第51話:長い夜
病室に戻った五人は、沙紀が意識を失っていた間の出来事の情報を確認する。
「沙織が?」
大祐達から話を聞いた沙紀は首をかしげる。
(彼女が能力者? そんな気配は感じなかったけど)
「水漏れをさせていたんですよね?」
それまで黙って話を聞いていた杉浦が口を挟む。
「そうです。田丸さんの話では結界を張って目くらましまでしていたそうです」
「もしかしたら…」
「何か知ってるの?」
沙紀が問いかけると杉浦は、ゆっくりと語り出した。
「一族の人間数人とコンタクトを取った時に聞いたのですが、何やら水鏡の一族で問題が起きたそうで水面下で動きがあるようです」
「水鏡で?………そういうことか!?」
杉浦の言葉で沙紀の中にあった事件に関するいくつかのピースがはまりこむ。
「さっちゃん、何か分かったの?」
皐月が聞くと沙紀は大きく頷く。
「実は、私が意識不明になったのは事件とは関係ないの」
「関係がない? でも、実際さっちゃんの症状は事件の被害者達と同じだったぞ?」
「一族についてのことも知られちゃったし隠すのはやめるわ。私は呼び出されたのよ、他の一族の精霊にね。その精霊の属する一族と私には因縁があったから、心配した2人にお説教されていたのよ。私の意志で行ったんじゃないのに」
その時のことを思い出したのか沙紀は、脹れっ面をする。
「因縁というのは?」
「光輝の一族の精霊だったのよね」
「光輝の!?」
沙紀の言葉に杉浦が慌て出す。
「何故、光輝の一族の精霊がお嬢様を?」
「そう、でも彼はどちらかというと味方側ね。今のところだけど」
沙紀は軽く息をつき肩をすくめた。
「で、その精霊とやらの目的は何だったんだ?」
「事件の背後には春の事件を起こした首謀者がいること。あとは、闇珠と水鏡が動き出したこと、そして事件に使用されたのは迷夢の秘薬と呼ばれるものが使用されたこと。これらの情報を流しにきてくれたの。私や家族に起こったことを防げなかったのを申し訳なく思っていたみたい」
「まぁ、それぞれ立場があるんでしょうね。それで、迷夢の秘薬って何なのかしら?」
「多分、眠り薬。製造できるのは、水鏡の一族の本家に近い者だけって話。解毒薬については近くにいる一族の人間に聞けばいいって」
「水鏡ってことは、力は水。つまり、三瀬 沙織はその一族の人間ってことですか?」
「正解よ、タロ。それに加えて思い出したの、私小さい頃に彼女に会ったことがあると思う。そして彼女の家に伝わる秘術が確か傀儡の術」
「傀儡ですか?」
見知らぬ言葉に大祐達は戸惑う。
「一般的な傀儡の術は、人の意思を縛り意のままに操る術。でも、彼等の術はその人間の魂を体の奥底に押し込めて自分の魂を寄り付かせその体を思いのままに操るの。だから、皐月ちゃんが精神連結で感じた違和感はそれだと思う」
「つまり、他人の体を操っているのね、彼女」
人の魂を縛りつけ思いのままに操る、はっきり言って不快だと大祐は思う。
「多分、彼女は薬で意識不明になった体を使っているのよ。何か目的があってね。だから、まず彼女を問いたださないといけないわ」
「でも、そんなことまでして学校に潜入しているのなら素直に話さないと思うわよ」
「罠をはるの」
「「「罠?」」」
沙紀は、二コリと微笑むと仕掛ける罠の詳細を告げた。
「悪いけど杉浦もここから事件の捜査に加わってもらうわよ」
「もちろんです」
それから、各々の役割を指示されながら話合いは続く。
こうして特異課の長い夜は更けていったのだった。