第33話:目撃
「田丸君、特別棟でまた水漏れらしいんだ。見てきてくれるかい?」
田丸は初老の男性用務員に頼まれ、またかと思いつつも工具箱を手に取ると早速水漏れを直しに向かう。
「にしてもまた水漏れか。いくら歴史ある校舎とは言え普通こんなに起こることか?」
田丸は首をひねりつつも水漏れ場所である化学室へと足を踏み入れる。すると確かに教師用の実験机に備え付けてある水場のパイプからポツポツと水滴が滴り落ちている。
田丸は、道具を取りだすと鼻歌を歌いながらパイプのゆるみを元に戻す。そして同じような水漏れはないか水場を見て回り他に水漏れがないのを確認すると工具をしまい化学室を後にする。
そして階段を降りようとした時、背後で扉が開く音が聞こえる。どうやら化学室の扉らしい。もしかしたら他の人間が水漏れを直しに来たのかもしれない。
(言いに行ったほうがいいよな。やっぱり)
田丸は化学室へと引き返す。するとドアが半分程開いていた。中を覗くとそこにいたのはこの学院の生徒会長だった。
(確か、三瀬 沙織だったよな)
田丸は、声をかけるのを止めて彼女の行動を盗み見ることにした。
「………ここもか。まったく近頃やけに仕事熱心だな、用務員は」
沙織は、床にしゃがみ込み何かしている。
(何だ?)
「これでいい。ここも念のため目くらましでもかけておくか」
そう言って彼女が取り出した物を見て、田丸は目を見開く。彼女が取り出したのは、幻視結界用護符。
(何だってあんなもんを………。げぇ!!)
田丸の視線に気がついたのか沙織が勢いよく振り返った。そしてドアに近づき廊下を注意深く見渡す。
「気のせいか」
そのまま沙織は、化学室を後にした。それを見送った田丸は、沙織の気配が完全に絶ったのを確認し壁から姿を現す。田丸はとっさに化学室の隣の準備室に能力を使い逃げ込んだのだ。
「危ねぇ、危ねぇ。それにしても何だってあんなもん。とりあえず、報告だな」