第49話:親心
「小姫にとってお前達は大切な存在なのだ。記憶がない自分を大切にしてくれた仲間を危険には巻き込みたくない。だからこそ、全て秘密にしようとしている」
目を伏せて呟く炎輝の顔には深い悲しみが見て取れた。
「沙紀さんは、昔の記憶が戻りつつあるんですよね? なら何故あんなにも一族に対して嫌悪感を持っているんでしょうか。同じ焔の一族の方々もいるのに」
そう記憶が戻ってきているのなら、責任感の強い沙紀さんなら一族に戻って一族をまとめようと考えてもおかしくない。戻って、自分の命を危険にさらすことになっても。
「今の小姫は、天見 華音であってそうではない存在。記憶が戻っていると言っても知識として戻っているのであって経験として戻っているわけではない。九重 沙紀として過ごした十年が今の彼女だ。そして十年という時間は疑念を持つには十分な時間だ」
「疑念?」
炎輝の言葉に三人は首をかしげる。
「一族の中で育てば、他の者と同様に一族が全て。だから、自分達がどれだけ優遇されているか気付かない、それが当たり前なのだから。しかし、小姫は知ってしまった。外の世界では特異能力で苦しむ者やその力に犠牲になる者達がいること。それなのに昔から力を持っていた自分達は何もせずに人々を放っておいているということに気づいた」
確かにそれを知ってしまったら自分の中に大きな矛盾が生じるだろう。それまで信じていたことを肯定する自分と否定する自分、それはかなりきついことだと思う。
「それに、小姫の中には自分の家族を殺した一族の者達への憎しみがある。彼等を再び受け入れるにはあまりにその心は幼い」
「十分、大人びていると思うけどな」
田丸は、自分が知っている沙紀の姿や言動、考え方を思い出す。
「それは九重 沙紀という少女、天見 華音ではない。そして記憶を失くしたことで小姫の人生は一度リセットされたも同然。その上その心には未だに親を目の前で殺された幼いままの華音が一緒に存在している。彼女が本当の意味で成長しないかぎり一族に戻るという選択肢は生まれない」
大祐は、想像する。家族を殺されて一人で泣いている幼い沙紀の姿を。沙紀の内面は自分達が考えていたよりずっと複雑なのだ、きっと。
「今回、我々が姿を現した理由は一つ。許してやって欲しいのだ、小姫を。小姫は人との接し方がよく分からない子供だ。全てを理解しろとは言わない、ただありのままの小姫を受け入れる努力をしてやって欲しい。今でも仲間だと思うのなら」
その暖かい、まるで自分の子供を心配するような言葉に大祐の目から自然と涙が零れおちたのだった。




