケリがつく問題でもないだろな」
田丸は、天井を仰ぎ肩を落とす。
「十中八九、主催者まではたどりつかない。彼女が主催者に切られて終わり」
「やっぱり、主催者を取り締まるのは無理ですか?」
大祐の言葉に沙紀は即答する。
「無理よ。よしんばうまくいったとする。でも、主催者が裏社交界の参加者名簿を公表したりなんかしてメンバーの取り締まりをしたらどうなると思う? 間違いなく国が沈む。別に今回はそこまでするつもりはないの。あの薬の流通を止めさせる、それが今回の目的。主催者との直談判が出来ればベストなんだけど」
それが一番難しいと特異課のメンバー全員の顔に書かれている。
「あとは接触あるのみよ。で、杉浦もう一つの件は?」
沙紀の言葉に杉浦は、狼狽する。
「よろしいのですか?」
「いいのよ。どうせ、皆事情を知ってしまったのだし。情報は持っておいたほうがいいわ」
突然始まった二人のやり取りに大祐達は、首をかしげる。
「何の話ですか?」
「沙織が動いている理由に関すること。どうやら、水鏡の一族内部でごたついてるみたい。多分、それが彼女が直接動く理由」
「でも、沙紀さんは干渉する気はないって言ってませんでしたか?」
「何が起きるか分からないのが私たちの現場なのよ。少しでも不確定要素を埋めておかないと、命取りになる」
沙紀は、大祐達と一人ずつ目を合わせて注意を促す。
「それで、杉浦さん。何か分かったの?」
皐月が問いかけると、「噂ですが」と前置きをしてから語りだした。彼の一族で一体何が起きているのかを。