第60話:主への疑問
主の使いを終えた少女が向かったのは、自分達の本拠地。主が私有する山の奥深くに建てられた広い平屋造りの屋敷。
その屋敷の地下に造られた土の壁がむき出しの空間。その部屋にあるのは、地下から湧く水で出来た小さな池のみ。
何も生き物がいないのかその水面は、時折吹く風が小さい波紋を作るのみだ。しかし、その水面が急にいくつもの波紋を作り始める。そして一瞬、目も眩むような光と共に水柱が立ち上ったと同時にその水柱は消滅する。
そして消えた水柱の代りに池の中央に少女が立っていた。
「…………ただいま」
自分の声に答えてくれる人間がいないと、もういないのだと分かっていても習慣が消えることはない。
自分が戻るのをいつも待ってくれていた彼女がいないことに慣れるのはいつのことだろうか。
何を馬鹿なことを考えているのだろうと思わず少女は自嘲の笑みを浮かべる。
「遅かったな、千夏」
突然聞こえてきた声に驚きその声の主を探す。すると屋敷へと続く階段に少年が膝を立てて座っていた。
「どうしたの? 涼」
千夏は、少年の元へと向かいながら問いかける。
「別に。暇だったから、昼寝してただけだ。ここは涼しいからな」
「そう。マスターは?」
涼に暑さは無縁なのは分かっているが、自分の帰りを待っていたなど素直に認めるはずもないと思った千夏は、追及を止める。
「マスターなら、表の仕事だよ。早速、彼等は色々と問題を起こしているようだしね」
涼は口元を歪め笑う。
「分かった。ねぇ、涼。マスターは何を考えているのかしら?」
「は?」
突然の千夏の言葉に涼は、首をひねる。
「今回のこと。何であんな粗悪品をわざと流して問題を大きくするのかしら? そんなことしたら足がつくのは当たり前。あの社交場と責任者を切ってしまえばいいだけのことだけど、何故なのかしら? まだ、利用価値はあると思うけど」
「マスターの考えなんて僕等に想像出来るわけないだろう?」
「それはそうだけど。やっぱり、彼女に関係することなのかしら?」
「その可能性はあるだろう。彼女の完全な覚醒を促しているつもりなのかもしれないし。でも、覚醒したところで無駄だろう?」
その言葉に千夏は涼が言わんとしていることに気づく。
「そうね。あの眠り姫がいるかぎり、彼女が私達に対抗することは出来ないもの」
彼女が何よりも大切にしているあの方がいるかぎり。
あけましておめでとうございます。今年も頑張って書きたいと思ってますのでよろしくお願いします!
ついに、嵐は突然にも出た彼らを出せました。
マスターも早くだしたいです。でも、きっと最後まで出てくれない気がしてならないです(爆)
人物紹介、今回は彼です。
田丸 恒久
年齢は27歳。攻撃面や、彼特有の能力で活躍中。
逮捕歴有り。その刑の代わりにこき使われてますが、本人も自分の能力が正しいことで使えるようになり嬉しかったり。
皐月姐さんに惚れているようですが、相手にされていません。何より、彼はお酒が飲めないので対等に扱ってもらえてないようです。
次は、課長かな?