第27話:新任教師
転校生が来て1週間、最初はとまどいながらも彼女は、クラスになじんだ。
自分から発言するタイプではないけれど、周囲の話をニコニコと笑って聞く姿がよく見える。
(彼女は、もう大丈夫だな。問題は………)
「先生!この問題が分らないのですが」
「先生は、甘い物はお好きですか……」
沙織は、廊下で数名の女性徒に囲まれてオロオロと困った様子の男性を見て大きく溜息をつく。
(仕方ない……)
沙織は、席を立ち問題の男性の元へと向かう。
「君達!先生が困っておられるだろう?いいかげんにしなさい」
「会長!すみません」
「ごめんなさい」
口ぐちに謝罪すると少女達はあっという間にその場から逃げ出して行く。
「大熊先生?いいかげんに彼女達のあつかいを覚えていただけませんか?」
「すまない。三瀬さん、どうにも慣れてなくてね」
そう言って、男性教諭は力無く笑う。
そう、転校生が来た日。
産休に入った先生の代りとしてこの若い男性教諭・大熊 大祐がこの学院に現れた。元々、男性教諭の少ないこの学院で若くて独身の彼は生徒達のかっこうのターゲットになってしまったのだ。
「とにかく毅然とした態度を取ってください」
「努力するよ」
沙織の言葉にあいかわらず気弱な笑顔を浮かべる大熊を見て、沙織は駄目な男だと思った。
大体、体は大きいくせにどこか人が良すぎるのか生徒になめられている気がする。
「沙織。あまり先生ばかり責めてもね?」
「華音。確かにそうだが、どうにも甘すぎるんだ先生は」
騒ぎに気づいたのか沙織達の元に近づいてきた華音はクスクスと笑っている。
「先生。沙織の言う通りだと思いますわ。もう少しだけ毅然とした態度をね?」
華音の言葉にまったくだと頷いていた沙織は気がつかなかった。華音の瞳に一瞬だけ物騒な光が宿ったことを、そして大熊がひどく怯えていたことに。
「沙織、次は体育だからもう行かないと」
その言葉に次の授業を思い出した沙織は、慌てる。
「本当だ、急がないと。華音は、保健室で見学だろう?じゃあ、くれぐれも気をつけてください、先生」
「ああ」
「それでは失礼しますね?大熊先生」
沙織と華音は、連れだってその場から離れて行った。その姿を見送り、周囲に人がいないのを確認してから大熊は思わず呟く。
「ああ、後で怒られる。絶対に………」