第44話:精神連結
「どうだった?姐さん?」
「ふぅ、やはり彼女ただ者じゃないわね」
沙織が去った反対側の廊下の角から出てきたのは、白衣姿の皐月と用務員の制服姿の田丸だった。
不可解な視線を感じた大祐が、急いで連絡を取り2人に対処をまかせたのだ。
そして部屋の中に気配を感じた2人は、田丸が遮断結界を張り皐月が部屋から出てきた沙織に対して精神連結を心みたのだった。
『精神連結』とはその言葉が指す通り他人の精神に侵入し情報を得ること。その能力は、生半可な能力者が使用することは不可能である。催眠暗示に長けている皐月だからこそ使用出切る能力だ。
「まさか…………」
皐月の困惑した表情を見て田丸は嫌な予感がする。
「ええ、見事に失敗。見事に遮断されたわ。こんなのさっちゃん以来初めてよ」
皐月はくやしそうに顔を歪める。
皐月の精神連結は、本当にレベルが高く特異課内でそれを跳ね除けることが出来るのは沙紀ただ一人である。
田丸でさえ、皐月が本気になったら数秒と持たないだろう。
「というか彼女の精神内にちょっと違和感があったのよね」
「違和感?」
「ええ。彼女の中に二重に心が存在しているイメージがね。三瀬 沙織というあの少女の精神が何かを守るように包んでいるみたいな」
自分の中で確信が持てないでいる皐月は、沙織が去った今はもう誰もいない廊下を見つめる。
その時、同じように廊下を見つめていた田丸の携帯が鳴る。
「はい?おお、どうだった?ありがとさん、ああ代金はいつもの口座な」
田丸が通話を終えるとすぐメールが届く。そのメールを開けて、すべて読み終わると皐月へと回す。
そこにはこう書かれていた。
三瀬 沙織は数週間前に入院し、それ以降性格が少し変化したらしい。以前の彼女は寡黙で生真面目。そして少し陰気な部分があったという。しかし、退院してからの彼女は社交的で明るくなったと。
もちろん、能力は無い。
まぁ、この年代の少女なら何かをきっかけに性格が変化するということがあってもおかしくはない。おかしくはないが、これは偶然なのだろうか?
皐月は思わず首を捻りメールを読み続ける。
(入院した原因は…………睡眠障害!)
「偶然なんかじゃない」
「ああ。なぁ、入れ替わっているって可能性は? 俺達でさえ難なく潜入してるんだし」
「可能性はないわけじゃないけど。でも、それなら生徒達が気づくでしょう?」
「確かにな。でも、性格の変化は? それこそおかしいと思わないか?」
「でも私の連結を遮断するくらいだもの、催眠暗示が得意ならそれでどうにか出来るでしょう。入れ替わる必要性はないと思うけど」
2人は頭を抱えてしまう。
あまりにも彼女には謎が多い。まだそれをとくピースが見つからない。
「とにかくしばらく様子を見ましょう」
皐月がそう結論づけると今度は皐月の携帯が鳴る。ディスプレイを見ると課長からである。
「はい、藤田です。…………本当ですか! はい、分かりました」
皐月の横で通話が終わるのを待っていると突然皐月の嬉しそうな声とうっすら涙が瞳に溢れているのを見た田丸は、その電話の内容が分かった。
通話を終えた皐月は、大きく息をつくと田丸に勢いよく抱きつく。
「さっちゃん、目を覚ましたって。…………良かった」
そう言って微かに震える皐月の背に腕を回しその背を優しく安心させるように田丸は叩いた。
(これで一安心だな)
廊下の窓から見える青空を見ながら田丸は、安堵し喜んだ。
――――自分達の大切な妹の帰還を。