第28話:保健室
ガラッ。
「失礼します。3年の天見ですけど………」
「ああ、天見さんね。聞いているわ、座ってちょうだい」
座っていた椅子をクルリと回転させ、養護教諭の女性が振り向いた。
「大変ね。運動出来ないですってね」
「はい。なので体育の授業の間はお世話になります。藤田先生?」
華音は楽しそうな声を養護教諭に返す。
「ふふふっ。けっこういい響きだわ。先生っていうのも。まぁ、生徒が女の子だけっていうのがちょっと残念だけど」
「先生、本音がだだもれです」
保健室の中央にあるテーブルの椅子に座りながら華音は釘を刺す。
「それにしても遅いわね」
時計を見ながら藤田は眉をしかめる。
「大熊先生なら生徒に囲まれてました。ずいぶん人気者らしいですから」
そう言った華音の顔にはおもしろくないと書かれている。
「まぁまぁ、いいんじゃない?こんな機会でもなきゃ年頃の女の子に囲まれるなんてことないでしょ」
「…………デレデレしちゃって馬鹿よ」
そう呟く華音のしかめっ面を見て、焼きもちかしらと藤田は思う。
「遅れました!!」
どうやら噂の主が現れたようだ。
「大熊先生?ここは保健室なのでお静かに。それとドアのカギを閉めてくださる?」
「はっ、はい」
大熊は、慌ててドアのカギをかける。
それを見届けた藤田は、懐から護符を出すと「結界創生」と呟きテーブルの中央に置く。
「さぁ、もういつも通りでいいわよ」
「タロ。ぼけっと立ってないでさっさと座りなさい」
「はい」
冷たい声に大祐はやっぱり沙紀の機嫌が悪くなっていると実感した。