第55話:沙織の正体
驚きの色を隠せない沙織の手から小瓶をもぎ取り、再度沙紀は問いかける。
「やっぱりあなただったのね。残念だわ」
沙紀はベッドから起き上がると入口近くの電気のスイッチを押す。
すると部屋は一気に明るくなり、沙織は自分に銃口を押しつけている人物の顔を見て驚く。
「…………大熊先生?」
「動かないで。ここから逃げるのは無理だ。大人しくするのなら、身の安全は保障する」
沙織は、大熊の言葉の意味と何より今まで見ていた学校での姿のギャップにただ頷くことしか出来なかった。
沙織が頷くのを見届けた大祐は、沙織の背に付けていた銃を下げてホルスターの中へとしまう。
そして沙織の背を押しソファーへと誘導した。
沙紀は沙織の正面へと座り、様子を窺う。
(一族の者にしてはあっけないわね)
「あなたは…、あなたは誰だ?」
「私? 私は九重 沙紀。特異課の刑事よ。あなたなら分かるわよね?」
「特異課の? じゃあ、名前は偽名?」
「そうね。でも、偽名という訳ではないわ。昔の名前を使っただけ」
その言葉に沙織は、喜びに震える。
「じゃあ、本物の華音で間違いないのか」
沙織の問いに沙紀は軽く肩をすくめる。
「今の私は、天見 華音であってそうでない者よ。そう、今の私は九重 沙紀だもの」
「あなたが華音であるならそれでいいんだ。でも、何故華音が刑事なんかしているんだ」
「それは記憶喪失になった特異能力を持つ子供を政府が保護したから」
沙紀の言葉に沙織は思わず首を捻る。
「例え、記憶喪失になったとしても焔の一族に保護されているはずではないか」
「一族に保護されることを私の精霊達が是としなかったのよ。焔の者達は私が生きていることを知らないの。知らせるつもりもないしね。今の私はまだ動けない、色々とリスクがあるしね」
沙紀の最後の言葉に沙織は、今の沙紀の置かれている状況を悟る。
「一族に接触を好まないあなたが、私に刑事として接触してきた意図はなんだ?」
「その前にあなたの本当の名前を教えてくれないの?」
「そういえば名乗っていなかったな。私の本当の名は、水木 流花という」
水木 流花―――その名前を聞いた瞬間、沙紀の脳裏に昔の記憶が甦る。そう、幼い頃何度か会ったことがある。
姉様に連れられて水鏡の本家を訪ねると、水鏡の総領姫の傍らにいつも3人の少女がいた。その内の一人が流花だった。
「驚いたわ。まさか水鏡の総領付きのあなたが何故こんな潜入任務なんか」
(こんな潜入任務なんか普通ならしないものね。慣れてないのに納得だわ)
「それは今回の件は私が責任をもって決着を付けねばならないことだからだ」
名前が有りすぎてだんだんと混乱しはじめました。
これで事件が動き出すはず。
頑張ります。