第58話:招待状
沙織が病院を訪れた翌日、病院から華音の意識が戻ったという報せを受けた学院では安堵の溜息が生徒・職員から出た。
その中でも担任である安藤やクラスメイト達からは、大きな喜びの声が上がった。
「天見さんは、あと一週間程で退院だそうです。午前中に病室に行ったけれど顔色も良くて早く学院に来たいと言っていたわ。授業が少し遅れているから皆さんもサポートしてあげてちょうだい。では、本日のHRを終了します」
安藤が話を締めくくると同時に日直の声が響き渡り、帰りの挨拶を済ませると皆、足早に教室から去って行く。その様子を見送った沙織は、一人、遅れて席を立つ。
「三瀬さん。ちょっといいかしら?」
「はい、何でしょう?」
沙織は、安藤が立つ教壇へと向かう。
「この間の試験、見事でした。この地域の他の学校の生徒を抑えてトップに立ったあなたを誇りに思うわ」
「いえ、たまたまです」
自分の言葉に謙遜してはにかむ沙織を見て安藤は、微笑む。いつもの清廉な印象を持つ教師としての笑みではなく、それとは対称的な妖しい笑みを。
「おめでとう、あなたには招待状が来ています」
「招待状ですか?」
何のことかまったく分からないという困惑の表情を浮かべる自分の生徒に安藤は、更に続ける。
「あら?あなた程の家格なら聞いたことがあるのではないかしら?」
「!?」
自分の言葉に過敏に反応した沙織の姿に、持っていた手帳から一通の手紙を取り出し沙織へと差し出す。
「あなたは資格を得たのよ、裏社交界に出席する資格をね。次の集まりであなたを他の面々に紹介出来るなんて嬉しいわ。それと、くれぐれもこの事は内密にね?」
その言葉に、コクリと頷く沙織を見て満足そうにほほ笑むと安藤は教室を去って行った。
それを見送り自分の周囲に人の気配が完全に無くなるのを確認した沙織は、渡された招待状を取り出す。そこにはこう記されていた。
『次の満月の夜、礼拝堂の扉は開かれ宴が催される。
君にその宴への参加資格を与えよう。
20時に礼拝堂へ来るといい。
そこには、君の輝かしい未来へと続く道があるだろう』
最後まで読み終えると沙織の口からは低い笑い声が出る。
「ふふふっ。分かりやすい奴らだな、まぁいい。こちらもさっさと終わらせてしまいたいからな。それにいい手土産が出来たしな」
沙織は招待状をボレロの内ポケットにしまうと軽い足取りで教室を後にした。華音の待つ病院へと向かうために。
さぁ、話を加速させていきたいと思います。
では、人物紹介。
九重 沙紀(天見 華音)
年齢、18歳。幼い頃、一族の制裁により家族と記憶を失う。
学園への入学を機に特異課の課長・九重 礼一の養子となる。
人とのコミュニケーションが苦手。
大祐は、昔飼っていたタロに似ているせいか例外。
でも、若干そうではない感情もあったりなかったり。
プリンが大好物な可愛い一面もあり。
次は、姐さんです(笑)