第61話:違和感
コンコン。
病室のドアを叩く音に気がつき、沙紀は手にしていた書類から目を上げる。
「はい、どうぞ」
「失礼する。どうだ、具合は?」
その声の主に沙紀は、苦笑しながら答える。
「絶好調よ? それは嫌味かしら? 沙織?」
「一応、病人の元を訪れるんだから間違ってはいないだろう?」
至極真面目に答える沙織に沙紀は、呆れながらも席を勧める。
「他のメンツはどうしたんだ?」
病室内を見渡し沙織は、首をかしげる。
「一応、今は学院の職員ですからね。私と違って休むわけにはいかないのよ」
「それもそうか。話すなら一度で済ませようと思ったんだが」
沙織の言葉に沙紀は、ピンとくる。
「どうやら動きだしたようね? あちらさんは」
「そういうことだ。まずはこれを読んでくれ」
沙織は、ボレロの内ポケットから白い封筒を取り出し沙紀に手渡す。それを受け取った沙紀は、中からカードを取り出し黙読する。
「これをあなたに手渡したのは?」
「安藤先生だ」
自分達の担任をしていたあの若い女教師。彼女が裏社交界のメンバー。
「ふーん、あの先生がね。人は見かけによらないってことか」
「そうだな。普段のあの人ならそうだろうが、これを渡した時に見せていた顔は、まさにぴったりだぞ」
少しばかり身辺調査が必要かもしれない。この分だとあと一人や二人、関係者がいたとしてもおかしくはない。
「で、どうする?この招待とやらは受けるだろう?」
「当然ね。さっさとこの事件にけりをつけないと。じゃないと……」
「じゃないと?」
突然に言葉を切った沙紀に続きを促す。すると沙紀は軽く肩をすくめて言った。
「じゃないと溜まったデスクワークで発狂したくなるもの」
「確かに大変そうだな」
沙紀のベッドの周囲に置かれた書類の束を見て沙織は、頷いた。
「いつ退院するんだ?」
「数日中にはね」
「退院したら詳しく打ち合わせをしよう。準備は念いりにしないといけないからな。じゃあ、また」
「ええ」
沙織は立ち上がると軽く手を振りドアへと歩いて行く。その後姿に沙紀は、ずっと感じていた違和感をぶつける。彼女の記憶と共に甦った昔の記憶と今の違いを。
「沙織、あなたの主はどうしたの? あなたの主は、彼女のはずよね? 総領を補佐していた彼女」
昔、一度だけ会ったことがある水鏡の総領姫。その傍らには実戦に出ることが叶わない彼女の代りに名代や影を勤めていた彼女の異母姉とお付きを務める流花の姉。そしてその異母姉のお付きを務めながら主と共に総領の補佐を務める流花が柱の影にいたはずなのだ。
その言葉に動揺したのか沙織の体が固く強張る。
「…………私の主はもういない。今は姉と同じく姫様付きだ」
少しかすれた声でそう呟くと振り返ることなく沙織は病室から足早に去っていった。
「左京の言った通り、水鏡の内部で何か動きが? 調べたほうがよさそうね」
沙紀は、病室の電話と取ると何処かへと電話をかけ始めた。
少しづつですが、進んでます。
何とか100話以内に収めたいのですけども。
自分でも予測不可能になってます。
人物紹介です。
九重 礼一
年齢は、50歳。特異課の責任者を創設時から務めてます。
沙紀の父親とは友人でした。
見た目は、40代で十分通用する紳士。
年の離れた奥さんがいて、彼女と一緒に沙紀を育ててます。
九重さんちのヒエラルキーのトップは、奥さんです(笑)
とりあえず、主要メンバーの紹介は終了。
他に気になる人物がいるよーという方がいらっしゃれば、気軽にメッセージをください。
誠心誠意、書きますので(^0^)