第2話:危険探知犬の嘆き
「タロ。どう?コードはある?」
「にっ、二本あります。赤と青です」
「分った。好きな方を切りなさい」
「まっ、間違ったらどうするんですか!?俺より専門家にまかせるべきです!!」
そう叫ぶのはこの春、警察官になったばかりの主人公・大熊 大祐である。190以上はある長身で短髪の青年であり、ニックネームはタロ(沙紀限定)そして自分の能力を生かし、危険探知犬として日々活躍中である。
「大丈夫。男でしょ?スパッと切っちゃいなさい」
「関係ないですから、それ。あー、あと30秒しかない!!」
「さっさと覚悟決めて切りなさい」
そう言い残すとインカムの接続を切られた。
「さ、沙紀さんの人でなし――――――――!!」
大祐は、悲鳴にも似た叫びを上げる。しかし、そんな大祐をよそに時間は刻々と過ぎていく。
ゴクリ!!
大祐は、唾を飲み込み手にしたペンチで赤いコードを挟むと口のなかで神様に祈り、思い切ってコードを切る。
パチン!!
大祐は目を恐る恐る目を開けるとタイマーは残り5秒で止まっていた。
「たっ、助かった・・・・・・・」
大祐は、助かった安堵感とそれまでの緊張が解けたせいかその場に座り込む。
「おお、大祐!止まったみたいだな?」
後ろからポンと肩を叩かれ、振り向くとそこには、特異課の先輩である田丸 恒久が立っていた。
恒久は、特異課のホープと呼ばれる青年で大祐よりやや小柄で肩までの長髪を結ったタレ目のイケメンである。空間転移という特異能力の持ち主だ。
「田丸さん。死ぬかと思いました。・・・・・・・ところで何故ここに?」
「さっちゃんがもし駄目な場合、俺の空間転移でこのビルの地下に逃げ込めって指令があったんだ」
「ははははは、見捨てられたかと思った」
「失礼ね。さっちゃんがそんな事する訳ないでしょ?」
何時の間にか再接続がされたインカムから、同じく先輩の藤田 皐月の声が響く。皐月は、容姿端麗スタイルも抜群。肩までの髪にソバージュをかけた色っぽい女性で特異課の花と呼ばれている、その酒癖の悪さをのぞけばだが。その力は催眠暗示と結界創造である。
「だって、普通、素人に爆弾処理させますか!!」
「しょうがないでしょ?その形式の爆弾って最後は二択なんだもの。ここは、特異課の危険探知犬である君の出番よ?」
「犬じゃないっす」
大祐が低くボソッと呟く。
「あ、そうそう。さっさと撤収しないと置いて帰るわよ。二人とも」
「「こんな山の中にですか?それは勘弁!」」
大祐と田丸は、そう言うなり建物の出口へと走る。
そして出口に着いたとたん、今にも発車しそうな車に飛び乗る。
「ご苦労さま。後始末はまかせて帰りましょう」
「本当に置いていく気ですか、姐さん?」
「本部からの呼び出し」
それまで黙っていた沙紀が一言告げる。
九重 沙紀、大祐の教育係であり、特異課一の能力者。その力は、発火能力などで攻守共に優れている。
そして大祐の半分の大きさも無い小柄な美少女で、腰まで届く黒い長い髪で顔の両サイドに赤と銀の組紐を結んでいる、
「呼び出しですか?」
大祐は首を捻る。
この現場に来る前、課長は言った。
「現場は山の中だし、帰りは近くの温泉に一泊しておいで」
その言葉を聞いて、四人で楽しみにしていたのだが・・・・・・。
「何かあったんですか?」
「これ見て」
沙紀から手渡されたのは今日の新聞である。今朝、読んだ時は別にこれといった事件は無かったはず。
すっと沙紀は記事を指差した。そこにはあるニュースが載っていた。
それは、官僚が意識不明になったというものだった。
「さっちゃん。これって本人の体調不良だろう?」
「違ったの。実は倒れたのはこの人だけじゃない。他にも政府の高官や警察関係者、それも特異課に縁のある人間ばかり。そして、病院で調べた結果この人達はどこも悪くない。ただ意識が戻らない」
沙紀の言葉に三人は息を飲む。
「つまり、これは特異能力を使った犯罪だってことなのかしら?」
皐月が代表して尋ねる。すると沙紀は、首を大きく縦に振る。
「その可能性が非常に高い」
それは、特異課にとって久しぶりの大きな事件だった。