第16話:葛藤
それから大祐と沙紀は、特異研に行って資料を探すもこれと言って今回の事件に関わる物は出てこなかった。
とりあえず、今日の捜査はそこで打ち切りそれぞれ帰路に着いたのだった。
沙紀は、本部に戻り義父である課長と共に家へと向かっていた。
その時、沙紀は春の一件以来聞くに聞かなかったことを聞いてみる。
「・・・・・・・・パパさん」
「何だい?沙紀くん」
「聞きたいことがあるの」
そう言ってじっと義父の顔を見上げる沙紀の瞳は、幼い迷子の子供のような瞳だった。
そんな沙紀を見て、課長は沙紀の小さい手を握り安心させる。そしていつもと同じ優しい眼差しで話の続きを促した。
「私が保護された時、姉様と弟達は保護されなかったの?」
「残念ながらね。捜査が打ち切りになってからも手を尽くしてはみたけれど、発見には至らなかった」
「陽兄様は?何か言ってた?」
「大分、記憶が戻って来ているようだね?」
「親しい人達のことだけだけれど」
「有里ちゃんの婚約者の彼のことだけど、十年前の一件以来行方不明らしい。彼の一族は隠しているようだけどね」
「そっか・・・・・・・・私この頃思うの。私は記憶を無くしてからの日々は、辛いけど一人じゃなかった。ううん、逆に色々な出会いがあって幸せだったとも思う。けど、姉様達はって、もしかしたら今も辛い目にあってるんだとしたら。私は・・・・・・・・」
沙紀は、何かを堪えるように義父の手を強く握り締める。
「沙紀くん。私が覚えている有里ちゃんは、姉妹思いの優しい女性だった。だから、自分のことでそんな顔をさせていると知ったら悲しむよ」
「・・・・・・・・・もし私のせいで皆が危険な目に合うことになったらクビにしてね」
俯き呟く娘の頭を課長は優しく撫でる。
「それは駄目。そんな事したら、沙紀くんは姿を消すだろう?そんなことになったらきっと皆に怒られるからね」
そう念を押すと沙紀はコクリと頷く。そんな沙紀の姿を見て課長は安堵した。
「さぁ、帰ろう?急がないと菊乃さんに怒られてしまうからね」
その言葉に沙紀は、時計を見てしまったという顔をする。
「大変!パパさん急ごう!」
沙紀は課長の腕をひっぱり速度を上げて駆け出す、自分達の家に帰る為に。
そんな二人の姿を月が優しく照らしていた。