第42話:視線
「おはようございます」
大祐は職員室の自分のデスクへと歩きながら、他の教師と挨拶を交わす。
「おはようございます。大熊先生」
近づいてきたのは、この学院の生徒会顧問の教師・安藤だった。
「おはようございます、安藤先生。何か生徒達が騒いでいるのが聞こえたんですが…」
そう、大祐は校舎に入るなり生徒達が何か興奮したように話している姿を職員室に辿り着くまでに何度も見かけ不思議に思っていた。
そんな大祐の問いに安藤は苦笑しながら答えてくれた。
「昨日の放課後、天見さんを迎えにお家の車が来たようで出迎えた執事さんが格好良かったらしく学院中の噂に」
執事という言葉に大祐の脳裏に左京の姿を思い出される。確かに彼が迎えに来たのだとしたら大変な噂になるだろう。
それにこれで沙紀が持っていた見取り図の出所が分かった。
きっと彼が沙紀に頼まれて手配したものだろう。だとしたら、あの小袋も彼が手配したものだろうか。
「大熊先生?」
急に黙りこんでしまった大祐を不審に思ったのか安藤が困惑気味に声をかける。そんな安藤に大祐はにこりと笑い話かける。
「すみません。だとしたら、天見さん大変でしょうね」
「……ええ。でも、体調をくずしたらしくしばらくお休みだそうです」
「そうなんですか? じゃあ、休んでいる間に少しはこの熱気が冷めているといいですね」
「まったくですわ」
それから安藤と当たり障りのない会話をし、朝の会議に出席してから大祐は自分の居場所にしている社会科準備室へ向かった。
そして無人の室内に入りデスクの椅子に座る。
「左京さんに、見取り図か」
椅子の背に大きくもたれかかりながら呟いた大祐は、室内をぐるり見渡す。
(あるはずのものが隠されている。図書館の地下への入り口や水漏れ。共通点はどちらも怪しいか)
こういう時、自分の無能力さが悲しくなってくる。春から訓練を開始して出来るようになったことと言えば一瞬だけシールドを張れるようになったのと少しばかりカンがするどくなったことだけだ。
「どうにかしないとな…………」
思わず漏れ出た愚痴に大きく溜息をつくと、大祐は教科書を手に立ちあがる。授業をする気分ではないが臨時とは言え教師である。頑張って授業をしなければ。
扉に手をかけ廊下へと出ようとした時、一瞬だけ視線を感じ取る。とっさに振り返るがそこにはいつもと変わらない室内があるのみ。
しかし、昨日とは何か違う違和感を感じるがその正体は分からなかった。どうしようかと考えている時、始業のチャイムが響き渡る。
「行くしかないか」
大祐は視線の正体を探ることは諦めて部屋を後にした。




