第57話:それぞれの思惑
流花が去った病室では、緊張を強いられていた沙紀以外の人間が溜息をつく。
「沙紀さん。いいんですか?」
ソファーに座りくつろぐ沙紀に問いただす。
「何が?彼女と共同戦線が張れたのよ、大収穫じゃない」
「警察の人間である我々が制裁を容認した上に捜査放棄とも取れる発言をしていいんですか?」
「捜査放棄なんかしてないわよ。ただ、おえら方はほっといてもあちらがかたをつけるでしょう。それにもう彼等のポストは別の人間に交代したんだもの、遅かれ早かれ目覚めるわよ」
確定事項のようにあっさりと言う沙紀に大祐達は顔を見合わせる。
「だったら、私達にくだった捜査命令も解除されるんじゃないかしら?」
「そうだぜ、俺らは政府のおえらいさん方を目覚めさせる為に捜査してたんじゃなかったのか?」
「そうよ。でもその過程で一般の若者にまで被害が出ていることが分かったのよ? 今さら自分達が助かったからもういいですなんて言わないでしょう。それに……」
「それに、何ですか?」
大祐がうながすと沙紀は不敵な笑みを浮かべる。
「それに某一族が事件に関わっているとなれば、自分達のメンツを守る為にも命令撤回なんて出来ないわよ」
その言葉に大祐達は納得させられた。自分達・特異課の創設理由を思い出したのだ。
「あとは解毒薬だけど、これを特異研で解析するように言っておいて」
沙紀は、手に持った小瓶を軽く振りながら笑った。
「あれ、沙紀さん。その小瓶」
「どさくさにまぎれてちょろまかしたな」
「あらら、誰かさんの手くせの悪さがうつったわね」
「そんなもん、うつってたまるか」
皐月の言葉に田丸は、弱い声で抗議した。聞いてはもらえなかったが。
病室を後にした流花は、時間外受付を通り院外へと出た。
そして携帯を取り出し、ある番号へと電話をかける。
遅い時間だが、仕方ない。
数コールの後、相手が電話へと出る。
「流花です。遅くに申し訳ありません、例の件で」
そう伝えると電話の相手は、鈴の音のような笑い声をあげ言った。
「華音殿にはめられたようね?」
「はい、見事に。もしや、見ておられましたか?」
「ええ、彼女の顔が見たかったの。元気そうだわ、大分昔と感じが変わったようだけど」
「世間の荒波に揉まれた結果でしょう。ということで、よろしいですか?」
「かまわないわ。こちらが行う事に対しては、手を出さないと約束してくれているのだから。流花、彼女の言葉を貴方はどう思う?」
主の言葉や声に硬さが加わったの感じ取った流花は、今までとはうって変わった真剣な声で答える。
「彼女の忠告は多分彼等に対してのものだと思います。姫様自身で見極めろとおっしゃいました。誰が味方で誰が敵なのかを」
「彼女の忠告です、何かがあると思って間違いないでしょう。もう少し彼等を調べてから接触することにしましょう」
「どうか、お気をつけて。流衣がいるとはいえ、危険です。内にどれだけ敵がいるかも分かりませんから」
「大丈夫。彼もいるから。だから流花こそ気をつけてちょうだい。そして早く帰ってらっしゃい」
「もちろんです。では」
流花は、電話を切り後ろを振り返り先ほどまでいた病室へと目を向け呟く。
「さっさと一緒にゲームを終わらせようか、華音」
さっちゃんは、基本的に上の人間が大嫌いです。
だから、彼らに何が起きても事務的に処理するだけでなのでした。
ここから人物紹介でもしようかと。
まずは、彼から。
大熊 大祐
今年の春に警察大学を卒業したばかりの、24歳。
家庭の事情で進学が遅れたためこの年齢。
家族は、母と3人の弟妹達。
性格は、明るく真面目な好青年。
沙紀のことは、先輩として尊敬してるが、同じ年齢の妹がいる為どうも妹のように思っている。
この気持ちが恋に変わるのかは、神のみぞ知る。
次は、さっちゃんです。