第35話:情報提供
今回、今までで一番長いです。
携帯から見るかたには、本当にごめんなさい。
光炎は沙紀の横に座ると沙紀の姿を眺め、嬉しさや哀しさが入り混じった瞳で見つめてくる。
居心地がよくない沙紀は、光炎に背を向けてしまう。
「大きくなられて何より。安心した」
「何で貴方が安心するのよ」
光炎は、自嘲気味に笑いながら答えた。
「一族の暴走を抑えられなかった。そのせいで焔の当主夫妻の命は絶たれ、姫の姉妹達は行方不明だ。光輝の当主に仕える身の上としてはかなり情けない」
「でも、貴方は私が生きていることは知っていたのね」
「ああ」
「貴方の主は知っているの?」
「教えてはいない。正確に言えば、現在私と契約している者はいない。候補者はいるが」
「あの男でしょ?遠目にだけど見たことがあるわ」
沙紀は、記憶にある一人の青年の姿を思い浮かべる。
「いつも難しそうな顔をして、人を拒絶してる」
「彼もまた被害者だ。その結果、他者を受け入れることが出来なくなってしまった」
「加害者は私の父様や母様って言いたいのでしょ?」
光炎は、黙って首を振る。
「私は黒幕は他にいると思っている。何しろ、君の母は……」
「光輝の前当主の異母妹だから」
沙紀の言葉に光炎は大きく頷く。そして腕を組み、昔のことを思い出しながら話し続けた。
「この事は誰も知らない。知っているのは、君の父と前当主のみ。母は違っていたが、2人はとても仲の良い兄妹だった」
「兄の為に影として一族内の綱紀を正す任につくほどにね。結婚を機に母様は任をとかれたけど前当主に対する忠誠と親愛はゆるがなかった」
「その事実を知る者はいなかった。それ故のあの暴走だ。だから、華炎達が君を隠すと言った時、協力したのだ」
「貴方が!?」
思いがけない言葉に沙紀は瞳を大きく開いて驚く。
「と言っても、口をつぐんだだけだが。一族に対しても他の精霊達に対しても」
「まぁ、そんなもんでしょ。聞きたいことがあるの」
「実は私も君に忠告があって呼んだんだ」
沙紀は、だったら最初から迎えに来いと言いたかったが時間を無駄にしない為に話を続ける。
「貴方は、私のことを誰にも話していないと言ったわ。でもね、春先に噂が流れたようなの。実際それを辿った人間もいるし、私にケンカを売りに来たやからがいたわ」
「私の忠告は正にそのことだ。どうやら光輝の幹部の中に自ら邪に堕ちた者がいるようだ。そしてその者は確実に勢力をのばしている。他の一族にも」
その言葉に沙紀は、春の事件で出会った少年と少女を思い出す。
「ふーん、マスターとやらは相当のやり手なのね。風と水に手を出すほど」
「それに加え、闇珠と水鏡が動き出したようだ。現に眠り病が流行っているのだろう?」
「貴方、何でも知っているわね?彼も知りながら手を出していないの?」
「今は足場固めの時期と思っているらしい。それに被害者は一般人だけだからな」
「本当最悪ね!面倒事は全部丸投げじゃない」
沙紀の憤慨した様子に光炎は、すまなそうな顔をした。
「だから私が情報を流しに来た。それで勘弁してもらえないか、今のところは」
沙紀は大きく溜息をつく。
「いいわよ、今のところはね。で、何で眠り病で闇珠と水鏡が動きだしたって分かるわけ?」
「眠り病、これは迷夢の秘薬を使用したのだろう。秘薬の製造方法は水鏡のそれも本家に近い者に伝わるものだからだ。患者達の症状から察するに、使用されたとみて間違いないだろう。闇珠については君が持っている物が動き出した証拠だ」
「ああ、あれね。それに関してはいいわ、今日窓口の人間にしばらく関わらないと伝えたから。で、秘薬のことだけど解毒薬はないの?」
「水鏡の者にしか分かるまい。ちょうど君の近くにいるようだから聞いてみるといいだろう」
「私の近く?」
沙紀がその人物について問いただそうとした時だった。この世界に対しての外部からの接触反応を二人は感じ取る。
「我々のテリトリーにまで触手を伸ばすはとはな。残念だが時間切れだ。道を開くから急いで戻りなさい」
光炎は、沙紀の前に道を開くと沙紀の背を押し込んだ。
「また会おう。焔の姫君」
「ちょっと、貴方勝手すぎよ!」
沙紀の叫びと同時に光炎は道を閉ざした。
色々と一族の名前などが出てきてます。
それに関しては、始まりの風〜天の扉の物語〜という作品で触れてますのでよかったら読んでみてください。
説明しろというご要望があれば、後書きで書いていこうかなとも思ってます。
でも、ぜひぜひ両方読んでいただけると嬉しいです。