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第46話:理由



 病室から走り去った大祐は、中庭でしゃがみこみ落ち込んでいた。

 (サイテーだ、俺。いくら腹がたったからって年下のそれも女の子を引っ叩くなんて)

 大祐は、自分の手の平を見つめて何度めかも分からない溜息をつく。

 手にはさっき叩いた沙紀の頬の感触が今も消えずに残っている。

 「ああ、どうしよう………」

 怒りからつい出てしまったセリフ。

 ――――もう一緒にバディを組むのは無理です。

 そのセリフが頭の中から離れない。

 「大祐君、大丈夫?」

 「へこんでんなぁ」

 気がつくと自分の両側に皐月と田丸が座っていた。

 「そりゃへこみますよ、引っ叩いた上にあんなこと言って」

 「そうか? お前が言ったことは正しいぞ。それに俺らもかなりひどいこと言ったから同罪だ」

 「そうよ。多分、私が一番ひどいこと言ったと思うわ。本当なら私がさっちゃんに言い聞かせなきゃいけないのにね。つい、悔しかったから」

 皐月は悲しさとやりきれなさが混ざったような表情をしていた。

 「遅かれ早かれ言わなきゃいけないことだったんだ。大祐が来る前は、俺らがつき放したら駄目だし、ずいぶん甘やかしたからな」

 「そうなのよね、あの子は人と接するのが苦手だから。大祐君の面倒を見るようになって少しはマシになったけど」

 「もうちょっと信頼してくれればいいんですけど」

 大祐の言葉に2人も大きく頷いた。

 沙紀はどこか人と距離を置いて付き合う癖がある。それは、一緒に仕事をするようになって短い自分でも感じることだ。

 「沙紀さんは人と深く付き合うことが怖いんでしょうか?」

 「そうね、あの子は無意識に失うことを恐れているの。それは、物であったり人であったり色々よ」

 「失わないで済むことなんてこの世には無いって思ってるんだろうきっと。実際、さっちゃんは家族と記憶を失ってるわけだし」

 失うことを恐れる。多分、そういった思いは人間誰にでもあるはず。ただ、沙紀の場合は幼い頃にした体験がそれを極端に強めている。

 「皆さん、こんなところでどうしたんですか?」

 突然、自分達にかけられた声に大祐達は勢いよく後ろを振り向く。

 「杉浦さん? 杉浦さんこそどうしたんですか?」

 大祐の問いに杉浦は苦笑いを浮かべながら答える。

 「少し休暇をとっている間に大変なことが起きていたみたいで。留守電を聞いて急いで戻ってきたんです」

 大祐はもしかしたら杉浦なら何か知っているかもしれないと思った。昔の沙紀を知っている彼なら。

 「杉浦さん、実は…………」

 大祐は、一連の騒動をまとめて話す。すると、杉浦は一瞬顔をしかめると大祐の話が終わるまで沈黙を守る。

 「それは、あなた方の反応は当然ですし私でも腹をたてるでしょう。でも、お嬢様はあなた方を守りたいだけなのです」

 3人はその杉浦の言葉の意味を飲み込めず困惑する。

 「杉浦さん、これ何だか分かりますか?」

 大祐は課長から預かっていた小袋を差し出す。杉浦は袋の紐をとくと中身を手に取る。そして再び中にしまう。

 「これは、闇玉ですね」

 「闇玉?」

 「ここ最近特例名簿者が狂う事件が多いでしょう。それには狂わす原因があるんですがこれはその原因をある力で包み込む玉にしたものです」

 大祐はその言葉に袋を凝視する。

 「でも、なんてさっちゃんがそんな物を持っているのかしら?」

 「多分、訓練の為だと思います。お嬢様を含め少数しか使えない能力の訓練の為に。これから事件が増えていくにつれて必要ですから」

 つまり、ここ最近の沙紀のハードな訓練はその力を使う為?

 「でも、特例名簿者の事件はあの一族の管轄ですよね。だったら別に訓練する必要は無いのでは?」

 「いいえ、これはお嬢様が負うべき責任を果たす為に必要不可欠なのです」

 「沙紀さんが負うべき責任ですか?」

 「そうです」

 杉浦は、大きく頷くと同時に少しだけ憐れむような顔をした。

 「能力者が関わるなら特異課の管轄です。俺達にだって何か出来ることはあるはずだし、たよってくれてもいいじゃないですか! それとも何か理由があるんですか?」

 「それに関してはお話できません」

 そう強く宣言すると杉浦は、その場を去ろうと歩き出す。しかし、次の瞬間杉浦は、振り返り驚きの表情を浮かべる。

 その視線を追って行くと近くの木に背を預けた青年の姿がある。大祐達の視線を受けてその青年は一歩、一歩近づいてくる。そして、大祐の前に立つなり言った。

 「それが一族に生まれた彼女の宿命。一族の者として生まれた瞬間に負った義務であり責任だ」

 青年と目を合わせた瞬間、大祐は自分の体中に鳥肌がたつのを感じそして強い恐怖感を覚えた。

 微かに震える体を抑えようとしながら思った。

 自分は以前にも同じような感覚を味わった、そうあの少年達と一緒にいた青年が近くに寄った時と同じだ。ということは彼も…………。

 「あなたは人ではありませんね?」

 「そうだ。俺は焔の一族の伝わりし宝刀・聖焔せいえんに宿る精霊・炎輝えんきだ」


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