第34話:白い世界
さてどうしたものか、今の自分の状況を考えるとそんな言葉しか出てこない。
春に同じような事態に陥ったことがあるのでさほど驚きはしないのだが。前回と違うのは、自分が今一人だということ。
「適当に歩いていれば彼等の元に辿り着くかしら?」
沙紀は、そう思い立ちゆっくりと歩き始める。
とりあえず周囲を確認してみる。が、それはあまり意味がない。何せ、辺り一面白い世界で、何も見当たらないからだ。
もしかしたら私は彼等のテリトリー外に迷いこんでしまったのかしら。だとしたらまずいわね。この一面白い世界は、彼のテリトリー。
「まずったわね」
途方に暮れた沙紀は、その場にしゃがみ込む。そして、心の中で彼等を呼び続ける。
(華炎、炎輝!聞こえたら返事をして)
しかし、彼等からの返事はまったく無い。
「………しゃれにならないわね。これで私まで目覚めなかったら被害者の仲間入り?」
とりあえず、狼煙を上げて見るか。
沙紀は両手を目の前で合わせて集中する。そして紅い力が少しずつ手に集まってくる、段々と両手を広げて行く。
そうすると手と手の間に紅い球が出来上がる。野球ボールぐらいの大きさになったところでその球を思い切り上に投げ飛ばす。
上空で何かの力にぶつかり球が消失したのが分かった。針一本分くらいだが亀裂が入った。後は彼等が気づいてくれるのを待つだけである。
少々乱暴だがこれくらいしないとこの世界の主の力を突き破ることは出来ない。さすがに彼を探して自分を元の場所へ戻せなど言えっこないのだから。
(…………彼が気づくのが速いか、華炎達が気づくのが早いか。十中八九彼だろうけど………。やっぱりね)
沙紀は自分の後ろに現れた気配を察して首を回し後ろを見る。
「ちっ!やっぱりあんたのほうが先か」
自分を見て思いきり眉をしかめる沙紀を見て、現れた人物はため息をつく。
「私を探せばいいだろうに、あのような亀裂など入れなくとも。すぐに力押しで行くのは、ほめられないな。焔の姫君」
「ああしたほうが早いじゃない。それに何で敵を探さなきゃ行けないわけ?」
座ったまま、自分よりはるか上にある相手の顔を睨みつける。
沙紀が敵と言った相手、彼は光輝の一族の精霊・光炎その人だった。